人をダメにするクッションの進化系!バズった「着るビーズクッション」誕生の裏側
「人をダメにするクッション」とツイッターでバズり、テレビやWebメディアで取り上げられて即在庫切れになった「着るビーズクッション」。すっぽり被って着用できるふかふかのビーズクッションは、そのまま寝転んだり座ったりできるインパクト大の商品で、子ども用から大人用まで販売されています。
今では大人気の「着るビーズクッション」ですが、商品化にあたっては「売れるはずがない」と社内で反対されたそうです。その反対を押し切って商品化させた発案者は、有限会社タキコウ縫製の社長・滝川進さん。どのように一風変わった企画を考えて商品化させたのか、開発の裏側を伺います。
10年かけて生まれた「着るビーズクッション」
――「着るビーズクッション」はどういった経緯で誕生したのでしょうか?
「着るビーズクッション」は、自社のビーズクッションブランド「ハナロロ」の商品です。「ハナロロ」の語源は「ホノルル」で、ホノルルのような癒しの空間をつくれるクッションを開発しています。「癒しになるクッション」という軸はそのままに、何かおもしろいクッションを開発したいと思い、「着るビーズクッション」の企画を考えました。
――開発期間はどれくらいですか?
休み休みですが、トータルで約10年かけました。思いついてすぐに作ってみたものの、サイズ感や着心地がしっくり来ず、しばらく寝かせてはまた着手して、10回くらい作り直しました。
――10年!どういった点で苦労したのでしょうか。
「着るビーズクッション」と銘打っているものの、クッションは着るものではなくて使うものなので、いろいろな体勢でクッションとしても活用できるようにデザインするのが難しかったです。着たまま座ったり寝転んだりしても苦しくならず、着心地がいい状態をキープできなければ「癒しになるクッション」とは言えません。実際に自分で着用しながら、何度も調整を重ねました。
――調整するにあたり、特にこだわったポイントは?
商品化のポイントは着心地、座り心地、見た目の3つです。着心地は着た時に肩や袖や首元に違和感がないか、座り心地は座ったり寝たりしても楽に過ごせるか、見た目は着た時に縫製のラインが綺麗につながっているかを確認します。
体形によって着心地も座り心地も見た目も変わるので、複数の社員が着用して問題ないか確認しました。子どもからの反響も良かったので、子どもから大人まで着用できるようにS・M・L・XLの4サイズ展開にして、こだわった3つのポイントをクリアできるように配慮しています。XLサイズは「Lでは夫が着るには小さい」といった声が多く寄せられたので、成人男性向けに新しく追加しました。
――着たまま座ったり寝転んだりできるように設計するのは難しそうですね。
もともとハナロロでは「座る道具としてのクッション」をご提案していたので、座り心地が良いビーズクッション開発の知見がありました。ビーズの量は全体の7割にしておくと、座った時に残り3割のスペースにビーズが流れて、ほどよく体圧分散できます。体圧に関するデータを分析するシステムもあり、商品開発の流れはいつもと変わらなかったので、特に大変だという感覚はありませんでした。
――とはいえ、奇抜な商品ゆえに社内から「売れるわけない」と反対されたとか。
そうですね。初めて形にしたのは2022年11月で、イベント出店にあたり「集客用に何かおもしろい商品を出したい」と思い、以前から寝かせていた「着るビーズクッション」の企画に目を向けました。あくまでイベント用だったので、その段階では各色4個ずつ、合計20個だけ作りました。本来なら60個くらいは仕込みますが、試作品を見た家族に「売れるわけない」と反対されたんです。
それでも「着るビーズクッション」の着用モデルになってもらった子どもたちがすごく喜んでいて、クッションを着たまま家で走り回っている動画を見て「こんなに喜んでもらえるなら商品化したい」という思いがあり、販売への意思は揺らぎませんでした。
――発売後の反響はいかがでしたか?
2023年の頭からECサイトでも販売しましたが、約1カ月間は販売数ゼロ。「これは厳しいかもな」と思っていたところ、1月24日にTwitterで紹介されるなり一気にバズり、翌25日にはYahoo!ニュースやテレビなどで取り上げられました。25日中に300個追加で用意したもののすぐに売り切れてしまいました。2023年3月現在もコンスタントに売れ続けていて、1日200~300件のペースで出荷しています。
――注文殺到で、製造が大変なのでは?
クッションを作る縫子さんが縫いやすいように設計しているのと、工程を分けて分業しながら効率的に作れる製造ラインを構築しています。注文が殺到したことでお待たせしてしまっている状況ですが、注文から1か月弱で出荷していて、今後もっと早く出荷できるように対応していきます。
新しい付加価値がお客さまの笑顔を作り、はたらく人も笑顔にする
――滝川さんのキャリアについて教えてください。
タキコウ縫製の創業者は父で、私は19歳で入社して縫製の仕事を始め、約8年前に49歳で代表に就任しました。代表になるまでは現場で内職さんと一緒に裁断し、叩き上げで縫製スキルを培いました。経営者でありながら職人でもあり、企画と同時に型となるパターン縫製まで考えています。
――当初から商品開発を行っていたのでしょうか。
いえ、タキコウ縫製は創業50年を迎える愛知県岡崎市の縫製会社で、もとは縫製のみを営む工場でした。途中からクッションやソファの企画開発するようになり、今ではビーズクッションの中身である発泡ビーズや綿クッションの中身であるシリコン綿を原料から製造し、これらの原料を活かした商品開発にも力を入れています。
――今回は滝川さんが開発していますが、どんな人に開発を担当してほしいですか?
縫うのが好きで、実際にモノづくりをしている縫子さんを尊重できる人です。そうでないと縫う人の気持ちが分からず、工程を考えずにかっこいいものを作ろうとして、うまく形にならないリスクがあります。
――商品開発で大変なことは?
商品を売るための付加価値を作ることです。タキコウ縫製には縫子さんが50人くらいいて、その人たちのための仕事を作らなければいけません。19歳からこの仕事を始め、縫子さんにはたくさん助けられてきました。21時くらいに工場に行ったら、縫子さんが一生懸命縫製していて、目の前でお子さんが待っていて、旦那さんが畳んでくれていたことがありました。そういう人たちに支えられて今があるので、生活を守る対価を渡し続けたいと考えています。
付加価値は、いい仕事から生まれます。いい仕事とは、まだこの世にない新しい商品を作り、お客さまに喜んでもらうことです。こうした状態になっていくと、50円の仕事が80円になり、100円になります。その積み重ねで縫子さんを笑顔にすることが、一番大変なことであると同時に一番の楽しみでもあります。
――具体的にはどんな付加価値を生み出していますか?
ビーズクッションの場合は「その場に置くと癒しの空間を作れる」ことが付加価値です。今回は「着るビーズクッション」がバズりましたが、2021年から普通のビーズクッションもすごく売れていて、一気に7000個売れたこともありました。
また、サステナビリティの取り組みも付加価値の1つです。経年劣化でへたってきたビーズを補充して長く使えるようにしたり、ビーズを回収してサーフボードにリサイクルしたりしています。2021年2月から回収をスタートし、約80%のビーズクッションを回収できました。地球や子どもたちのためになる活動をすることが、大事な付加価値になっています。
――これからどんな商品を開発したいですか?
地元の理学療法士の方と、ハンディキャップを持った人に向けてバリアフリーな椅子やクッション開発を行っているところです。足が不自由な方は立つのも座るのも大変で、一挙手一投足に負担がかかります。クッションなら体の重心を預けながら楽に立ったり座ったりできますし、ベッドの上で食べる時も床でゲームをする時も使えるので、こうした課題を解消できる可能性があります。引き続き体を気持ち良く預け、楽に行動ができるような椅子やクッションを開発して、社会貢献していきたいです。
(文:秋カヲリ 写真提供:有限会社タキコウ縫製)
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