自分本位な高卒バンドマンが「主役」を辞めたら、急に人生がうまくいきだした話

2023年4月18日

スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、はたらくことの喜びやおもしろさを感じたエピソードを語った記事をご紹介します。

企画会社の代表を務める中屋祐輔さんは、もともと高卒のバンドマンです。19歳で初めてアルバイトをしてフリーターになり、気づけば店長に、やがて本社に、そしてIT企業に、気づけば起業して社長になっていました。一度も「起業したい」と思ったことがない中屋さんが、ゼロスタートしてキャリアを駆け上がっていけた理由を、noteに投稿しました。

※本記事の引用部分は、ご本人承諾のもと、投稿記事「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」から抜粋したものです。

バンド解散、父親の病。夢と日常を失って、フリーターへ

高卒、バンドマン、フリーター。
中屋祐輔さんが19歳で社会に出たとき、背負っていたのはそんな肩書でした。

ギターが大好きで、高校進学と同時にダブルスクールに通い
「自分にはバンドしかない」
と信じていた中屋さんは、高校を卒業後はバンドマンとして本気でプロを目指します。

しかし、音楽の道は険しいもの。
軌道に乗らずくすぶっているうちに18歳になり、理容室を経営していたお父さんがC型肝炎にかかっていることがわかります。
ハサミ一本で独立したお父さんの背中はかっこよく、小さなころから憧れでした。

そんなお父さんが「もう長くない」と通告され、中屋さんはどうしたらいいかわからなくなってしまいました。
お父さんのお店を継ごうと奮闘するも、技術力も接客力も足りておらず、うまくいきません。

それと同時に、人生をかけて取り組んでいたバンドも解散することになります。
それぞれのメンバーも、結婚や留学など、人生の岐路を迎えていました。

「これしかない」と思っていたものを、あっけなく失ってしまった。ぼくは途方にくれました。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

それでも、何とか生きていかなければなりません。

「このまま親のすねをかじりつづけるわけにはいかない。とにかくなにか仕事をしなければ」

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

そう思った中屋さんは、人生初のアルバイトをはじめます。
バイト先は「仕事中も大好きな洋楽を聞けるから」というシンプルな理由で、ジーンズセレクトショップのRight-onを選びました。

Right-onこそ、中屋さんの人生を大きく変えるきっかけになった職場でした。

絶望していたから、なりふり構わずはたらけた

バンドも、実家も、大好きだった景色が失われていく。それなのに、自分はなにもできず、ただ見ているだけ。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

そんな状況で、自分の無力さに心底絶望していた中屋さんは
「もう、なにもできない自分のままじゃ嫌だ」
という一心で、がむしゃらにRight-onのアルバイトに奮闘します。

すると働きぶりを認めてもらい、契約社員から正社員にしてもらって、21才で店長を任されたんです。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

タイミングと運にも後押しされ、店長になって順調に売上を伸ばしました。
それがエリアマネージャーの目に留まり、
「本当にお前の力で売上が伸びたのか?」
「そこの立て直しができたら、実力を認めてやる」
と大阪・吹田の店舗へと異動を命じられます。
その店舗はボロボロで、バックストックには隣にある回転寿司屋から魚の匂いが流れこんでいるような場所でした。

中屋さんは悔しさをバネに、マーケティングやマネジメントの猛勉強をして店舗改革に取り組みました。

田舎の店なので、休憩時間に駐車場でランチを食べながらずーっと本を読んでいました。1日に1冊以上のペースです。本屋さんに行って「マーケティング」とか「店舗運営」の棚にある本は、ほとんどぜんぶ読みました。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

店舗のスタッフは年上ばかりでしたが、マネジメントの勉強をしたことで、うまくコミュニケーションできるようになります。

「中屋さんから聞いた作戦を実行したら売れました!」とか「頭の中が整理されて、お客さんとの会話がスムーズになりました」と言ってくれるスタッフも増えてきました。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

やがて販売数で日本一になるスタッフも現れ、お店の雰囲気もスタッフの雰囲気もどんどん良くなり、売上は全国トップ3に入るほど跳ね上がりました。

本当に実力を認められた中屋さんは、それから西日本で一番大きな施設に入っている店舗の店長を任されたり、ある役員から後押しされたり、当時の会長に提案したコピーを「買い取らせてくれ」と言われて採用されたりと、次々に大きな成果を出していきます。

勉強して、それを実行して、人が動いてくれる。結果が出ると、また次のチャレンジする権利をもらえる。

元々なにもなかったぼくにとっては「人生のチケット」をもらっているような感覚でした。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

成果を出したのに条件が悪い店舗で実力を試されるなど、逆境に立たされたこともありましたが、
求められる以上の働きをすれば、見てくれている人が必ずいて、自分を引き上げてくれる
と強く実感したそうです。

だれかを主役にするためにはたらくと、うまくいく

順調にキャリアアップしていった中屋さんですが、ついに闘病していたお父さんの余命宣告を受けます。さらにこの時、中屋さんは仕事で多くの成果は出していたものの、手元に届く意見はネガティブなものばかりで、行き詰まりを感じていたタイミングでした。
プレッシャーによる胃潰瘍にもなったこともあり、お父さんがいる大阪に戻って、IT会社に転職することを決意します。

IT会社を選んだのは、当時最先端だったデジタルマーケティングを学びたかったから。
わからないことだらけで、プレゼンを何度も突き返されました。

ぼくは数学なんてまったく得意じゃないのに「数的有意差があるのか?」「カイ2乗検定では有意差が認められます」みたいな会話をしたり、クリエイティブや分析担当と組んでABテストをしたりしていました。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

「またプレゼンを突き返されるんじゃないか」と恐怖を感じつつも、そのヒリヒリ感がおもしろく感じられました。

泥臭い努力をしつつ、また着実に成果を出していくうちに、多くの地域から仕事の相談を受けるようになります。
頼ってもらえるのがうれしくて引き受けていると、その報酬はお給料と同額レベルになり、気がついたら法人化して独立する流れになっていました。
「起業したい」なんて思ったことはないのに、です。

中屋さんは、こうしてうまくいったのは「自分が主役じゃなかったから」だと言います。
そう気づけたのは、子どものころにお父さんからよく聞いた言葉が心に根づいていたからです。

一緒にお風呂に入りながら、父がよく言ってたことがあります。
「湯船で、自分のほうに水をかき集めてみろ。そしたらどうなる? 水は逃げていくだろ」
「今度は、水を押して、お風呂の淵に向かって水をかけてみろ。そうしたら、自分のほうに返ってくるよな」
「それが商売だよ」

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

社会に出てはたらくようになり、ようやくその言葉の意味がわかりました。

10代のころ、ぼくはものすごく「自分本位」な人間でした。自分のために音楽をやっていたし、ものすごく世界が狭かった。
親父はそれを見抜いていたんだと思います。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

主役はあくまで自分以外のスタッフやお客さま。
そう考えて動くと、お店の運営もお客さまの企画もうまくいくそうです。

19歳で日常を失い、無力感で生きる意味を失った中屋さん。
「もう、なにもできない自分のままじゃ嫌だ」
と社会に出てから、多くの人に出会い、多くを学び、新しい場所へと誘われていきました。

この世界には、もっと知らないおもしろいことがたくさんある。自分の知らないところで、がんばっている人がたくさんいる。

「高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話」より

そう感じ、今は企画を通じて「生きるきっかけ」を届けたいと思ってはたらいています。

つらいときは足が止まりうつむいてしまうものですが、そんなときこそ中屋さんのように新しい場所に行き、新しい出会いを見つけることそのものが、心の支えになるかもしれません。

【ご紹介した記事】
高卒の元バンドマンがバイトをめちゃくちゃがんばってたら、社長になってた話

【プロフィール】
中屋祐輔/ドットボタンカンパニー代表取締役
dot button company株式会社 代表。元バンドマン。「ライトオン」のアルバイトからキャリアをスタートし、2017年に独立。自治体や企業をつなぎ、ビジネスで社会課題を解決する「企画屋」です。全国60地域・100以上のプロジェクトを実施。散歩と濃いめのコーヒーが好き。
https://twitter.com/nakayayusuke

(文:秋カヲリ)

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エッセイスト・心理カウンセラー秋カヲリ
1990年生まれ。ADHD、パンセクシャル、一児の母。恋愛依存や産後うつなどを経験し、現在は女性の葛藤をテーマにしたコラムを中心に執筆。求人広告→化粧品広告→社史制作→フリー。2018年にYouTuberメディア『スター研究所』を公開、2021年に『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』を出版。

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