「本当は、はたらきたくない」郵便局7年→M-1王者。マジラブ・野田クリスタルの”ズルして稼ぐ”はたらき方

2026年3月11日

スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。

「はたらくことに関するメディアで言うのも申し訳ないんですけど……ぼく、本当は全然はたらきたくないんです」

そう話すのは、お笑い芸人・マヂカルラブリーの野田クリスタルさんです。2007年に相方・村上さんとマヂカルラブリーを結成し、2020年にはお笑いの賞レース「M-1グランプリ」、さらにピン芸人として「R-1ぐらんぷり」で王者に輝きました。

活動はお笑い芸人にとどまらず、独学でプログラミングを学び、自作コンピュータゲーム「野田ゲー」を生み出すゲームクリエイターとしての一面も。ほかにも、自身の発案で誕生したパーソナルトレーニングジム「クリスタルジム」の運営など、多彩な分野で活躍しています。

「好き」を起点に、わが道を突き進み、仕事に没頭しているように見える野田さん。それでも本人の口から飛び出したのは、「はたらきたくない」という意外な本音。仕事と、好きなこと・やりたいこととの距離感について聞きました。

バイトを早く辞めることが一つのゴールだった

──野田さんのお笑い芸人としてのキャリアが始まったのは、高校生のときに出演したバラエティTV番組『学校へ行こう!』(TBS)の「お笑いインターハイ」で優勝したことがきっかけですよね。

はい。当時全盛期だった「『モーニング娘。』の辻ちゃんと加護ちゃんに会いたい!一秒でも早く会って、ほかのファンと一線を画したい!」という気持ちで応募したら優勝して。それをきっかけに吉本に所属したのが芸人の始まりです。

ただ、芸人だけでは生活できるほどではなかったので、高校卒業後は、郵便局で非常勤職員として7年はたらいていました。郵便局員を選んだのは、高校1年生のときから3年間、長期休みのたびにはたらいていたので、仕事の流れやルールも分かっていて楽だったからです。

──「ほかのアルバイトをやってみたい」と思ったことはありませんでしたか?

なかったなぁ。非常勤職員の就業時間は朝8時から夕方15時ごろまで。言ってしまえば、学校に通っていた時間がそのままお金に変わる感覚だったので、これまでと暮らしが変わらないしいいやって。

ただ、郵便局員の仕事って、毎日まったく同じかというとそうでもないんですよね。郵便局員の忙しさは、その日の郵便量で決まるんです。朝出勤して、量が多ければ忙しいし、少なければゆったりはたらける。基本的に飽き性なので、その不確実性も自分に合っていました。

──2022年に発売された『スーパー野田ゲーWORLD』の中では、郵便局員のころの経験をもとに「郵便仕分け」をゲーム化されていますよね。

でも、正直に言うと郵便局員の仕事にそこまで思い入れはないんです(笑)。好きとか嫌いとかではなくて、高校生のときからやっていたから続けていた、くらいで。

ぼくは本当に、バイトそのものが嫌いでした。基本的に芸人ってみんなそうだと思うんですけど、バイトを辞められること、つまり芸人だけで生計を立てられることがゴールなんですよ。芸人だけで月20万円を稼ぐのは、とんでもない努力が必要ですし、芸歴20年を超えてもバイトを続けている芸人はたくさんいます。だからぼくにとっては、「いかにバイトを辞められるか」が当時のミッションでした。

──お笑い芸人が軌道に乗りはじめ、郵便局のバイトを辞められるとなったときはいかがでしたか?

そりゃあもう、すごくうれしかったですよ!芸人だけで生活ができて、ある程度の贅沢もできる今は……もうウイニングランですね。

得意なことだけで勝つ。それが一番ズルくて最強

──今では、お笑い芸人にとどまらず、ゲームやジムの運営など幅広い分野で活動されています。芸人以外の分野は、最初から仕事にすることを考えながら始められたのですか?

まったくです。ゲームは、ただ「ゲームをつくってみたい」と思ったから作り方を調べて、プログラミングにたどり着いただけ。筋トレも、学生時代に取り組んでいたバスケに大人になってから久しぶりに触れて、「ダンクシュートを決められるようになりたい」と思ったのがきっかけです。得意なことや好きなことを続けていた先で、自然と仕事につながった感じですね。

ぼくに限らず、好きなことをしているときって「稼ぎたい」とか「仕事にしたいから頑張る」とは思っていない気がするんですよ。たとえば、ボウリングが好きな人が毎日ボウリング場に通っていたとして、「私はここで学び、トレーニングしている」なんて意識はないじゃないですか。ただスコアを伸ばしたいだけ。逆に、釣りが好きな人がボウリング場に行ったら、それは好きじゃないから「学ばなきゃ」「頑張らなきゃ」になる。その違いだと思うんです。

──確かに、好きなことや興味のあることに対しては、「学んでいる」というより「もっと知りたい」が原動力になっていますね。

ぼくは、「得意なことをしているだけで勝てる」のが最強だと思っています。弱点を克服するために時間を使うくらいなら、得意なことを徹底的に突きつめて、一番を目指す。

以前、『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズで知られる、ゲームクリエイターの桜井政博さんと対談したことがあって、その際にもやっぱり好きと得意を突きつめたオタクが最強だなと感じました。というのも、ぼくもある程度プログラミングをやってきたつもりでしたが、桜井さんの話はずっと高尚で、ぼくの知識や経験では一言も理解できなかったんです。

しかも桜井さんは、ゲーム音楽にも詳しいし、グラフィックの話もできる。「好き」や「得意」で動いているから、学んだり頑張ったりしている感覚はなく、人一倍のめり込めるし、極め続けられる。それが結果として仕事になっていると聞いて、やっぱり「得意なことだけで勝つ」は最強なんだとあらためて思いましたね。

ありがたいことに、ぼくにとって芸人という仕事は「好き」も「得意」も全部入っているものなんです。ビジネスにしようと思わなくても、自然と仕事につながっていく。もうオートで「自分がすること=仕事」になる感覚が染みついている気がします。

──好きや得意だから突出できる、と。

ただ、のめり込んで極めているだけじゃなくて、その領域で一番を獲りたいなら「隙間」を狙うことですよね。ぼくの場合はゲームもジムもそうで。ゲーム“好き”の芸人はたくさんいるから、その中で一番目立ちたいなら、ゲームを“つくる”のが最強じゃないですか。筋肉芸人やマッチョ芸人も多いけど、ジムをつくっている人は少ない。ゲームをプレイしたり、筋トレしたりと、好きなことを「するだけ」じゃなくて、周囲に「そこまでやるのか!」と思わせるほどに極めて、ほかの人がまだやっていないことをするからこそ注目が集まる。

ぼくは、横並びで競争する気はないんです。隙間の隙間を狙うというズルをしながら、全部を勝ち取っています(笑)。

「苦手」「やりたくない」が、ぼくと社会をつなぎとめている

──そう思うと、今の野田さんは好きなことや興味のあることが仕事になって、はたらくのが楽しそうですよね。

いや……。はたらくに関するメディアでこんなことを言うのも申し訳ないんですけど、ぼく、本当は全然はたらきたくないんです。

──はたらきたくない!?

そうなんですよ。これがぼくの一番の矛盾で、こんなにはたらいているのに、根底でははたらきたくないんです。究極の理想は、ただただ好きなことだけしていたいんです。そこには「はたらく」も「労働」もなく。

でも、もし一切はたらかず、本当に自分の好きなことだけをしていたら、ぼくはもっとわがままで偏った人間になっていたと思うんですよね。それこそ、こんなインタビューの受け答えもできなかったかもしれない。

結局のところ、嫌なことや苦手なことが「学び」になって、ぼくをまともな人間にしてくれているのも事実なんです。やっぱり仕事をする過程では好きなことばかりじゃなくて、嫌なことにも出会って、それをなんとかすることの連続。はたらくことで、やりたくないことを克服し、学びを得て、それがまた自分をつくる大事な要素にもなっているんですよね。

苦手や嫌なことがセーフティーネットになって、社会とぼくをつなぎ止めてくれている。嫌なことをなんとか克服してきた経験値とその意味を実感しているせいで、「はたらかずに好きなことだけをやる」には振り切れないんです(笑)。

「死ぬぞ」と思う極地までいったら、「死なないためには」の逆算が始まる

──苦手は捨てきれないものとはいえ、向き合うのはつらいと思います。苦手なことに直面したとき、野田さんなりの対処法はありますか?

M-1で優勝してから、ロケの仕事が一気に増えたときがあって。最初は何も分からないから、とにかくがむしゃらにやっていたんですけど、だんだんしんどくなって「ロケきっつ」と思う日が続きました。嫌も度を越すと恐怖に変わってきて、それなのに行かなきゃならない。そうなったときに、逆側から考えはじめました。

──逆側から?

「これは死ぬぞ」と思ったら、人は死なない方法を考えますよね。それと同じで、このままいくとやばいと思ったから、しんどくて嫌なロケをちょっとでも楽しくするにはどうしたらいいのか逆算したんです。

そこで思いついたのが、「ちょっとだけ友達をつくる」でした。近くにいるADさんでも誰でもいいから名前を覚えて果敢に話しかける。そこで知り合いになると、ほかの現場でもそのスタッフさんがいるだけで少し楽しくなって、自分が前よりちょっとだけ笑えるようになる。

そうすると、ロケに行くのが憂鬱じゃなくなって、そこまで嫌じゃなくなって。ぼく自身は気付いていなかったんですが、周囲の人によると、現場全体の雰囲気もちょっとだけ柔らかくなっていたらしいんです。結果的にロケ全体が良くなるという、サイクルが回りはじめたんですね。

はたらいていると、嫌なことって全員あると思います。そこで今すぐの解決策がなくても、逆算して自分にできる最小単位の行動をするのが、好転のきっかけになるかもしれないなと。

──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?

ぼくはやりたいことがない状態って、別に悪くはないと思っています。それは引っ越して、どういう家にするかまだ決め切れていない状態に近い。どんな家にするのか、家具をあれこれ探して、イメージを膨らませられるのと一緒で、いろいろなものを見て、気になることがあったら試せる、めちゃくちゃ楽しい時間なんだと思います。ぼくも二度目の人生があるなら、やりたいことがない状態に一度戻ってみたい気持ちすらあります。

もし今「好きなこと」「やりたいこと」が見つからないのなら、視野を広げていくその時間を楽しんでほしいですね。まだスタートを切っていない、その貴重な時間を、ぜひ愛しんでください。何かが見つかったら、そこから「やり続ける」という別の競技がスタートしますから。

「スタジオパーソル」編集部/文:田邉なつほ 編集:いしかわゆき、おのまり 写真:菊村夏水

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ライター田邉なつほ
新卒で建築業界の営業に従事し、ライターに転身。介護・福祉業界の採用支援をサポートするスタートアップ企業で業務委託ライターを勤め、編集プロダクションで編集者も経験。現在は取材記事の執筆、メディア運営、コンテンツ制作に携わる。

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