『anan』SEX特集担当。2児の主婦が官能イラストレーターになった理由。インスタで恋愛セックス相談殺到の平泉春奈とは。

2024年12月18日

「ちょっと待って……」「したいくせに」「で、でも」そんなセリフとともにカップルがベッドに横たわるイラスト。テーマは「セフレ」。

Instagramのフォロワー数30万人を超えるイラストレーター、平泉春奈さんの手がける官能的なイラストは、雑誌『anan』のSEX特集で挿絵として採用されるなど、人気を博しています。2023年には4冊目となる著書『私たちは愛なんてものに』(KADOKAWA出版)を出版しました。

ただ「エロい」だけではない平泉さんのイラスト。「周りに言えない悩みを持つ人の力になりたい」と、性的同意や高齢処女などをテーマにした作品も発信しています。

平泉さんが語る、官能イラストレーターとしての使命とは。

クリスマスにエロいカップルイラストを描いたら過去最高の「いいね」が

──平泉さんはいつごろからイラストを描き始めたのですか?

もともと美大で絵を学んだのですが、22歳で結婚した後すぐに育児が始まって。落ち着くまでは絵から離れた仕事をしていました。イラストレーターとして活動し始めたのは33歳のころ。当時は官能的な作品は一切描いていませんでした。

ゆくゆくはカットイラストの仕事がもらえたらいいなという気持ちで、ファッション雑誌に載っているような可愛らしい女の子を描いてInstagramに上げていましたね。

その後、動物と女の子など、ファンタジー色の強いイラストを描くようになると、フォロワー数がぐんと増えたことで、テーマ性の重要性に気付きました。フォロワーの皆さんからのいいねやコメントにも励まされ、どんどん自信もついていきました。

──カップルのイラストを描くようになったきっかけはなんでしたか?

2018年のクリスマスに、「クリスマスらしい恋愛系のイラストを描いてほしい」と、Instagramを通じてファンからリクエストを受けたのがきっかけです。クリスマスっぽい背景や雰囲気をつくり込んでいくうちに、「ただの仲良しカップルでではなく、官能的な要素を入れたほうが雰囲気が出るんじゃないか」と思いつきました。

そこで、思い切ってかなり官能的なテイストに仕上げてみたら、爆発的な数の「いいね」を獲得。フォロワー数の伸びも驚異的で「すごい!みんなキュンキュンしたかったのか!」とびっくりしました。そこからInstagramの方向性をカップルイラストに舵を切り、本腰を入れて官能的な作品を描くようになりました。

──当時、女性で官能的なものを描かれている方は珍しかったと思います。どんな想いで描かれていたのでしょうか?

当時はイラスト1枚でキュンとできる手軽なコンテンツとして、カップルイラストの人気が出始めたころ。とはいえ、それを官能的なテイストで描いている人はほとんどいなくて、イラストレーターとしてのチャンスも感じていました。フォロワー数が増えるきっかけになるし、そこから仕事につながるんじゃないか、って。

それに、このジャンルは私が当事者意識を持って打ち込める「勝てる選択」だと思ったんです。過去を振り返ると、絵と恋愛には真剣に、本気で向き合ってきたという自負がありました。私の人生の大部分を占めるものというか。

恋愛経験が豊富なわけではないのですが、1人の人と長い年月をかけて付き合う中で培った経験や感性があります。それを絵に落とし込む。それが私にできるすべてだと感じました。

官能イラストを描くうちに生まれた使命感

──当初はキュンとできる官能的なイラストを描かれていた平泉さんですが、現在は高齢処女や性的同意などのテーマでも描かれていますよね。

「その先に待つもの」

Instagramで性や恋愛に関するアンケートを取ったことが始まりです。フォロワーの皆さんがイラスト以外にも楽しめる発信もしようとやってみたら、予想を上回る反響があったんです。

──予想を上回る反響とは……?

アンケートへの回答だけでなく、「性や恋愛に関する悩みを聞いてほしい」というDMが山のように届きました。「同じ悩みを持っているので、アンケート結果をシェアしてほしい」という声も多かったですね。

保健室の先生やカウンセラーなど、性のスペシャリストは私以外にたくさんいます。でも、何万人もの声の受け取り手として、「私にできることをしなくては」と使命感が生まれました。そこで、『イラストレーター平泉春奈の愛と官能ブログ』を立ち上げ、フォロワーの皆さんの回答をまとめて『性とSEXアンケート』の記事やイラストを公開するようになりました。

とはいえ、最初はもちろん勇気がいりましたね……。どれだけ想いを持ってまじめにやっていても、どう受け止められるかは未知数です。最初は一つひとつ公開するたびにドキドキしていました。「マスターベーションの悩み」や「オーガズムの悩み」など、内容が過激になるにつれて、ファンからの反応を見るのが怖かったですね。

──性的なイラストを描き始めたことで、ファンからのマイナスリアクションはありましたか?

初期からのファンの中にはフォローを外す人も少なくなかったと思います。でも私には「1つでも多くの性の悩みを解決する」という覚悟があったので、やり遂げる気持ちでいました。

それに、抵抗を示す人よりも、私の発信があったからこそ救われたという声のほうが圧倒的に多かったんです。「ブログに救われた」「春奈さんにDMを送って良かった」「自分も行動してみます」と。

──2024年には朝日新聞のメディアプロダクションサイト「朝日マリオンコム」にて『春奈先生の独断性教育』の連載も開始しました。これが大きなターニングポイントになったとか。

そうですね。この連載は、私が積み上げてきた「ファンとの信頼関係・発信力・描く力」と「メディアの力」を掛け合わせることで、より多くの方の悩みにアプローチできるようになったと感じています。

信頼感のあるメディアの力は偉大です。私がそれまで発信していたブログ記事は、大規模なアンケート結果をもとに作成しているとはいえ、ファクトチェックなどが入っているわけではないので、公式性に欠けるところがありました。連載では、編集部の皆さんがアンケート結果を綺麗にグラフにしてくれ、言い回しを整えてくれます。伝えたいことを、長く残るかたちで広く伝えられているのがうれしいですね。

誰にも言えない悩みがあるなら、私にDMを送ってほしい

──平泉さんの今後の展望を聞かせてください。

ファンの皆さんから「作品も好きだけれど、春奈さんが好き」「春奈さんが言うことは信用できるし安心できる」と言ってもらえる存在であり続けたいです。ファンと心の距離が近いイラストレーターに。

ファンの皆さんは私のイラストが好きで、私を信用してくれて、匿名とはいえ勇気を出してDMを送ってくれている。このつながりを何よりも大切にして、私はイラストを通して同じ悩みを持つ皆さんの悩みや想いをシェアする「架け橋」でありたいと思っています。

近年は、セクシャルマイノリティの方からもDMを受け取ることがあります。今後はそうした方を含めて、全体に占める割合の少ないジャンルの悩みにも光を当てていきたいですね。

そもそも、自分が抱えている悩みについてわざわざDMを送る人は少ないので、実際には今受け取っているDMの数よりももっと多くの悩みが世の中に存在しているはずです。

──自分の感情をオープンにできないどころか、自分の考えていることすら分からないこともありますよね。

そうですね。だから、人に言えない悩みで苦しんでいる人がいるのなら「私にDMを送ってきて!」と伝えたいです。すべてに返信できるわけではないけれど、誰かに自分の気持ちを聞いてもらった事実だけで人は救われると思うから。

私は皆さんからのDMをすみずみまで読んでいて、どんなにディープな悩みでも、読むのは全然負担ではありません。もちろん、私が直接解決できるわけではないので、心が痛くてどうしようもないこともありますが、せめてその人を勇気づける光となるようなイラストを描かなきゃ、と思っています。

イラストと記事を通して、1人でも多くの「言えない悩み」を抱えている人の気持ちが軽くなるように、これからも愛を込めて発信し続けます。

(文:徳山チカ 編集:おのまり イラスト提供:平泉春奈)

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ライター / 編集者徳山チカ
1991年大阪府生まれ。2児の母。ウェディングプランナー、住宅営業、スパイスカレー屋のパートを経て、フリーランスライターに。主にキャリアや生き方にまつわる記事の取材、執筆、編集を行う。音楽ライブ、ラジオ、スパイスカレー、ハイボールが心のオアシス。

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