会社を10社辞めた発達障害/ASDの私が見つけた「人に迷惑をかけていい」生き方

2025年12月2日

スタジオパーソルが運営するYouTubeでは、さまざまな業界ではたらく人の1日に密着し、仕事の裏側と本音を掘り下げる『晩酌まで1日密着』シリーズをお届けしています。

今回密着したのは、2015年に絵本『げんきくん、食べちゃうの?』でデビューを果たした画家・絵本作家の西出弥加さんです。ASD(自閉スペクトラム症)や複雑性PTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)といった特性を公表し、現在はフリーランスとして活動しています。

会社員時代には集団ではたらくことに息苦しさを感じ、10社ほどの転職を経て、「たった一人のために絵を描く」というはたらき方にたどり着いた西田さん。「迷惑をかけながら生きる」と語る彼女の話には、生きづらさを抱える多くの方への温かなメッセージが込められていました。

※本記事はYouTube『スタジオパーソル』の動画を一部抜粋・編集してお届けします

感情を「色」で表現する画家の頭の中とは?

個人や企業から案件を受け、一人ひとりの想いに寄り添う絵やイラストレーションの作品を生み出し続ける西出さん。作品は、色鉛筆を重ね塗りすることで生まれる独特の深みが特徴で、柔らかなグラデーションが心安らぐような優しい雰囲気をつくっています。

「人の心を色で表せるのが、この仕事の楽しいところ」だと語る西出さん。依頼者それぞれが抱える想いや体験を、西出さんは色として受け取り、それらを作品に織り込んでいきます。たとえつらい記憶であっても、その人の人生の一部として大切に扱い、美しい絵へと昇華させるのです。

「たとえば、過去の悲しいエピソードを語った依頼者の気持ちを“黄土色”として受け取ったとします。そんな時、たとえ悲しい記憶であっても、依頼者にとって人生をかたちづくる大切な要素であるのなら、私は絵を描く際にも必ずその黄土色を使うんです。悲しい色でも、それを明るい絵として昇華させることが私の仕事なのかなと」

西出さんにとって、色は人の感情を理解し表現するための言語なのです。

「私は言葉で相手の気持ちに応えるのが苦手で。『辛かったね』では軽すぎるし、『こうしたら?』というアドバイスも的外れな気がする。でも色なら、その人がどれだけ苦しい想いをしたかを表現して伝えられるんです。だから私は、言葉より色を大事にしています」

そんな西出さんには、ASDや複雑性PTSDといった特性があります。これらの特性が会社員生活に影響を与え、現在のフリーランスというはたらき方を選ぶまでの紆余曲折をのぞいてみましょう。

「私には、会社員は無理だった」ASD・PTSDと向き合って選んだはたらき方

両親との関係性から後天的に生じた複雑性PTSDに加え、ASDに見られるような行動パターンが特定の場面で現れることもあると言います。

これらの特性の影響もあり、画家として独立する以前の会社員時代は決して順風満帆ではありませんでした。大学卒業後に就職したデザイン会社をはじめ、転職した会社は10社ほど。どの会社も半年程度しか続かなかったと言います。

なぜそれほど転職を繰り返すことになったのか。西出さんはこう振り返りました。

「みんなの顔色をうかがっちゃうんです。『あ、この人、今怒っているな』と分かった瞬間、私に対して怒っているわけじゃないと分かっていても、気になって気になってどうしたらいいか分からなくなる。結局『私が悪いんだ』と思ってしまって、辞めてしまうんです」

人間関係でつまずく度に、相手と喧嘩になるのを避けて自分から離れてしまう癖がある、と西出さんは自身のことを分析します。

「会社員時代、仕事は問題なくできていたと思います。感情が絡まなければ大丈夫なんです。でも、人間関係に感情が入ってくると、すごく不安定になってしまう。絆をつくっていけばいいのに、愛着を構築していけばいいのに、私にはそれができないんです。だから、普通の会社員としてはたらくのは無理だなと思いました」

こうした経験を重ねる中で、西出さんは自分に障害があるのかもしれないと感じるようになりました。

「普通とは『大多数の人が通る道』という意味。私もその道を進みたかった。普通になりたかった。けど、できなかった。でも今思えば、逆にいい人生かもしれないなと」

社会人4年目、西出さんはフリーランスに転身しました。税務書類に「自営業」と書いたときの心境を「やっと解放された!」と振り返ります。定期収入を失うことへの怖さはなく、むしろ人間関係に悩まされ続ける日々から解放される、安心感のほうが大きかったのです

「大勢に売る商品」ではなく「一人への仕事」がやりがい

西出さんがこれまでで一番やりがいを感じた仕事は、亡くなった女の子を描いたことでした。

「その子は『社会不適合』と言われていたようですが、お母さんの話を聞いているうちに、本当はそうじゃないと思ったんです。社会にとても適応できていて、なんでも受け入れられる子だったと。だから、真っ白な子として描きました。周りにはペンギンなどのいろいろな動物を描いて、みんなと仲良くできる子として。『本当はこうだったでしょう?』って。絵をお母さんに渡した時、何も言わずに涙を流してくれました。それがすごくうれしかった」

現在の西出さんの仕事のほとんどは、このように依頼者との深い1対1の関係性に支えられています。

「私、1対1なら大丈夫なんです。大学時代には個別指導の塾講師もできたし、ホステスとして一人で来店されるお客さまと接する仕事もできた。でも会社員時代は大勢の人の顔色をうかがって疲弊していました。今は1対1の付き合いが多いので、なんとかやれています」

このはたらき方にたどり着くまで、西出さんは意図的に関わる人を絞り込んできました。以前は仕事の依頼を受けるためにSNSも活用していましたが、今はすべてやめています。

「今は、本当に熱量が高くて、私のことを深く理解してくれる人とだけ仕事をするようにしています」

そうして関係性を築いてきたからこそ、今西出さんのもとに届くのが、言葉では表現しきれない複雑な感情や、家族の複雑な関係性を絵として昇華してほしいといった依頼なのです。こうした仕事を通じて、西出さんは自分なりの“はたらく意味”を見出しています。

「私は、有名な画家じゃない。たった一人のために絵を描いて、生活している人間なので、作品は手元に残っていないんですけど……。こうやってはたらいて、生きている今が一番幸せかもしれません」

そう語る西出さんの表情は、とても穏やかでした。

生きづらさを抱えるすべての人へ。「迷惑=悪いこと」じゃない

西出さんは生きづらさを抱えながらはたらく人たちへ、こんな言葉を残します。

「『人に迷惑をかけていい』と思うことが大切ではないでしょうか。人の顔色をうかがうのではなく、自分のやりたいことをはっきりさせて、『これはできる』『これは無理』を周囲に伝えればいいんです。できるだけ自分のストレスがないように。自分らしく生きるって多分、『人に迷惑をかけて生きる』ことなんだと思います」

そう言い切る西出さんは、自分らしく生きることの代償も理解しています。

「人に迷惑をかけると、たくさんの人が離れていくでしょう。『めんどくせぇな、こいつ』って。でもいいんです、自分が捨てたと思えばいい。それでも分かってくれる人、離れずにいてくれる人を探し続けることが大切です」

最後に、「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするためのアドバイスを伺いました。

「辛くなったら『5歳の自分ならどうする?』と考えてみるといいんじゃないかな。逃げるのか、立ち向かうのか、それとも別の方法を取るのか。“子どもの自分”なら、きっと素直に動けるはずです」

「今この場にいるのがつらいとき、次に行く準備をしてから辞めなきゃと考えがちですが、準備なんてしなくていい。辞めたら準備できるので。こうなっちゃったから、こうする。それでいいんです」

自分らしいはたらき方を見つけた西出さんの言葉には、計画通りにいかない人生を受け入れながらも、前に進み続ける強さがありました。

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:いしかわゆき、おのまり)

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ライター/作家間宮まさかず
1986年生まれ、2児の父、京都在住のライター・作家。同志社大学文学部卒。家族時間を大切にするため、脱サラしてフリーランスになる。最近の趣味は朝抹茶、娘とXGの推し活、息子と銭湯めぐり。
著書/しあわせな家族時間のための「親子の書く習慣」(Kindle新着24部門1位)

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