趣味が仕事になる瞬間は?移住先の畑が「職場」になった話

2021年12月22日

スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、自分にとっての「はたらき方」について語る「#私らしいはたらき方」投稿コンテストで入賞した記事をご紹介します。

執筆者は「うつわ好きライター」のきょうこさん。東京から奈良に移住し、個人的に畑を借りて野菜を作り出したら、さまざまな人々と出会い、仕事の価値観が変わったといいます。一般的な職場ではなかなか体験できないエピソードは、私たちに「仕事ってなんだろう」という問いについて考えるきっかけを与えてくれます。

移住先の畑仕事で知った「仕事のはじまり」

東京から奈良に移住したきょうこさんは、個人的に33平米の畑を借りて野菜を育て始めました。子どものころから「畑をやってみたい」という想いを、心の中に持っていたからです。

それは、自分で野菜をつくることへの強い憧れと、実家に畑があったことが大きい。小学生の頃、お父さんが運転する軽トラでよく通っていた。ガタガタの田んぼ道を走っているとき、それはまるで遊園地で乗り物にのっているかのようなドキドキ感があった。うっすらとその思い出が私の中に残っていて、ここへ来て畑をやりたい気持ちを後押ししてくれたのかもしれない。

あたらしい職場、あたらしい仕事 より

しかし、畑をやり始めてからはハプニングの連続。畑に触れたことはあっても実際に耕した経験はなく、腰痛や日焼けは当たり前で「農家の人はすごい」と尊敬の念を抱く毎日でした。

悪戦苦闘するきょうこさんを支えてくれたのは“畑の先輩”たちです。隣の畑のおじいちゃんが畝のつくり方、野菜の植え方、雑草の抜き方などを丁寧に教えてくれました。

野菜を植えるとき、おじいちゃんは必ず「気持ちを込めて、な」と言う。そのたびにハッとする。これは、仕事だけれど、仕事ではない。

あたらしい職場、あたらしい仕事 より

おじいちゃんの言葉からは、ただ効率を追求するだけではない、畑ならではの仕事観に触れられます。そのうちに畑仲間はどんどん増えていき、お茶やお花や野菜をおすそ分けされるようになりました。

毎週土曜に開催する朝市では、畑仲間が作った激安のナスやトマトが、ずらっと並びます。お会計は、仲間同士で電卓をのぞき込んで、金額を互いに確認。みんなが違う畑で違うものを作っていて、家計もお財布も別々だけれど、まるで家族のように1つのチームになって畑に向き合っている――そんな風景が身に浮かびます。

その輪の中で時間を過ごすうちに、きょうこさんは「仕事ってなんだろう」と考えるようになります。趣味の延長で始めた畑ですが、その考えが変わってきたのです。

最初は「自分のため」にやっていて、自分でつくって食べる分だけできればいいって思っていた。でも、今は明らかに違う気持ちが芽生えてきている。周りの親切なおじいちゃん、おばあちゃんに恩返ししたい。まだまだへなちょこだけれど、いつか自分の野菜がちゃんと実ったときにお返しできたら。朝市にもいつか出してみたい。自分のつくった野菜が、見ず知らずの人の食卓で楽しんでもらえたり、おいしいねって言ってもらえる。そんなことが叶ったら、夢のようにうれしいだろうな..と妄想するようになった。

あたらしい職場、あたらしい仕事 より

自分が楽しめればよかった趣味が、みんなの笑顔のためにと考えるようになった時、きょうこさんは「仕事のはじまりってこういうことだったのだろう」と感じたそうです。

狩猟採集時代。最初は、自分たちが生きるために食材を取っていた。やがてコミュニティができて、お互いに分けあうようになった。それがだんだんと広がって、食べることだけじゃなくって、着るものや住むところにこだわりが出てきた。お金が必要になって、やがて仕事になった。

あたらしい職場、あたらしい仕事 より

がむしゃらに仕事に臨むほど、「もっと、もっと」という欲望も膨らんでくるのが人間です。仕事そのものに夢中になるあまり、喜びや楽しさが置いてきぼりになることもあるでしょう。でも、きょうこさんの畑仲間には、そんな様子は、みじんもありませんでした。

畑仲間を見ていると、なんだか毎日が楽しそうだ。
「楽しいから続けてる」って背中に書いてあるように、私には見えるかな。

あたらしい職場、あたらしい仕事 より

どれだけ仕事が大きくなっても、できることが増えていっても、根本にある「楽しさ」を忘れない。それが、はたらく姿を活き活きと輝かせる秘訣なのかもしれません。

「ここが自分の職場だ」と思える喜び

きょうこさんの畑は大規模なわけではなく、始めたばかりで、まだ探り探り進めている段階です。

ある日のこと。どしゃ降りの雨になって畑から帰れずに雨宿りをしていたら、いつものおじいちゃんが軽トラで家まで送ってくれ、こんな言葉をかけてくれました。

「それではまた、職場で会いましょう」

あたらしい職場、あたらしい仕事 より

その言葉がとてもうれしく、しばらくきょうこさんの頭の中をぐるぐると回っていたそうです。

私にとっての、あたらしい職場、あたらしい仕事。
地味だとか派手だとか、もうどうでもよくなった。自分にとって、大切に育てていきたい場所がまた一つ、増えてしまった。

あたらしい職場、あたらしい仕事 より

きょうこさんのなかで、仕事の価値観が大きく変わった瞬間でした。

誰しも、仕事をしていると、どれくらい稼げるかなど、仕事の価値を分かりやすいものだけで判断してしまうことがあるでしょう。目に見える判断軸がないと、不安になった時に自分の仕事の価値を信じられなくなりがちです。趣味の延長線上でがんばっていることがあれば「これは仕事なんだろうか?」と疑問を感じ、立ち止まってしまう人もいるのではないでしょうか。

それでも、「ここが自分のはたらく場所だ」と心から思えたら、その瞬間、大切に育てていきたい場所になっていきます。

純粋に目の前の仕事の楽しさを探したり、周りの仲間と一緒にはたらく楽しさに気づけたら、きっとそこが自慢の職場になるはずだと思わせてくれる。そうなれば、仕事の魅力はもちろん、同じ場にいるはたらく仲間の魅力にも意識を向けていきたくなるはず。そんなことを教えてくれる、きょうこさんのエピソードでした。

(画像提供:きょうこさん)

きょうこ(うつわ好きライター)
伊賀焼との出会いからうつわにハマる。人がつくるあたたかみが生活を変え心を豊かにすることを実感。noteで陶芸家さんにインタビューをしている。あんこが好き。特に豆大福ラブ。2019年に東京→奈良へ移住。うつわ屋オープンへ向けてただいま準備中。最近、畑をはじめる。

パーソルグループ×note 「#私らしいはたらき方」投稿コンテスト

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