最近、街で見かける“変わり種”自販機、ぶっちゃけ上手くいってるの?オーナーに聞いた。
東京都品川区・中延駅前に10台の自販機が並んだ“だけ”の店舗があります。自動ドアをくぐると目に飛び込んでくるのは「韓国惣菜」「宮崎牛」「ジェラート」といった文字。どうやらここに並んでいるのは飲料ではなく、食品の自販機のようです。よくよく見てみると、そのお値段は数百円のものから、1,000円を超えるものまで。中には1万円を超えるキャビアの自販機もあります。
この不思議なお店の正体は、多様な商品を集めた自販機のセレクトショップ「PiPPoN」。内装業を手がけていた株式会社D プランの代表・内藤大輔さんが2021年12月にオープンしたお店です。異業種からの参入にもかかわらず、すぐさまテレビメディアなどにも取り上げられ、「うちの商品も取り扱って欲しい!」と依頼が殺到。そして、大手流通業者から声がかかり、1年を待たずに全国展開が決定したといいます。
自販機のセレクトショップというアイデアはどこから?そして、なぜオープンからすぐさま人気店になることができたのでしょうか? 商品の補充作業のため店舗に訪れていた内藤さんに話を聞きました。
こだわりの味を、いつでも、好きなときに
──「PiPPoN」ってどういうものなんですか?
PiPPoNはその名の通り「ピッと押したらポンと出る」冷凍自販機のセレクトショップです。
スーパーやコンビニでは買えない、それこそお取り寄せするようなおいしいものだけを集めようと決めて、2021年12月に中延駅前にオープンしました。現在は韓国料理、ブランド和牛、ジェラートなど10種の自販機を店頭に並べています。
──内藤さんはどういった経緯で、PiPPoNをスタートさせたのでしょうか?
私が経営するDプランという会社は内装工事業務を行っているのですが、もう1つ経営の柱となる事業を作りたいと思ったのがそもそものスタートです。
当初は韓国料理のお店をオープンしようと計画していました。物件を探していたときに、いい物件に出会ったのですが、ガスと水道が通っていない。工事をして店舗を開くことも考えたのですが、そうすると初期投資額が大きく膨らんでしまうなと。自販機のアイデアを思いついたのはその時です。
今現在飲食チェーン店ではセントラルキッチンで調理をして、最後の仕上げだけを各店舗で行うというシステムが主流になってます。だったら冷凍のまま販売してもいいんじゃない?って。
──レストランの味を自宅で好きなときに食べられますね。
そうなんです。テイクアウトの料理だと買ってすぐ食べないといけませんが、自販機なら好きなときに買えて好きなときに食べられますよね。
ちょうどその物件を見ていたときにコロナウイルスの感染が広まってきました。飲食店はより厳しくなるだろうという見立てもあり、思い切って「冷凍自販機のセレクトショップ」をつくることにしたのです。
──「セレクトショップ」というコンセプトはどのように生まれたのですか?
当時から、冷凍自販機でラーメンや餃子を売っていたところはあったのですが、複数台並べているところは、少なくとも東京都内にはなかった。
人と同じことをやっても差別化できないし、面白くもなんともない。でも、たくさん並べて「セレクトショップ」として売り出したら、面白がってもらえるんじゃないかと考えたんです。結果的に、オープン直後に多数のメディアに取り上げていただけました。
誰にも理解されなかったアイデアは、オープン後すぐ引っ張りだこに
──店舗の出店にあたって苦労されたことは?
他業種からの挑戦で冷凍自販機のことなんて何も分からなかったので、全部が苦労ですね(笑)。いろんな人にアイデアを話してみたのですけが、「冷凍自販機?」「よく分からない」という反応で。金融機関に借り入れをするときも「前例がありませんね。まずは自販機1台からスタートした方がリスクが少なくていいんじゃないですか?」という具合で。
──確かに、複数台揃えるとなると初期投資額も大きくなりますよね。
ただ、1台、2台だと面白みがない、どこかにあるような企画になってしまうんですよ。それで反対を押し切って9台で始めたんですが、生産者やレストランに説明しても冷凍自販機そのものがあまり知られていないので「何それ?」という感じで。まあ、確かに「自販機のセレクトショップ」といっても伝わらないのは無理もないですよね(笑)100軒近くあたったのですが、門前払いのところも少なくなかったですよ。
それでも諦めずに一生懸命説明していって、やっとラインナップを揃えることができました。オープン前からご協力くださった方々には頭があがらないですね。
──店頭にはどんなお客さんがいらっしゃるのですか?
駅前ということもあって近隣の方ももちろんいますが、遠方からわざわざ買いに来てくださるお客さまも多いですね。あと、出店を検討してくださっている企業の方もお見えになります。
──最初はどこからも断られていたのに、今ではわざわざ向こうから。
ありがたい話ですよね。オープン後に店頭で自販機を熱心にみている方がいたので話しかけたら「どんな仕組みなの?」と質問を受けて。よくよく聞いたら実は、『元祖五十番」という神楽坂にある老舗の点心店のオーナーで、メディアで見てすぐに足を運んでくださったそうです。その場でぜひ一緒にやりましょうと言ってくれて、展開後すぐに人気の商品となりました。今でもお取り引きを継続しています。
自販機はリスクが低く、場所の制約がない最小の店舗
──そもそも、冷凍自販機の事業ってどういう仕組みのビジネスなのでしょうか?
自販機本体を買うか借りるかして、商品を企画する。あとは設置すればスタートできます。
──自販機というと飲料メーカーが提供しているようもののイメージしか持っていませんでした。
飲料メーカーの自販機は冷凍ではなく「冷蔵」なので、そもそも設備が違うんですね。両方展開している大手さんもいますが、基本的には別物です。もちろん、今後参入してくる可能性はあると思います。
冷凍自販機事業はまだ市場が小さいこともあって、僕のように小さな会社や個人でやっているところもありますね。
──個人でもできるのですね。
そうですね。仕入れと補充さえすれば個人でもやっていけますよ。PiPPoNは僕が定期的に店舗に来て補充を行っています。
──小規模とはいえ、別業態への進出は大きな決断だったのではないですか?
初期投資額は2,500万円ほどかかりましたが、飲食店に比べるとリスクが低いですし、そこまで不安はありませんでしたね。店舗は数千万かけてお店をつくり、人を雇わなければ回りません。そして、スタートしてダメだったら撤退するしかない。
PiPPoNの店舗は設備を揃えて電気工事をやったぐらいですし、もし上手くいかなかったら自販機を移設したり商品を変えたりと別の活用方法を考えることもできますから。
──なるほど。
また、物件の制約が少ないのもメリットですね。
僕は飲食店の店舗を探していく中でATMで使われていた物件が目に入ったのです。ATMが設置されているところって基本的に立地がいいのです。でも、水道やガスは通っていないので家賃は比較的安いことが多い。そこで、ピンときたんですよ。電気さえ通じていれば自販機ビジネスは展開できるなって。
PiPPoNの物件は元々お花屋さんだったそうなんですが、間口17m、奥行2.3mと細長い物件で用途が限られてしまう。ATMと同じようにガスは通っていない。でも自販機を並べるにはぴったりだったんですよね。
オープン後1ヵ月で決まった全国展開
──今後、PiPPoNをどのようにしたいという展望はありますか?
今は中延の店舗に10台設置されているだけですが、どんどん広げていきたいですね。実は大手商業施設との提携が決まっていて、「自販機のセレクトショップ」を全国展開していきます。実は、僕はもう一社ReiHAN株式会社の役員を務めているのですが、その会社を通じて展開していく計画です。
──所属企業が、もう一社あるのですね。どういう関係なのですか?
オープン後間もなくReiHAN株式会社という冷凍物流会社の役員の方がPiPPoNに来てくれて、お話をいただいたんです。面白いアイデアだから一緒にやらないかって。
僕も展開場所を広げていきたいなと思っていたはいたものの、Dプランにはそんな体力もノウハウもなく、自社だけで広げていくのは難しいと思っていたところでしたので、こんなうれしい話はないぞと。
──1ヵ月で全国展開への足掛かりが掴めるとは、すごい展開ですね。
まさに渡りに船でした。このアイデアが他社に真似される前に拡大したいと思っていたので即決でした。
「駅ナカ物産展」をPiPPoNで
──具体的なアイデアはあるのですか?
いくつかあるのですが、まず1つは中延の店舗で人気があった商品を広く展開していくこと。同じ商品を同じ場所で売り続けるのではお客さまに飽きられてしまいますから、定期的に循環させていかなければいけません。設置場所が増えれば、パートナーであるレストランや食品会社の方にとってもプラスですよね。もう1つは物産展です。
──物産展?
ターミナル駅の駅ナカでやっている、地方の食品を集めた物産展ってあるじゃないですか。特定の場所で時期によっていろいろな出展があり、「次は何をやるんだろう」ってワクワクしませんか?そんなふうに、冷凍自販機を使って物産展を開きたいんですよ。物産展を目当てにするお客さんが増えれば設置する店舗や施設の集客にもつながります。
また、駅ナカでの展開も考えています。自販機って無人店舗がそこにあるようなものなんです。ターミナル駅の近くにはアンテナショップが集まっていますが、だったら駅ナカに冷凍自販機を設置しちゃえばいいんですよ。もし売れなくても通りかかる人に向けた宣伝ツールになりますし、お客さんからの反応が得られるので、リサーチに活用することもできると思います。
──実現したいアイデアが尽きないですね。
このビジネスは可能性があると思っているのです。人件費も食品の廃棄も最小限。僕自身も驚きましたが、PiPPoNの店舗はオープン以降食品の廃棄はゼロです。食品の会社は廃棄も織り込み済みで事業計画を立てますが、それがないというのは大きなメリットですよね。何より、フードロスの問題が叫ばれる今、時代にマッチしたビジネスだと考えています。
きっと、コロナ禍でなければ普通に飲食店をはじめていたと思いますし、僕にこんなチャンスは巡ってこなかったと思うんです。小さい会社だからこそすぐに方向転換して、この波を捕まえることができた。このまま、冷凍自販機事業を大きく広げていきます。
(文:高橋直貴 写真:玉村敬太)
※ この記事は「グッ!」済みです。もう一度押すと解除されます。