「ゴミ拾いで起業」14歳の社長。100万円の学資保険を解約し、10歳で親に事業計画書をプレゼン

2025年12月23日

はたらく情報メディア『スタジオパーソル』が運営するYouTubeでは、仕事終わりの晩酌まで1日密着し、はたらく本音を深掘りする番組をお届けしています。

今回密着したのは、10歳で「ゴミ拾いとアート」を組み合わせた事業で起業した、中学生社長の細井愛茉さん(14歳)。起業資金として学資保険100万円の解約を親に申し出て事業をスタートさせました。

公立中学校での学業と、株式会社の取締役社長という二つの顔を持つ細井さん。多忙な日々を「死に物狂い」で両立しながらも常に自分の気持ちに正直であろうとする細井さんに、「本当の自分」ではたらくためのヒントを伺いました。

学業との両立は「死に物狂い」。14歳社長の素顔とは?

現在14歳の細井愛茉さんは、拾ったゴミをアート作品にする「廃材アート」事業を展開する株式会社moco Earthの取締役社長です。ゴミ拾いイベントの開催や、アート作品の制作・販売を通じて、環境問題という社会課題に取り組んでいます。

この日、細井さんが訪れたのは山梨県・富士河口湖町。外国人観光客の増加に伴うゴミ問題を抱える河口湖で、観光連盟の担当者とミーティングを行っていました。

会議室で向き合うのは、大人の担当者。しかし細井さんは臆することなく切り出します。

「イベントがいいですかね?それともSNSを活用したマーケティングとか、ルールを守る意識を広めるような取り組みがいいですかね」

細井さんの落ち着いた対応に、担当者は「とても中学2年生とは思えない」と驚きを隠せません。

ミーティング後は、実際に河口湖の湖畔を歩きゴミ拾いを行いました。一見きれいに見える場所でも、草むらや茂みの中をのぞき込むとゴミが隠れています。細井さんは拾いながら、「これは魚に使えるな」「この色、海のモチーフに最高」と、すでにアート作品のイメージを膨らませていました。

しかし、こうしたゴミ拾いやミーティングをこなす細井さんには、もう一つの顔があります。公立中学校に通う中学2年生です。社長業と学業の両立は、想像以上に大変だと言います。

「もう死に物狂いです(笑)。朝にメールをチェックして、学校へ行き、17時に帰宅。そのあと会議や仕事をこなしています」

とくに大変なのは、学校のテスト期間と仕事の大きなプレゼンがあるタイミングが重なるときです。朝起きてまずメールをチェックしたあと、5時から勉強を始め、帰宅後は学校の勉強を済ませてから会議や登壇イベントの準備。過去には校外学習の翌日から岡山・北海道への出張が続いたこともあり、「あのときは死ぬかと思いました」と振り返ります。

そんな多忙を極める細井さんですが、オフの過ごし方は至って普通です。「友達とゲームしたり出かけたりするのも、この活動も、同じくらい好きなんです」と、あどけなく笑う表情には、リアルな中学生としての素顔がにじんでいます。

10歳で親にプレゼン。「学資保険を解約」して開業資金に

細井さんが起業したのは10歳のとき。といっても、それまでは「バレリーナになりたい」と語るごく普通の小学生だったと言います。そんな細井さんの人生を変えたのは、起業家などの大人から学ぶ小中学生対象のオンラインの習い事『SOZOWパーク』との出会いです。そこで細井さんは起業という選択に強く惹かれました。

「自分のやりたいことを思いっきりできるところに惹かれたんです。私はちょっと”はっちゃけているタイプ”なので、人の下ではたらけないかなと思って(笑)」

さらに細井さんは、習い事を通じて知った環境問題やSDGsに強く関心を寄せるようになりました。

「環境問題に”無関心”な人はいても”無関係”な人はいない、という話を聞いて、その通りだと思ったんです。『自分がすぐできる行動はゴミ拾いだ』と思い立ち、それ以降毎日続けるようになりました」

もともと絵を描くことや芸術にも興味を持っていた細井さん。「ゴミ拾い」で環境問題に取り組みながら、好きな「アート」で表現するという、自分のやりたいことと社会貢献を結びつけた事業での起業に挑戦を決めました。

しかし、本格的に事業として始めるには開業資金が必要。そこで細井さんは、母親に「学資保険を解約してほしい。起業の資金にしたい」と申し出ます。

娘のために貯めてきた100万円の学資保険。事業がうまくいく保証は、もちろんありません。母・亜矢子さんは「どうしようか」と迷ったと言いますが、細井さんは説得を諦めませんでした。

YouTubeやインターネットで情報を集めながら事業計画書の作り方を調べ、デザインツール『Canva』を使って資料を作成。母親にプレゼンをしました。

「もちろん、起業して事業を続けていくことが簡単じゃないことは分かっていました。あらためて、お金を稼ぐ大変さを母に教えてもらい、その上で、『私はそれでも起業したい』という気持ちをプレゼンで伝えました。『大変なのは分かっているけれど、これだけ本気なんだ』って」

その熱意に、母親は腹をくくります。「そこまで本気なら」と学資保険の解約を決断。細井さんの起業への道が、ここから始まったのです。

いじめを経験して気付いた「自分がやりたいことをやろう」

事業を続けるうちに、細井さんは思わぬ壁にぶつかることになります。活動の様子が次第にメディアに取り上げられるようになると、教室の空気が変わり始めたのです。

細井さんの出演動画を教室で勝手に再生し始めるクラスメイト。「すごいね」と応援してくれるのかと思いきや、実際は「キモい」と嘲笑するためでした。動画はグループLINEで次々と共有され、悪口を言われる日々が続きます。小学6年生の冬、細井さんはしばらく学校に行けなくなりました。

「この活動をしていなければ、いじめられることもなかったのかな、と考えたこともあります」

そんな細井さんを救ったのは、小学6年生のときの担任の先生の言葉でした。

「自信を持って。あなたは素晴らしいことをしている。だから、いい言葉だけを聞けばいい。悪口なんて聞かなくていい」

「先生の言葉に涙があふれました」と細井さんは当時を振り返ります。この経験を経て、細井さんはある答えにたどり着きました。

「私は自分の活動に、もっと自信を持つべきだと思いました。他人の目ばかり気にしていると自分にフォーカスできない。だから、心ない批判よりも自分が本当にやりたいことに集中しようと決めたんです」

細井さんの今後の目標は、世界に向けて活動を広げ、ゴミを減らすことです。

「日本でゴミ拾いをしていると、好奇の目で見られることもありました。でも短期留学中に外国でゴミ拾いイベントを開催をしたとき、逆に『素晴らしいね』と褒めてくれる人が多くて、すごくうれしかったんです。そんなふうに関心を持ってくれた人たちに恩返しがしたい。そして自分自身も、もっと前進していきたいと思っています」

「周りの目が気になってしまう」あなたへ

学資保険を解約して起業し、中学生としての学業と事業の両立に励む細井さん。そんな彼女にとって、「はたらく」とはどういうことなのでしょうか。

「“新しい自分に出会うこと”だと思います。はたらいていると、自分が思っている以上に本気になれたり、夢中になれたりする瞬間がある。私も、この活動を始めるまでは平凡で単純な人生を送っていたけれど、仕事を通じて新しい感情や喜び、本気になれる瞬間に出会えました」

最後に、「やりたいことはあるけれど一歩を踏み出せない」「周りの目が気になって動けない」といったモヤモヤを抱える若者に向けて、細井さんからメッセージをいただきました。

「事情があってすぐに動けない人は、まず自分を認めることから始めればいいと思います。私みたいにズバズバ突き進むのは難しいし、全員ができるわけじゃない。でも『失敗してもそこから学べた』『ここまで頑張った自分は偉い』と、自分がやってきたことに目を向ける。それだけでも次の行動が変わるはずです」

「私は誰に何を言われても、自分の気持ちに正直でいようと決めました。周りの人間関係や環境を理由に『できない』と言い訳をしない。本当にやりたいことがあるなら、他人の目は関係ありません。自分が本当の姿でいられる場所にいるべきです」

路上に捨てられたプラスチック片に、アート作品としての新たな輝きを与える細井さん。彼女のように視点を変えれば、私たちも自分らしくいられる瞬間に出会えるかもしれません。

(「スタジオパーソル」編集部/文:間宮まさかず 編集:いしかわゆき、おのまり)

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ライター/作家間宮まさかず
1986年生まれ、2児の父、京都在住のライター・作家。同志社大学文学部卒。家族時間を大切にするため、脱サラしてフリーランスになる。最近の趣味は朝抹茶、娘とXGの推し活、息子と銭湯めぐり。
著書/しあわせな家族時間のための「親子の書く習慣」(Kindle新着24部門1位)

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