英国に移住、同性婚で夢を叶えた。Kanさんに聞く“セルフラブ”思考で人生の充実度を上げるコツ
LGBTQ当事者として、Netflixの人気番組『クィア・アイ in Japan!』に出演し、そのあともジェンダーやセクシュアリティに関する発信などを続けているKanさん。以前は性的マイノリティを取り巻く環境に悩み、人知れず生きづらさを抱えていたとそうですが、番組への出演を機に“セルフラブ”(自分を大切にすること、自分を愛すること)への意識が大きく高まったと言います。
落ち込んだときや不安に苛まれたとき、自分の心をいかにケアし、いかに元気づけるかは、生きていく上で大切なこと。
今夏には、恋人のTomさんが住む英国への移住を果たし、同性結婚したKanさんに、セルフラブ思考を日々の生活に取り入れる秘訣をお聞きしました。
自己肯定感はメンテナンスできる
――Kanさんは2年間に『クィア・アイ in Japan!』に出演され、大きな反響を呼びましたよね。出演を決意されたきっかけはなんだったのでしょうか。
発端は、番組内に登場する親友、ミキが推薦してくれたことでした。ちょうど、性的マイノリティとして生きていくことに不安を感じていた時期だったので、何か状況を変えるヒントが得られるかもしれないと、藁にもすがる想いで出演を決意しました。
もちろん、自分がメディアに出て発言することで、世の中に議論が生まれれば理想的ですし、同じように悩みを抱えているマイノリティの方を勇気づけたいという想いもありました。しかし一番は、とにかく当時の自分のネガティブ思考をどうにかしたいという気持ちが強かったですね。
――実際、今の表情やSNSを見ていても、最近のKanさんはとても明るく、楽しそうに見えます。
ありがとうございます! 番組を通して、自分を愛し、ケアしてあげることの大切さを教わったことはやはり大きかったですね。もともと内心では、「もっと明るく生きていきたい」、「もっとカラフルな服を着たい」という想いを持っていましたが、それを全面に出して生きていけるようになったのは、間違いなく番組のおかげだと感じています。
――番組を見た人からは、どのような声が届きましたか?
僕自身が抱えていた悩みや苦悩をストレートに伝えたことに対し、「すべてさらけ出してくれてありがとう」とか、あなたがあなたらしく生きることで世界が明るくなります」など、SNSを通して国内外からたくさんのお礼の言葉をいただきました。反響の大きさには本当にびっくりしましたね。
――そうしたポジティブな反響がまた、Kanさん自身の意識を変えていくことにもつながったわけですね。
そうですね。それに番組内で行なった、自分自身の好きなところを書き出していくワークも、すごく効果的でした。それまでは自己肯定感というのは自分でコントロールできるものではないと思っていましたが、「ハンサム」、「スマート」、「いつも頑張っている」などと順に書き出していくことで、自分の心をメンテナンスできるんだと身をもって知りました。
これはそのまま自分を愛する力にも通じていて、実際にそれ以降、周囲の親しい人たちから「変わったね」とよく言われるんです。面白いもので、それまでは部屋も服装も無自覚にモノトーンが主体になりがちだったのが、自然と明るい色を好むようになりました。それまでいかに自分のメンテナンスができていなかったか、思い知りましたね。
日常に採り入れたい、セルフラブ思考を養う方法
――自分の長所を書き出すことで自己肯定感を養う。こうしたワークは現在も続けているんですか?
続けています。番組ではホワイトボードに書き出しましたが、最近は思いついたときに紙に箇条書きしたり、声に出して言ってみたりしています。とくに声に出して言うのは重要で、出かける支度をしながら「今日もかわいいね」などと言葉で発するだけで、心の満たされ方がまったく違うんですよ。
あるいは、その日達成したことを羅列するのも効果的です。何かイヤなことがあったり、落ち込んだりしていた日には、寝る前にその日の成果を書き出してみるんです。これは仕事面などの大きな成果である必要はなくて、「朝ちゃんと起きられた」とか「ご飯を3食しっかり食べられた」とか、どんなに些細なことでもいいと思います。
――生活する中で、私たちは、実は日々いろいろなことを達成しているということですね。
そうなんです。たとえば「3食しっかり食べた」なんて、そうそう成果として思いつくことではないかもしれませんが、続けていくと自然にこうしたポジティブな要素に気付けるようになるんです。その日も一日生きられたことだって、立派なことだと思います。
僕自身も最初はどれだけ効果があるのか半信半疑でしたし、自分のことを「かわいい」とか「かっこいい」などと褒め称えることに気恥ずかしさもありました。でも、心の持ちようが明らかに変わるのを感じ、素直に自分のことを褒めてあげることの大切さを知ったんです。
――自分を素直に褒めることで、上手に心をメンテナンスできるようになれば、仕事で何か大きな失敗をしたときでもすぐに立ち直り、快適にはたらけるようになりそうですね。
その通りだと思います。こうしたセルフラブ思考を磨く方法として、逆に、「自分が快適に過ごすためには、何が欠けてはいけないのか?」をチェックリストにするのも有効です。
たとえば僕の場合は、「外へ出る」、「ちゃんとご飯を食べる」、「好きな曲を聴く」、「人と話す」の4つで、なんとなく元気が出なかったりテンションが上がらなかったりするときは、たいていどれかが欠けているんですよ。
――気持ちを高めるために、ベストな自分と何が違うのかを意識することが大事だということですね。
そうですね。気持ちが高まる要素は人によって異なるので、自分の傾向をちゃんと把握してリスト化するのが大切です。これらを満たすだけで、意外とすぐに機嫌が良くなったりしますから。
――このテクニックを身につけたKanさんは、もはやちょっとやそっとのことでは落ち込むことはなさそうですね。
何があるか分からないので、その時になってみなければ分かりませんが、それでもこれまで学んできた自分を愛する方法を日々実践することで、大概のことは乗り越えられるのではないかと思っています。何よりも、そう思えるだけの自信を持てたことは大きいと感じています。
それに仕事でもプライベートでも、背負いすぎないことが大切で、いくらこうした手を講じたところで気分が上がらないときは、遠慮なく外に助けを求めればいいとも思っています。家族でも友人でもパートナーでもいいですし、あるいは医師や専門機関に相談したっていいわけです。僕自身も一人で悩みを抱え込んで、苦しんでいた時期があるからこそ、誰かを頼ることの大切さを今痛切に感じています。
自己否定につながらない目標設定を
――Kanさんは今夏、パートナーのTomさんが待つロンドンに移住し、9月には晴れて結婚式を挙げました。実現される過程には、さまざまな障壁があったことと思います。
やはり日本で暮らす家族や友人と離れなければならないのは辛いことですし、仕事も辞めなければなりませんでした。それでも日本では同性婚が認められていないため、パートナーとの結婚を目指すなら移住するしか選択肢はありません。制度の都合で主体的な決断ができなかったのは非常に残念なことでした。
――それでも移住を決断したのは、パートナーへの強い想いによるものでしょうか。
そうですね。僕たちは3年ほど遠距離恋愛をしていたのですが、コロナ禍で最後の1年半はパートナーとまったく会うことができませんでした。今こうしてロンドンで幸せに暮らせていることを、パートナーと会えなくて悲しんでいた当時の自分にぜひ教えてあげたいですね。
――ロンドンで新生活を送るにあたり、何か困ったことなどはありませんか?
結婚式前に一度、ホームシックに陥ったことはありました。というのも、コロナ禍で家族や友人を式に呼べず、自分の人生の大切な瞬間に立ち会ってもらえないことが、なんだかすごく悲しくなってしまったんです。
そのときは自分が何を悲しみ、どれだけ辛い想いをしているのか、自分と向き合い、「悲しいよね」「辛いよね」と自分の気持ちを認めてあげるようにしました。その上で、パートナーや家族に話を聞いてもらいながら、自分を立て直していきました。
その結果、無事に結婚式を挙げたことで配偶者ビザに切り替わり、今後は就労が可能になりました。今、こちらで仕事を探しているところです。仕事が決まってはたらき始めれば、ロンドンが自分の生活の場になる実感が湧いてくるのではないでしょうか。
――では、Kanさんが今目指している理想の未来はなんでしょう。
今はパートナーとのロンドンでの生活が心から幸せなので、この幸せを長く続けることが一番の目標です。ただ、もちろん将来的に日本で暮らしたい気持ちはありますし、パートナーもそれに同意してくれています。
――そのように目標を設定することも、セルフラブ思考を高めることに役立ちますか?
そう思います。ただし、目標を達成できなかったとき、それが自己否定につながらないよう注意が必要です。たとえば「何年以内にこれを達成したい」と時間で区切ってしまうと、達成できなかったときにどうしてもネガティブな気持ちになってしまいます。
そうではなく、あくまでも今の自分が最高の状態であることを意識しながら、目標を達成することでいっそうハッピーになれるかもしれない、という目標の立て方をするべきでしょう。僕が今こうして幸せに暮らせているのも、自分を愛し、その気持ちをいっそう高めるために必要なことを目標としてきたからです。
もちろん、うっかりご飯を食べすぎてしまった日など、自分のことを嫌いになりそうなときもありますけど(笑)、それも美味しいご飯がたくさん食べられたのだから幸せだと、うまく気持ちを切り替えるようにしています。ぜひ皆さんも、些細なことでもいいので、自分を素直に褒めてあげることから始めてみてはいかがでしょうか。
(文・友清哲 写真提供・Kanさん)
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