“ねぎ専用袋”に成人女性が大共感!ヒットを生むカプセルトイ商品担当に聞いた「企画の極意」
カプセルトイの長ねぎ専用の袋『ねぎ袋』は、発売前からツイッターで話題を呼び、2カ月弱で10万個超が売れるほど大ヒット。ニッチな商品ながら、店頭では完売が相次ぎました。
今や大人も楽しむカプセルトイは、バリエーションが増えて差別化が難しくなっています。そんな中、一風変わったカプセルトイの『ねぎ袋』は、多くの生活者から共感されてヒット商品となりました。
『ねぎ袋』の発案者である株式会社ターリン・インターナショナル 企画開発部の島本 典子さんに、企画の考え方やプレゼンのコツなど、ヒットを生み出す企画の極意を伺います。
ヒット商品の派生品。インパクトとカプセルトイらしさを重視
――『ねぎ袋』というニッチな企画を考えたきっかけは?
すでにヒットしていた『レジ袋エコバック』の派生として生まれたアイデアです。レジ袋が有料化したので、2021年5月にコンビニや牛丼屋などのレジ袋を模したエコバックをカプセルトイとして販売したら、すごく反響が良く「カプセルトイ業界だとエコバックのニーズが高い」という実績が生まれました。
「次は何かに特化したエコバックを企画しよう」と考えていたら、営業社員から「ねぎを入れる袋なんてどう?」と言われて、あ、いいな、と思ったんです。でも、当時はねぎ袋だけに絞るつもりはなく、野菜のイラストをつけた『野菜巾着』の企画を考えました。ねぎ袋に加えて、たまねぎのイラストをあしらった巾着袋などを企画しましたが、これは会議でボツになりました。
――なぜ『野菜巾着』はボツになったのでしょう?
「ただ野菜がデザインされた袋」でインパクトがなく、ターゲットがあいまいだったからです。確かに野菜を入れる袋ではあるんだけど、ねぎ袋のようにインパクトがあるデザインではなく、使う人の年齢層も性別もあまり明確にイメージできませんよね。
もう1つ致命的だったのが、カプセルトイらしさがなかったこと。カプセルトイらしさとは、思わずクスッと笑ってしまうようなユーモアやくだらなさだと思っています。本当にかわいいもの、便利なものは普通のお店で買えますから、ギャンブル性があるカプセルトイでは「え、こんなものをカプセルトイにしたの?」「こんなものにここまでこだわったの?」って驚きやネタ性が大事です。
そういうカプセルトイらしさはワクワク感があり、見本や商品のイラストを見て「くだらないけどやってみようかな」と回す気になりますし、そのワクワク感がカプセルトイの存在意義だと思います。
――今回の『ねぎ袋』は、そのワクワク感を意識して企画されたんですね。
はい。ねぎ袋そのものに見えるインパクト大のデザインで、「ねぎを買う人」という明確なターゲットがあり、カプセルトイらしさ実用性も十分でした。あえてねぎに振り切った商品デザインを企画書にして提示したことで「わかりやすいし、おもしろいね」とOKが出ました。
一般の市場にないデザインであることも、売れた理由だと考えています。自分でねぎ袋を作っている人もいますが、布屋さんで売っている布を手縫いした袋と、ねぎそのままのデザインの袋だと、やっぱり全然違いますよね。カプセルトイらしさで差別化できました。
――制作にはどれくらい時間がかかりましたか?
2021年11月に『ねぎ袋』の企画を出して、商品化したのは2022年9月と半年以上かかりました。それでも開発期間は短いほうです。
特に苦労したのはサイズ決めで、売り場に行ってねぎを研究しました。長ねぎは束売りや一本売りがあるし、小ねぎもあります。それぞれサイズが違うので、どういった商品展開にするか悩みました。
ねぎがはみ出さないよう大きめのサイズにしたのですが、全種類を長ねぎ用のサイズにするとコストが高く、採算が合いません。そこで長ねぎを丸ごと入れられる袋に加えて、長ねぎの先だけすっぽり覆える袋やこねぎ用の袋など、小さめの袋も展開し、コストの調整をしました。巾着袋はほかの用途にも使えるので、結果的に便利なアイテムになってよかったです。
――デザインにはどんなこだわりがありますか?
イラストを使ったことと、余白をなくしたことです。写真を使うとかえって安っぽく見えることがあり、ねぎのイラストでかわいらしさを感じさせつつ、パキッと分かりやすいビジュアルにしました。
袋に余白があると、せっかくねぎそのもののイラストを入れてもリアルに見えず、イラストを貼り付けただけの袋に見えてしまいます。デザイナーさんに「まるでねぎを持っているように見えるデザインにしてください」とお願いして、今のキャッチーなデザインに仕上がりました。
企画はキーワードの掛け合わせで作る
――どれくらいの頻度で、どんな企画書を作っていますか?
企画会議は毎月あるので、1か月に5個以上出します。出せるときは出せるだけ出していますね。
企画書は、商品イメージを1枚にまとめて出すことが多いです。製作費の見積もりを依頼するために、サイズなどの仕様を掲載することもあります。
――企画はどうやって考えていますか?
気になるワードがあれば、すぐにスマホのメモ帳に書き留めています。友達が何気なく言った「しらす」という単語だったり、時代劇のセリフに出てきた「お代官」という単語だったりと、特に共通点はないのですが(笑)
次に、メモした単語を見て連想ゲームをしていきます。「お代官と言ったら江戸時代、江戸時代というと侍……」というように派生させていって、「これいいかも!」と思えるカプセルトイらしい単語が見つかったら、それが企画につながります。『ねぎ袋』で言えば、営業社員が言った「ねぎはどう?」という言葉から「ねぎ」をピックアップして、しぶとく企画にしたことで採用されました。
あとは「エコバックが売れたからねぎ袋」というように、既存のヒット商品から派生させるケースも多いです。「エコバック×ねぎ」と既存ワードと新規ワードを組み合わせることもあれば、どちらもすでに商品化されている既存ワード同士を掛け合わせることもあります。そういう掛け合わせもイノベーションの一つなので。
――企画会議のプレゼンで意識していることは?
お客さまに商品を売る営業が納得できるよう、売れるポイントとターゲットを明確にすることを重視しています。
売れるポイントとは「なぜこの商品にしたのか」という背景です。よくあるのは「流行っているから」とか「過去に類似商品がヒットしたから」というもので、企画の説得力を高められます。ねぎ袋の場合は「レジ袋が有料化されてエコバックのニーズがある」「エコバックの商品が売れた」といった事実が、企画の背景になりました。
そして、女性向けなのか男性向けなのか、子ども向けなのか大人向けなのかなど、ターゲットが決まっているほうが「誰が買うのか」イメージでき、採用されやすくなります。ねぎ袋は成人女性をターゲットにして、実用性の高い企画にしました。
“振り切り”と“共感”がバズを呼ぶ
――カプセル業界のトレンドを教えてください。
これまでは、メインの購買層が子どもや成人男性だったのですが、今、成人女性に移行しつつあります。成人女性だと実用的な雑貨が売れやすく、袋やポーチはその筆頭です。
――SNSでバズらせるために意識していることは?
二の足を踏むポイントを振り切るとバスりやすいと感じています。ねぎ袋も、あまりにもニッチなので「本当に売れるかな?」と躊躇する気持ちがあったのですが、出してみたらバーンと話題になりました。ネタ性があり、つっこみどころがあったのだと思います。
ねぎ袋に関しては、主婦層を中心に「わかる、ねぎって持ち運びにくいよね!」といった意見が多く見受けられ、商品のニーズに共感していただけたことがバズにつながったと感じています。それがヒットの後押しになりました。
――今後は、どんな商品を企画していきたいですか?
クスっと笑ってしまうようなおもしろい商品を企画したいです。一番大事にしているのは、お客さまが手に取った瞬間のワクワク感。
カプセルトイは「いったい、実物はどうなっているんだろう?」と好奇心で思わず買ってしまうような魅力が醍醐味だと思っています。なので、ちょっとひねりのある商品にしたいんですよね。当たり前ではない、一風変わった着眼点を楽しんでもらえるような商品を作っていきたいと思います。
(文:秋カヲリ 画像提供:株式会社ターリン・インターナショナル)
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