「ゴミ拾いで起業」14歳の社長。100万円の学資保険を解約して創業資金に。10歳で両親に事業計画書プレゼン

2025年9月5日

スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。

14歳の細井愛茉さんは、現在中学2年生(2025年7月取材当時)。まだあどけなさの残る彼女は、実はわずか10歳で環境保護に取り組む株式会社moco Earthを創業した、起業家兼環境活動家でもあります。

すでに会社として4期目に入ったmoco Earthの取締役として日々奮闘する細井さんが、起業という大仕事に乗り出したきっかけには、彼女の価値観を変えるほどの出会いがあったそう。学業と会社経営を両立する、細井さんのキャリア観に迫ります。

オンラインスクールで知った地球環境の惨状。他人事とは思えず、一人で始めたゴミ拾い

──起業家になる以前の細井さんは、どんな幼少期をすごしていたのでしょうか?

ごく普通の生活を送っていたと思います。小学校では勉強して、宿題をして、友人と遊んでと、周囲と何も変わらない子でした。幼いころから母に「言葉を大切にしなさい」と教えられたのがきっかけで、本はよく読んでいたかもしれません。赤毛のアンやハリー・ポッターシリーズなど、ヨーロッパが舞台の小説にハマっていましたね。

──環境問題に興味を抱いたきっかけはなんだったのでしょうか?

コロナ禍で小学校が休校になりがちで、部活動もできない退屈な日々をすごしていたとき、小学生新聞の告知欄でたまたま目に入ったオンラインスクールに参加したのがきっかけでした。「地球の未来を考える」という講座で、地球温暖化の影響でホッキョクグマが食べるものや住む場所に困り絶滅の危機にある、という事実を知ったんです。

愛犬モコを飼い始めて以来、動物が大好きになった私にとって、この事実はものすごくショッキングでした。それまで地球の裏側がどうなっているのかなんて考えたこともなかったけれど、その話を聞いた瞬間、他人事とは思えなくなってしまって。同じ地球で生きる者として、何か行動を起こしたい。そう思って、ゴミ拾いを始めたのが最初の一歩でした。

──素晴らしい行動力ですね。ゴミ拾いなど精力的な活動の裏で、周囲からはどんな反応がありましたか?

最初は校内で「そんなの偽善だ」「キモい」と心ない言葉をかけられ、つらくて学校に行けなくなってしまった時期もありました。でもそのような反応はごく一部で、多くの方は応援してくれましたし、中には一緒にゴミ拾いに取り組んでくれる友達もいて。両親を含め、私には心強い味方がたくさんいるからこのままでいいんだ、という想いで乗り越えました。

──つらい経験もあったのですね。当時はいきなり起業ではなく、個人の活動としてゴミ拾いをスタートされたのですか?

そうですね。最初は一人で始めましたが、次第に仲間が増えていって、オンラインスクールで「SDGs部」を立ち上げ、活動の範囲を広げていきました。フェアトレードのエコバッグの販売や環境問題を考えるワークショップの開催など、さまざまな活動に取り組んでいくうちに、どんどんのめり込んでいって。

「本気で地球環境を変えるために、もっと大きな規模で行動を起こしたい」と思い始め、起業という選択肢が頭に浮かぶようになりました。

▲「SDGs部」主催のワークショップに向け実施したクラウドファンディングでは、
目標金額に対し144%の支援調達を達成!

YouTubeで情報を集め、100万円の学資保険を解約して創業資金捻出。両親に支えられながら、10歳で起業

──当時小学生だった細井さんが起業の意志を伝えたとき、ご両親はどんな反応をされましたか?

最初はすごく驚いていて、「会社を立ち上げて経営するのはすごく大変なことだよ、分かっているの?」と。でも「今地球環境は大変な状態になっている。私も地球の住民の一員として行動しなければいけないし、それはお父さんもお母さんも同じだよ」と伝えると、私の想いを真剣に受け止めてくれて。最後は「やるならば覚悟を決めなさい」と、背中を押してくれました。

──細井さんの決断を応援してくれたのですね。ご両親は、会社経営の経験をお持ちだったのでしょうか?

いいえ、当時父は会社員で母は保育士だったので、経営の知識や経験はまったくなくて。どうやったら会社を立ち上げられるのか、両親と一緒に勉強しながら進めていきました。主な情報源は、普段から趣味でよく見ていたYouTube。事業計画書の書き方や、起業の手順を分かりやすく説明している動画を参考にしながら、なんとか株式会社moco Earthを立ち上げました。

──細井さんご自身は、起業に対する不安はなかったのでしょうか?

不安は感じなかったです。当時はまだ小学生だったので、失敗する可能性があることも、そもそもどういう結果になると失敗なのかもイメージできなかったのかも。とにかく前に進みたい、もう前しか見えない!といった気持ちだったと思います。

母も「失敗してもいいじゃない、また別の方法を探せばいいんだから」と勇気づけてくれました。小さなころから、母は毎晩寝る前に「あなたは素敵で、私の大好きな子」と言い聞かせてくれていたんです。この言葉が自己暗示になって、何事もプラスに考えられるのかもしれません。

──若さゆえに、苦労したことなどはありましたか?

登記の際に必要となる印鑑証明書は、原則15歳以上でないと実印登録ができないらしいんです。私は現在14歳なので、15歳を迎えるまでは母に代表となってもらい、私は取締役として会社を運営していくことにしました。

また、資本金をどう集めるかにも悩みましたね。両親と相談していく中で、私自身の将来のために学資保険をかけてくれていたことが分かり、それを解約して会社の資本金に充てることに決めました。進路のためのお金は確かに大事だけど、それ以上に目の前に人生をかけてやりたいことがあると思ったので。両親も私の覚悟を認めてくれました。

光を見なかったものに価値を。環境保護と起業活動を両輪で回すことで持続可能な取り組みを

──あらためて、moco Earthがどのような会社なのか教えてください。

「世の中の価値を逆転させたい!!光を見なかったものが価値ある社会へ。」をビジョンメッセージに掲げて活動しています。このメッセージは、ゴミ拾いを続けていく中で、「一見なんの価値もないゴミや廃材に、人々が関心を傾けるようになったらどんな社会になるだろう?」とふと思いついて、自分で考えました。

事業内容は、主に3つ。1つ目は、拾ったゴミや廃材を活用したアート作品創りと販売、および展示会の開催です。出来上がった作品は、moco Earthのホームページで販売しています。

▲細井さんお気に入りの作品「私は私」。
海や川で拾った廃材を使用して制作

2つ目は、一般の方にもゴミ拾いを気軽に楽しんでいただけるイベントやワークショップの開催。「SAMURAI TRUSH スピリチュアルワールド」、略してサムトルというゴミ拾いイベントを、不定期で開催しています。参加者が拾ったゴミの量に応じてゲームアプリ上の架空通貨と換金し、通貨を使って地元の特産品などと交換できるという、リアルゲームの面白さと景品ゲットのお得さを掛け合わせたイベントです。

そして3つ目は、環境関連のイベントへの登壇活動です。直近では、大阪・関西万博2025のウーマンズパビリオンにて、「生物多様性の配慮:自然保全の新しい道」というテーマで登壇し、世界各国の起業家や環境活動家の方々とトークセッションをさせていただきました。

──会社経営に取り組む中で、細井さんが特に大切にしていることはなんですか?

「環境保護とビジネス、どちらも欠かすことなく両輪で回していく」というスタンスを大切にしています。これは私と同じく、企業活動を通して地球環境の改善に向き合っている経営者の方の話を聞いて得た学びなんです。

環境保護と聞くと、どうしてもボランティアや慈善活動のイメージが強いと思います。起業当時の私も企業としての活動を通してどれくらいの対価を受け取るべきなのか、どれくらい収益を上げていくべきなのか、正解が分からずにいました。

ボランティアとして環境保護に取り組むのも、もちろん素晴らしいこと。でも、無償ではどうしてもできる範囲に限界がくるし、反対に経済活動がメインになりすぎると、本来やりたかったはずの環境保護が蔑ろになってしまう。環境問題って1日で改善するものではないから、継続的に取り組んでいくことが大切なんです。

だからこそ、社会的貢献と持続可能性を重視し、経済性と社会性を両立させる企業「ゼブラ企業」というスタイルこそ、moco Earthが目指すべき姿なんです。こう確信してからは、企業活動を通してお金を受け取ることへの迷いがなくなりました。今までの頑張りが報われる考えに出会えた気もしたんです。会社も継続できるし、地球環境も良くなっていく。まさにWin-Winのビジネスモデルだと思います。

また、どんな意見も、まずは柔軟に認めるようにしています。そしてさまざまな意見を見聞きする中で、私自身も臆せず自分の考えを語るように意識しています。

インターネットやSNSでいろいろな情報が簡単に手に入る今、身近な人の考えや大多数の意見に流されるのは楽だし、誰かに否定される心配もないかもしれない。でも自分自身が誰かの声を認めるように、自分の声を認めてくれる人もいるかもしれないじゃないですか。

たとえ反対意見だったとしても、私の声に耳を傾けて、環境保護について考えてくれる人が増えるなら、私は自分の意見をきちんと伝えていきたいと思っています。

──約4年にわたって環境問題に向き合ってこられた細井さんご自身は、地球環境の変化をどう感じていますか?

ここ数年だけでも、地球環境は大きく変化してきていると思います。たとえば、気温の上昇。外出すればすぐに体感できるほど、気温の変化を分かりやすく感じますし、これが地球規模で進んできているんだと考えると、今まで以上の危機感を覚えます。

同時に、現状維持で良かったことも、変えていかなければいけないと感じるんです。今までどおりの暮らしを維持するのではなく、ゴミは積極的に減らしていかなければならない。SDGsという言葉がこれだけ叫ばれるようになった今、社会の意識も能動的な姿勢へと変わってきていると感じます。

学校生活と会社経営。どんな環境でも、周囲の意見を認めながら、自分の考えを持ち続けたい

──多忙な日々だと思いますが、学業との両立はどうしているのでしょうか?

平日は公立の中学校に通って授業を受けたり友達と一緒に遊んだりして、仕事の予定は週末にこなすことが多いです。最近は学校から帰宅してからプレゼンや登壇資料をまとめることもあり、テスト期間と重ならないように気をつけています。

やむなく欠席してしまうこともあるのですが、先生方も頑張りを認めてくれ、仕事のための都合欠として理解してくださるようになりました。今まで私のような生徒はいなかったため、ご心配をおかけする場面もあったかと思いますが、応援してくださるからこそ学校も頑張りたいと思っています。

プライベートと仕事は切り分けて考えることを意識しているので、友達とも予定を合わせて出掛けています。そろそろ高校進学を考える時期なので、両親や学校の先生とも相談しつつ、納得のいく進路を決めて勉強も頑張りたいです。

私の夢は、moco Earthの活動を世界規模まで広げていくこと。そのために、ゆくゆくは長期留学もしてみたいので、英語の勉強には力を入れています。これからも自分の意志を大切にしながら、地球環境と会社経営、そして学業に向き合っていきたいです!

──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?

本気でやりたい!と思えることに出会えたら、まずは怖がらずに飛び込んでみてほしいです。私は数年前までSDGsという言葉すら知らず、学校に行ってご飯を食べて宿題をして、なんとなく毎日をすごしていました。それはそれで楽しかったけれど、オンラインスクールで地球環境の現状を知って行動し始めてから、自分が何かにこんなに熱中できることをはじめて知ったんです。

本気でやりたいことが今は分からなくても、たくさんの人の話を聞いて刺激を受ける中で、何かがのめり込むきっかけになるかもしれません。大切なのは人の話を聞きっぱなしにするのではなく、それを受けて自分がどう感じたのか。自分の意見を持つことができたら、きっとその先の選択肢も広がると思います。

新しい自分に出会うのはすごく楽しいし、自分をもっと好きになれるはずですよ。

(「スタジオパーソル」編集部/文・写真:神田佳恵 編集:いしかわゆき、おのまり 写真提供:細井愛茉)

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フリーライター神田 佳恵
フリーランスライター 兼 一児の母。取材・インタビュー記事、エンタメコラム、ライブレポートやエッセイなど、複数媒体・分野で執筆活動中。

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