Zホールディングスグループ入りから約2年…… 新生ZOZOがグループシナジーを生み出す上で大切にしたこととは?

2021年10月26日

ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOが、ヤフー株式会社との資本業務提携を発表したのは2019年9月のことでした。そして現在、ZOZOのほかにも、ヤフーやLINE、PayPay、アスクルなど名だたる企業が名を連ねるZホールディングスグループが、さまざまなグループシナジーを生み出す一大グループとなったのは周知の通りです。

これにより、ZOZOはどのような強みを持ち、今後どのような展開を見せるのか。また、ZOZOではたらく人々は、Zホールディングスグループの一員としてのシナジーをどこに感じ、それをどう活かしていくのか。株式会社ZOZOの田村有さん(グループ事業戦略本部・グループ事業戦略部・戦略推進ブロック ブロック長)に、現在のはたらき方と将来を見据えた仕事観についてお聞きしました。

ヤフーとの資本業務提携、驚きとともに感じた高揚感

2021年3月28日の「ZOZOTOWN PayPayモール店」の単日売上が、初めて「ZOZOTOWN本店」を上回ったことが、ニュースなどでも話題になりました。

さらに7月に行なわれた四半期決算では、同PayPayモール店の商品取扱高が、前年同期比224%に達したことが発表されました。これらはZホールディングスグループ入りによるシナジー効果を、端的に表す成果であったと言えるでしょう。

ZOZO、ヤフーという、日本のIT産業史に残る資本業務提携。その舞台裏では何が起きていたのでしょうか?当時のことを振り返って、田村さんは次のように語ります。

「ヤフーさんとの業務提携については、私も最初はとにかく驚きましたが、それでも冷静になるにつれて少しずつ、胸にワクワクとした高揚感が生じてきたのを覚えています。

ヤフーさんはZOZOと同じECの領域でも強みを発揮している企業ですが、加えて、メディアや決済ツールなど、我々にはない多くのサービスも持っています。それらがファッションの分野と絡み合ったとき、一体どのようなことが起こせるのか、期待が膨らみ始めました」

大学卒業後、2つのIT企業でマーケティング職を経たあと、2018年からはZOZOグループで広告事業の立ち上げや、サービスへの新機能導入のPMを務めてきた田村さん。「ZOZOがほか企業のグループに入ることはまったく想定していなかった」(田村さん)ものの、大きな不安はなく、ポジティブな現象として捉えていたと振り返ります。

田村さんが現在所属する「グループ事業戦略本部」は、Zホールディングスグループ入り後、グループシナジーの最大化を目指して立ち上げられた新設部署。ZOZOとZホールディングスグループ各社による新規事業の舵取りが主な役割です。

ZOZO+ヤフー+PayPay、3社の事業連携による苦労

資本業務提携に関する当時のプレスリリース

Zホールディングスグループの一員となったあとも、それまでと同じはたらき方をしているため、環境面では大きな変化を感じていないという田村さんですが、それでもZOZOが手掛ける事業に大きな変化があったことは想像に難くありません。

果たして、ZOZOとヤフーの事業連携はどのような形で進められたのでしょうか。

「最初の取っ掛かりとなったのは、PayPayモールへのZOZOTOWN出店でした。次いで、ZOZOTOWNへのPayPay決済の導入など、複数の連携が進められていった形ですが、もともと異なるサービス間での連携が多かったので、技術的な面では想像以上の苦労がありました。

たとえば、ZOZOTOWNでPayPayを使っていただこうにも、ログイン手段などさまざまな要因からユーザーIDの特性が異なり、多岐にわたる導線のパターンを検討する必要がありました。ZOZOとヤフーさん、そしてPayPayさんの3社で認識をそろえて設計を進めなければならず、これをオンラインミーティングだけで行なうのは大変な作業でした」

そこで田村さんは、ユーザーIDごとの複雑なパターン分けを、遷移図で表現して見える形で共有することで、意思統一を図ります。さらに、オンラインでのコミュニケーションだけでは伝わりきらない部分をカバーするために、自ら音頭を取って各社担当者を集め、リアルでの会議を設定。3社15名程が膝を突き合わせて、夜遅くまで議論したこともあったと言います。

「決済というのはEC事業者にとって、絶対に失敗できない領域ですから、ことさら慎重に作業を進めなければなりませんでした。この案件だけで資料が100ページを超えてしまいましたが、結果的には苦労の甲斐あり、予定通り無事にPayPay決済の導入を果たせて、ほっとしています」

グループ内で濃密なコミュニケーションが必要とされている様子が窺えるこのエピソード。こうした舞台裏での苦労をいくつも重ね、元は異なる企業であった3社は、少しずつチームとして醸成されていきます。

「やはり、企業ごとのカルチャーの違いというのは、今も日常の至るところで感じています。しかしそれは、我々にとっていい刺激になるものばかり。たとえばヤフーの皆さんは、どんなに高い目標であってもあきらめずに食らいつき、最後までやり遂げるために課題の解決法を模索する意思の強さを感じます」

グループ内におけるシナジーは、こうした目に見えない部分にも多々表れているのです。

難解なミッションを経て見えてきた、新たなはたらく喜び

こうしたプロジェクトを経験したことで、「あらためて見えてきたZOZOの武器もある」と田村さんは言います。それはユーザーとの向き合い方です。

「ZOZOはユーザーにサービスを届ける“接点”の部分を特に大切にしてきた会社です。数字やロジックだけにとどまらず、ZOZOらしさを体現できることや、ユーザーに喜んでもらえることは、率先して取り組んでいくというカルチャーがあります。

実際、ヤフーやLINEの人たちから『ZOZOのこのアイデアがどう生まれたか気になっていたんです』と言われるサービスや仕様がいくつもあり、それは間違いなくZOZOならではの武器だと感じます」

これはヤフー側にとっても刺激になっているようで、実際にヤフーとZOZOが共同で取り組むプロジェクトにおいて、ユーザーとの接点の部分についてはZOZOに大きな裁量権を与えるなど、相互の強みを生かしたサービス設計がされているのだそう。

こうした環境を経て田村さんは、Zホールディングスグループ入りする前のZOZOと現在のZOZOでは、「はたらく楽しみのベクトルが変わってきた」と語ります。

「入社以来、一貫してやりがいのある仕事をやらせてもらっていますが、自分が介在する価値をより強く感じるのは今の立場です。

現在は各企業、各部門の橋渡し役を担うことが多いのですが、現場が異なれば使う言葉も異なるもので、その中間で翻訳家のごとく立ち回ることが、意外と自分には向いているのだなと実感できたことは、Zホールディングスグループの一員となってはじめて得た発見でした」

サービス連携をはかる上では当然、ZOZO側の希望とヤフー側の希望、さらに双方にとって譲れないラインというのが存在します。それらの複雑な調整を、会社ごとに異なる言葉、現場ごとに異なる言葉を駆使しながら、互いのメリットを守りながら進めていく作業は、一筋縄でいくものではありません。

「大切なのは、決してZOZO目線だけで物を言わないことだと思っています。仮にこちらが『この点についてはこうあるべきだ』と言ったところで、それがヤフーさんにとっても得をする施策であるとは限りません。

だからこそ、何を伝えるにしても、常に『ヤフーさんにとってはこうだと思いますが――』と、相手の立場に立った視点を持つよう心掛けています。いわば主語にこだわった互いへの配慮によって、ZOZOのサービスをヤフーさんが自社サービスのように扱ってくれたり、ヤフーさんのサービスを我々が自社サービスのように扱ったりといったムードが生まれつつあるのを、最近とくに実感しています」

膨大な数のサービスを持つZホールディングスグループの中で、ファッションの領域で多くの知見を持つZOZOがその特性を活かしていくには、そうした意識が不可欠なのだと田村さんは語ります。

「現在はまだ、グループシナジーを生み出すための種をまいている段階のものが多いですが、今後は中期スパンの目標として、ヤフーさんやLINEさんをはじめとした、グループ各社との連携によるグループシナジーの成功事例を、一つでも多くつくっていきたいと思っています。

そして、長期スパンの目標として自分の中で見据えているのは、これだけの強みを備えたZホールディングスグループにおいて、何か新しい事業を仕掛ける際に、自分自身が“あいつに任せておけば大丈夫”と言ってもらえる人材になることです」

Zホールディングスグループの中でZOZOがこれからどのような価値を生み出していくのか。今後の新たな取り組みに注目です。

(文・友清哲 写真提供:ZOZO)

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ライター&編集者友清哲
紙もWebもオールジャンルで寄稿中です。主な著書に『日本クラフトビール紀行』『物語で知る日本酒と酒蔵』『作家になる技術』『消えた日本史の謎』『一度は行きたい「戦争遺跡」』ほか。
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