大人気のオンライン飲みサービス プロジェクトは“手作り段ボール”からはじまった
「オンライン〇〇」が流行した2020年ですが、「オンライン飲み」をはじめて体験したという方も多いのではないでしょうか?
そんな今年、注目を集めたのが、日本全国に向けて料理と飲み物を1箱にしたフードボックスを届ける『nonpi foodbox』。 離れた場所にいても同じ料理を食べて仲間と盛り上がれることが好評を博し、2020年8月のリリース以来、オンラインでのイベントや懇親会などでの注文が殺到しています。
11月からは新たに「オンライン忘年会プラン」もリリースするなど、今もなお進化を続けるこのサービス。実は、会社の危機の中で、急遽立ち上がったプロジェクトから生まれたものでした。
取締役としてプロジェクトを牽引した株式会社nonpiの中矢 誠一さんに、その舞台裏を聞きました。
株式会社nonpi 取締役 中矢 誠一さん
高校卒業後、俳優として活動。 その後ビジネスの世界に飛び込みベンチャー企業を立上げ、Exitする。事業再生・ リブランディングなどに従事。2019年にnonpi参画。一児の父。お寿司が大好き。
「人生ではじめて『困った』と思った」
売上、9割減――。
昨年までは、ケータリング事業と、社員食堂などの運営を行うコントラクト事業を中心に、順調な成長を続けていたnonpi。しかし、コロナ禍で、クライアント先の社員食堂が続々と閉鎖し、冒頭の数字が示すように、事業は大きな打撃を受けていました。
それまでコンサルティング会社などで数々の企業支援を手掛けてきた経歴を持つ中矢さんですら、当時を振り返り「さすがに痺れた。人生ではじめて『困った』と思いました」と語るほど。
いかに会社を“延命”させるか。
日々のニュースを見ながら、思い悩む日々が続いたといいます。
2020年4月。緊急事態宣言が発令されてもなお模索が続く中、社長のある一言が、その後の突破口になります。
「ステイホームの今だからこそ、オンライン飲み会用に、食事を提供できないか」
そのころは、オンライン会議ツールなどを使った飲み会が、少しずつ試されはじめてきた時期です。当然オンライン飲み会に特化したサービスはほぼ存在していない状況でしたが、“食の探求変革”を掲げる同社の理念に基づく社長の提案は、中矢さんをはじめとする経営陣の心を打ちました。また、お客さまから「オンラインキックオフ向けの食事を提供して欲しい」「オンライン送別会を実施するから参加者の自宅にケータリングを届けて欲しい」などの要望もあり、事業化を決定。こうして、新たなプロジェクトがスタートしました。
段ボールで試作品を制作、自宅に送ってテストを重ねる
しかし、これまで同社が行ってきたケータリングサービスは、あくまで自社配送システムを使って、東京23区を中心とした企業のオフィスへ数時間で食事を届けるというもの。
一方、今回のプロジェクトでは、一般の宅配サービスを使う全国配送対応で、荷崩れが起きないよう個人の自宅に送り、かつ1~2日という時間が経過しても美味しく食べられることが必須条件となります。まったく経験のない取り組みに対して、右も左も分からない中検討を進めていきました。
当時の試行錯誤の様子が伺えるのが、次の一枚の写真です。
これは、実際に当時社内で制作された、フードボックスの試作品です(写真はnonpi提供)。
段ボールはどれくらいの強度で、箱にどんなシグナルを書けば、一般の配送サービスで食事を届けられるのかーー。実際に社員の自宅に、料理を詰めた試作品の段ボールを送り、時には遠方に住む実家の家族にも送るなど、さまざまな状況下での配送実験を重ねました。
「“食べる人の立場に立つ”のをコンセプトに、チーム全員で行動していました。私たち自身がオンライン飲み会をして、正しく配送されているか、味は美味しいかなど、とにかく実験しながら改善を重ねていったんです。恐らく、20回近くは、チームメンバー同士で実験飲み会を開催したと思います(笑)」(中矢さん)
数ミリ単位での調整
一番の難題となったのは、食事から出る水分の液漏れ。これは、配送の途中で料理が傾いたり、段ボールが潰れたりすることによるものでした。
なんとか液漏れを防ぐよう、料理を脱気した容器に詰めたり、ミリ単位で段ボールの厚さを変えたりするなど、プロジェクトメンバー総出で、とにかく試行錯誤を繰り返していきます。そうして、なんとか液漏れの解消に成功しました。
また、実験を重ねていくうちに、新たな発見もあったといいます。たとえば、オンラインでは画面に大きく自分の顔が映るため、食べる際に「口元を隠したくなる」ということに気付きました。その発見から、ピンチョスなどの口に運びやすいサイズのメニューが考案されるなど、実験を重ねれば重ねるほど、利用者の目線に立った改良が進んでいきます。既存のケータリング事業ノウハウが活かされました。
そうして無事メニューも決まり、現在の「nonpi foodbox」の形に辿り着きました。検討開始からリリースまで、わずか4カ月という超短期間での開発プロジェクトでした。
息子に、オヤジの背中を見せたい
プロジェクトがはじまった当時のことを、中矢さんはこう振り返ります。
「ステイホームだからオンライン飲みのサービスやろう……と言っても、『そんなの、本当に流行るの?』って思うのが普通ですよね。経営陣は熱くなっていたけれど、社内のみんなにとっては、やはり不安とか、疑心暗鬼になる部分はあったように思います。」(中矢さん)
前例のない、手探りのプロジェクト。それでも中矢さんは、常に前向きに走り続けることができたと言います。その理由はなんだったのでしょうか。
「確かに大変な環境下だったのですが、世界中がピンチになっているときに成功体験をつくれたら、それってすごいことじゃないですか。そうやって、チャンスだと思って取り組んでいました。また、私には6歳の息子がいるのですが、彼もそのうち学校で『あのときはコロナで大変だったんだよ』って習うと思うんです。その時、息子に「俺はこうして乗り越えたんだ!」って話したい。で、「オヤジすげえな!」って言われたい(笑)。個人的には、それも大きなモチベーションになっていましたね。」(中矢さん)
そうして生まれた「nonpi foodbox」は、サービス開始直後から順調に受注を獲得していきました。社内には「成果が上がってきたね」という雰囲気が出はじめ、そこから生まれる「もしかしたら、売れるかも」という前向きな空気の循環が、サービスリリース後もチームを後押しました。
利用者からは、「個別配送もしてくれるので、飲み会の幹事として本当に助かるサービス」「箱もおしゃれで、楽しくオンライン飲みができる」「料理がすごく美味しかった」という声が届き、オンライン飲みの新たなスタイルを築き上げました。
現在では「nonpi foodbox」のサービス開始以降3カ月で約700社の企業が利用し、今後も増加する見込み。今もなお、サービスの改良に向けてチャレンジを続けています。
「とてつもなく信じる」ことが、奇跡を起こす
最後に、中矢さんに、今回のプロジェクトで感じたことを聞きました。
「4カ月でこのサービスを開発できたのは、奇跡といって良い。でも、『奇跡は起こる』というのを、みんなで体験できたのは、すごく大きなことだなと感じています。
このような成功を重ねていくと、何かあったとき、自分を信じられるようになると思うんです。信じることってすごく大事で、今回のプロジェクトでも、経営陣は、最初からとてつもなく信じていました。だから奇跡が起きたし、周りの人も応援してくれた。そういう体験が、少しずつ、人生観を変えていくのだと思います。」(中矢さん)
不確かで、不安定な環境でも、まずは信じて実行すること。
そんな姿勢に、大きな成果を生み出すヒントが隠されているのかもしれません。
●『nonpi foodbox』について オンライン懇親会用の食事とドリンクを1箱にして、日本全国の参加者の自宅まで届けるサービス。参加者の配送先住所や希望配送時間の取りまとめ・希望ドリンクのオーダーテイク等の手続きは不要で、幹事の負担を最小限に。共通の美味しい料理を食べることで、何気ない会話も弾む。現在は新年会プランなども提供中。 https://nonpi-foodbox.com/ |
(取材・執筆:石山 貴一)
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