孤独になりがちな花嫁のとなりに。ドレススタイリストが敢えて「フリーランス」ではたらく理由
結婚式という人生の晴れ舞台。その裏側には、さまざまなプロフェッショナルがいます。
「ドレススタイリスト」もその中の一人。花嫁や花婿の「ハレの日の衣装選び」をサポートする、ウエディングドレスのプロフェッショナルです。
一般的には、結婚式場のドレスショップやウェディングドレス専門店に所属してはたらくことが多い中で、どこにも所属せずフリーランスとして活動する一人のドレススタイリストがいます。それが、今回ご紹介するYUKOさんです。
日本ではほとんどいないという、フリーランスのドレススタイリスト。
その仕事内容は?組織に所属するはたらき方と何が違うのか?多くの人が意外と知らない日本のウェディング業界の「あたり前」と真正面から向き合い、「本当に着たい運命の一着」との出会いをサポートし続ける彼女に、フリーランスになってまでドレス選びにこだわる理由を聞きます。
まだ珍しい「フリーランス」のドレススタイリスト
――日本にはほとんどいないという、フリーランスのドレススタイリスト。一般的なドレススタイリストとは、どういった違いがあるのでしょうか?
違いを簡単に説明すると、まず1つ目は取り扱えるドレスの数が大きく違います。
一般的なドレススタイリストは、所属するお店で扱っているドレスの中からしかご提案できませんが、フリーランスのドレススタイリストはこの世にあるすべてのウェディングドレスを扱える上、サイズがなければ制作のお手伝いもできます。
意外と知られていないことですが、結婚式では「自分が着たいドレスを必ずしも着られるわけじゃない」という現状が・・・・・・。
これは日本特有の業界ルールの影響が大きくて、結婚式場とドレスショップの提携制度が根強いため、たとえば憧れのドレスがあったとしても、提携のお店になければ着られない、持ち込みの際は安くはない持ち込み料がかかるなど、制約がたくさんあるんですね。
こういったルールを知らずに悩まれる花嫁さんは本当に多くて。とある統計によると、「着たいドレスを着られなかった」と後悔した花嫁さんは70%もいるそうです。
一生に一度の幸せな日、不満があったとしてもみなさん「結婚式はいい思い出だけを残したい」という気持ちからあまりおおっぴらには口に出さない。さらにリピートのない業界だから、システムも変わらない。そんな課題があるんです。
――そのような課題があるとは、知りませんでした。フリーランスのドレススタイリストにお願いすれば、「憧れのウェディングドレス」を着られる確率が高くなるんですか?
式場との提携問題は「あるある」なので、「すでに着たいドレスがある」、「こだわりたい」場合は、制限が少なく自由がきく式場を選んだり、会場を決める前に交渉したりすることが大事。フリーランスのドレススタイリストにご相談いただければ、業界のルールや希望をかなえるポイントもお伝えできます。
レンタルだけに縛られず同じような価格帯でオーダーメイドをできる方法もあるので、あらゆる選択肢の中からその方に合った一番いい方法をご提案しています。
サイズの問題などでドレス選びに不安を感じていらっしゃる方も、フリーランスのドレススタイリストに相談するのはおすすめです。
そして2つ目の違いは、「そもそもどんなドレスが自分に似合うかがわからない」という花嫁さんに対して、手厚くサポートができるということです。意外かもしれないですが、「何を着たらいいのかわからない」という方も、とっても多いんですよね。そういった不安を感じることの多い花嫁さんとしっかり向き合って、好きなもの・似合うものを見つけていけるという違いがあります。
――ドレス選びに時間をかけられるとは、どういうことですか?
会社員のスタイリストは、「アパレル店員と同じ仕事で、売るものがウェディングドレス」という感じなんですね。彼女たちの仕事は、花嫁さんに自社のお店のドレスを選んでいただき、売上をつくること。
なので、多くのお店では1組2時間という接客時間の枠をつくり、その中でご挨拶からヒアリング、ドレスの提案、3~4着のフィッティング、見積もりの提示とクロージングまでを行います。
私もフリーランスになる前は組織に所属していましたから、きちんと売上をつくっていくなら効率や仕組みも大切だと理解しています。でも、当時の私は多い時で月に80組以上担当することもあり、忙しさゆえに流れ作業のような対応をしてしまうのではないか、花嫁さん一人ひとりの本音には気付けない、気づけてもそこまで深堀できない状況の中で、「あるものの中から」ドレス選びを進めることへの違和感を持つようになりました。
もっと、ひとりひとりの本音に目を向けたい。
不安を安心に変えて、自信を持ってときめけるドレスに出会ってほしい。
それが、フリーランスの道を選んだきっかけです。
今は1組ずつゆっくり時間をかけて接客させていただき、ご要望があれば前撮りのプロデュースや式の当日のアテンドに入らせていただくこともあります。
効率や売上に縛られず、さらには従来のドレススタイリストの枠を超えて、にとことん花嫁さんと向き合えるようになりました。
ドレスの相談役であり、花嫁さんの味方でありたい
――YUKOさんは、花嫁さんとどのように向き合っているのですか?
最初のヒアリングに1時間半〜2時間とって、どのような個性を持った方なのかを知ることから始めています。お仕事の話・彼との出会い・2人の関係性・なぜ結婚式をするのか。とにかくたくさんお話を聞いて、生き様やキャラクターを理解した上で、ご案内するドレスショップをピックアップします。
このお店選びが毎回本当に迷います。「これだけお話を聞いて、全然趣味が合わないところをご案内したらプロの仕事じゃない」と思うので。
でも、そのヒアリングに対してぴったりくるものを提案していくのは技術で、私の得意分野ですし、会社員時代の経験が活きてくるところです。
花嫁さんには、「どれも可愛い!ドレスもアクセサリーもお店の雰囲気も全部だいすき!」という気持ちになってもらって、最高に楽しい空間の中でときめきの一着に出会ってもらいたいというこだわりがあるからこそ、提案するお店選びにはすごく時間をかけています。
さらには、いいお店があったとしても、サイズ感は合うか・金額が予算と合うか・結婚式の日程で予約が取れるかなど、気を配らなければならない部分はたくさんあるので、事前に問い合わせをして確認をして・・・・・・。
1回のフィッティングで「これだ!」となることもあるし、その日を踏まえてまた相談して、ブラッシュアップすることもあります。
――花嫁さんとの間柄も、かなり親密になりそうですね。
花嫁さんはお客さまだし、あくまで私は第三者だけれど、大事な友達をスタイリングするつもりで毎回フィッティングにいきます。
花嫁さんって、周りからのイメージは幸せ絶頂、いつでもハッピー!って勘違いされることも多いですが、ドレス選びに対して気付かぬうちに孤独になっていることが多いんです。
ドレスショップごとに担当はついてくれるけれど、忙しなくて深い話をする時間はなかなか取れない。彼にドレスの相談をしても「わからない」って言われてしまったりするし、家族とはトレンドの感覚が違ったりする。友達は参列してくれるから当日のお楽しみにしたい・・・・・・。
こういう状況の中、一人でよく分からないドレス選びを進めるって、かなり不安なんです。だからこそ、私は専属のスタイリストとして、なんでも話せる一番の味方でありたい。
マリッジブルーという言葉もありますが、モヤモヤを抱えがちな時期をともにする存在として、もしかしたら花嫁さんのメンタルサポートのような役割も、担っているかもしれません。
ドレスだからこそ生まれる、最高の笑顔
――そもそものお話に戻りますが、なぜ「ドレス」を扱う仕事に就こうと決めたのでしょうか?
学生時代は、服飾の専門学校でトップス・ボトム・ワンピース・ジャケット・コートなど、一通りのデザインやパターンを学び、課題としてそれらを実際につくっていました。ドレスと出会ったのも、そんな授業の一環です。
毎回、課題が完成すると自分がつくった洋服を着て発表会をするのですが、ほかのアイテムとは明らかに違う、ドレスを着た時だけ見られたクラスメイトのキラキラした表情が、衝撃的だったんです。
ドレスを着ただけで、ヘアもメイクも何も変わっていないのに、こんなに自信のある表情が生まれるの!?って。着るだけでこんなに女の子をかわいくしてくれるなんて、ドレスって魔法なのかもしれないと思いました。
その後就職を考える中で、成人式の振袖選びの時に一緒に衣装を選んでくれるスタイリストの仕事と出会い、「私、こういう仕事をしたいな」と思ったのが、ドレススタイリストになろうと思ったきっかけです。
――フリーランスになるまでは、どのような経緯だったのですか?
学校を卒業後地元・愛知にあるレンタル衣装屋さんに就職し、ウェディングを始めハレの日にまつわる衣装全般を扱っていました。
成人式の振袖やお子様の衣装など幅広く取り扱いましたが「やっぱりドレスが好きだな」と思い、23歳の時にウェディングドレスの専門店に転職。そこで見たプロの接客に感動し、「修行しなおそう」という気持ちで1から学び直しました。
――どういったことを学んだんですか?
当時は「自分がドレスを扱うプロである」という自信が欲しくて、ウェディングに関してわからないことをなくしたい一心で、とにかく勉強しました。
世の中にはどういう結婚式があって、どのような式場があるのか、どのような人たちがそこで式を挙げて、どのようなドレスを好むのか。それは、なぜなのか。
名古屋のお店から始まり、神戸、銀座とはたらかせてもらいましたが、銀座に異動してみると、競合店の多さや花嫁さんたちのより洗練された感度の高さに驚き、ますます式場やドレスショップをリサーチしましたね。
また、はじめてご来店されるお客さまと会う前には、必ずウェディングサイトの式場クチコミを見ていました。クチコミってたくさん読み進めると、その会場を選ぶお客さまの層や人柄が浮かんでくるくらい、共通点を見つけられるものです。
チャペルが気に入ったのか、お料理などのおもてなしも大切にされるのか、会場のスタッフの接客対応も決め手のひとつになるのか…。会場によってこんなにも趣味嗜好が違うのかと発見の連続でしたし、会場の決め手やポイントはドレス選びにも活かせるものでした。
こういったリサーチによって、その方が大事にしたいポイントをおさえた提案ができるようになりましたね。
前職で学んだことは、「花嫁さん一人ひとり大事だと思うことが違う」と知れたこと。そして、そのポイントを探ることで、よりその人にあったドレスを提案できるようになるということでした。たくさんのお客さまの対応をさせていただいたことも、本当に勉強になりました。
――まさに、プロのお仕事ですね。そこまで自分を高めようと思えたのは、なぜだったのでしょうか?
「ドレスのことはYUKOさんに聞いたらなんでもわかる」という存在になりたかったんです。そこまでいければ、わたし自身、自信を持って的確にアドバイスができるじゃないですか。
ドレス選びって本当に難しくて、いろんなお店を回って20~30着のドレスを着ても決まらないという人もいるんです。そういう方と出会った時に、それまでとは違う提案ができたら喜んでもらえるかもしれない。
体型にコンプレックスを抱えている方がいらした時に、覆い隠すだけではなく、素敵に見せてあげられる別の方法をご提案できたら、その人は自分の体型も含めてまるごと自分を好きになれるかもしれない。
誰がどんな悩みを抱えていても、「ウェディングドレス選びに迷ったら、YUKOを頼ってほしい」。組織にいてもフリーランスであっても変わらない思いです。
まだまだ、花嫁さんに届けたいものがある
――どうしたら、YUKOさんのようにはたらけるのでしょうか?
ありがたいことに、今はアシスタントがいて仕事を手伝ってくれるようになったり、「フリーランスになりたい」という方に出会ったりと、ドレススタイリストや、私のはたらき方に関心を持っていただく機会が増えました。
そういう方々にまずお伝えしているのは、ドレスに関する仕事をしたことがないのであれば、まずはドレスショップではたらいてみて、ということ。どの業種もそうですが、業界の一般常識を知らずにフリーではたらいていくのは、すごく難しいと思います。
ドレスの知識や扱い方など基礎はしっかり持っていて、業界のことも理解しているからこそ、フリーランスとしての価値が生まれます。だから、週2日でもいいから、自分がすごく好きだと思えるお店ではたらいてみることをおすすめしています。
――今後の活動について、教えてください。
まだ、多くはいない職業だからこそ知名度もまだまだです。この仕事の価値や必要性をわかってもらうことから始める必要があるので、私自身ももっともっと発信を頑張っていかないといけないなと思っています。
さらに最近では、ウェディングベールのブランド「veve(べべ)」の立ち上げや、13号以上のドレスブランド「BeBB(ビービービー)」の立ち上げなども行っています。
スタイリストという枠を越えた取り組みですが、どちらも「花嫁さんにとっての選択肢を増やしたい」と思ったからつくりました。
「veve(べべ)」は、時代が変わると共に、ドレスのトレンドや着こなし、花嫁さんの求めるものが変わっていく中で、実はベールだけは、デザインに大きな変化がないことが気になっていて。形もベーシックなものが多く、ドレスの魅力をさらに上げられるベールって実はすごく少ないんですね。
せっかくこだわってドレスを選んだのなら、ベールにもとことん拘ってほしい!と思いました。
13号以上の方向けのドレスブランドに関しても、3L~4Lの方が着られるドレスって、私が所属していた大手のドレスショップであっても1店舗に3,4着しかなくいという現状があって。そもそも、取り扱いがないショップも珍しくないんです。
日本でいう標準サイズ(7-9号)は何十着と並んでいるのに、大きいサイズの方には「この中なら選べます」と最初から選択肢が少ない。すごく不公平だなと思っていました。
好きなものを着る喜びをすべての花嫁さんに感じてほしいのに、ちょっと体型が大きいという理由で選択肢が狭まること、好みじゃないものを「強いていうならこれかな」と選ばねばならない。それなのに何十万と費用はかかる。
そのドレスの選び方は、本当にその人のためになっているのかな?と思ってしまって。「これは私にしか着こなせない」と思えるドレスに出会ってほしいのに、その環境がないから、ブランドをつくりました。
――困っている花嫁さんの力になるために、活動の幅を広げられているんですね。
ドレスを着る人みんなの「自分自身にときめいたピュアな笑顔」を見たい。「これは私にしか着られない」と思える、自分を愛せる運命のドレスは絶対にあるから、そこまでとことん向き合いたい。
まだまだフリーランスのドレススタイリストという仕事に就く人の数は少ないけれど、ドレスを選ぶ楽しさや、ファッションがくれる自信やパワーを多くの花嫁さんが体験できるように、フリーランスのドレススタイリストという仕事を広げていくこと。そして彼女たちにとっての選択肢がないものはつくるをモットーに、活動していきたいと思っています。
(文:飯室佐世子 写真:山本真央)
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