毎日ダメ出しのコピーライターだった私が、29歳の抜擢人事で人生が変わった話。

2024年12月9日

スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。

今回は、ベテランコピーライターが語る「成長に必要なマインドセット」についてのエピソードを紹介します。

※本記事の引用部分は、ご本人承諾のもと、投稿記事「[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。」から抜粋したものです。

自分に自信が持てない……。曇り空な毎日だった駆け出しコピーライター時代

今から40年ほど前。コピーライティングの世界で、まだ「手書き原稿」が主流だった時代。

駆け出しコピーライターだった川中紀行さんは、書いても書いても、上司からダメ出しを受けてしまう自分のコピーに自信が持てないでいました。

書き上げたコピーをディレクターの席に持っていくと、頭から尻尾まで欠点を指摘された挙句、人差し指でピンッとはじかれた原稿用紙がヒラヒラと空中を舞い、床に落ちる。私はそれを拾い上げて席に戻り、修正指示の書かれた朱字の通りに直し、何とか仕事を終える。自分でやった感などない、そんな苦い経験の繰り返しだった。

[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。 より

そのころの心情といえば、もっぱらどんよりとした曇り空。気持ちは沈み、空に広がる青空があっても、それを眺める余裕すらなく、与えられた仕事を淡々とこなす毎日だったと言います。

「本気で辛抱してりゃ、自分の目には見えなくても、畳の目のように物事は進んでるんですよ」。

[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。 より

噺家・古今亭志ん生が遺したこの言葉は、落研に所属していた学生時代の川中さんが感銘を受けたものです。
仕事で思うような結果が出ず苦しい毎日の中で、かつて胸に刻んだ志ん生の言葉を思い浮かべながら、「自分が気づかない間に実力はついているはずだ」と自分を鼓舞し続けます。

ただ当時を振り返ると、畳の目ほどにも自分が前進している実感は持てなかったそう。仕事がうまくいかない理由の一つは「自分の実力不足」だったと川中さんは振り返ります。コピーライティングの何たるかもつかみ切れておらず、上司からの修正の意味を必死に噛み砕く日々。当時の能力は、その意図すべてを理解する水準には達していなかったと言います。

やってもやっても成長が感じられない。閉塞感に押しつぶされそうになる一方で、川中さんは不思議と「仕事を辞めたい」とは思いませんでした。それは、何より、コピーライティングという仕事の持つ魅力にひかれていたから。

自信を失うことばかりだったとしても、決して匙を投げずに、ただひたすら自分自身のコピーと向き合い続けたのです。

転機となった29歳、まさかのコピーディレクターに

転機が訪れたのは29歳のころ。友人のつてで転職した制作会社で、川中さんはなんと「コピーディレクタ―」に抜擢されることになります。

いきなり他者のコピーをチェックするという立場になった私は、その状況のなかで、ない感性を振り絞り、コピーと改めて向き合って文字の一つひとつを追った。

[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。 より

自分のスキルにすら自信を持てない中、人のコピーに朱入れをする。その行為はまるで「恐怖と隣り合わせ」だったと語ります。

曇り空を晴れにする術は全く見えず、ひたすら自分が書いたコピーを最初から最後まで修正し続けていた日々と、自分だけでなく他者のコピーを受け入れて反芻し、こんどは自分が修正の朱字を入れる毎日。

[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。 より

そんな綱渡りにも似た日々は、いつしか川中さん自身の鍛錬の時間となっていきました。ある日、川中さんは「意外にうまいではないか!」と感じられるコピーを、自分自身が書けるようになっていることに気付くのです。

暗闇に満ちたトンネルで、上達の糸口を探しながらもがくうちに、川中さんは一歩ずつ確実に、自分のスキルを磨き続けていたのでしょう。

即効薬はない。「手探りの日々」が前に進み続ける最大のコツ

手探りしながら前に進む行為が、「見えなくても、畳の目のように物事は進んでる」という“志ん生” の言葉を、リアル過ぎる実感として、私に体験させてくれたのだ。

[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。 より

自分のコピーライティングに少しずつ自信を持てるようになった川中さん。その後も、コツコツと一つひとつの仕事に向き合い、今もなお、身を置くのはコピーライティングの世界です。その道40年のベテランコピーライターとなった川中さんは、修行時代を振り返りこう語ります。

失敗した、できなかったという事実を真正面から受け止め、やるべきことをやるのだ。失敗の原因をふさぐ手段を曲がりなりにも実行に移し、実力不足と思えば、昨日より、少しだけ違うアプローチを試してみる。

失敗や実力不足によるダメージを取り返す試みを続けながら、ただひたすら与えらえた仕事に向かう。それは、手探りでよい。「手探り」は、その時点での最高の対応手段だと思うのだ。

[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。 より

これをすれば、うまいコピーが書けるようになる―。そんな 「即効性があるコツ」はありません。日々、愚直に努力を積み重ねることこそ、自分を前に進ませるための方法なのではないでしょうか。

「本気で辛抱してりゃ、自分の目には見えなくても、畳の目のように物事は進んでるんですよ」。この言葉は、信じていい。

[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。 より

40年の長きにわたり、手探りの中でたった一つの仕事をまっとうしてきた川中さんの言葉からは、工夫を重ね、改善を目指す姿勢こそ、自分が選んだ道を歩み続けるための唯一の秘訣なのだと教えられました。

<ご紹介した記事>
[#仕事のコツ]失敗したり実力不足を感じたら、手探りでもいいから前に進む。

【プロフィール】
川中紀行/コピーライター
56年静岡生まれ。現役コピーライター。制作プロダクション、広告代理店を経て、バブル経済崩壊直後の93年1月に独立。コピー歴は40年に及ぶ。WEBサイトでの広告、販促ツールから雑誌・新聞までの企画・構成・取材・文章作成全般を行う。趣味はJリーグ観戦。note執筆。

(文・ながたせいこ)

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ライター/編集者永田盛香
1984年滋賀県出身。元新聞社系出版社勤務。ライター、インタビュアー、編集者として活動のかたわら、子ども向けの表現教室運営も行う。「気持ちの言語化を通し、自己理解を深めるお手伝いをする」をテーマに、人の話を聴きながら想いのコアな部分に光をあてたい。年の差姉妹(8歳)の育児に奮闘中。

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