「いつも品切れ」リファハートブラシ開発担当者に聞いたヒットの理由
発売から約10か月で50万個を達成した大ヒット商品「リファハートブラシ」。女性に人気の美容ブランド・リファから登場したヘアブラシで、つや感のあるサラサラな髪に仕上がるとSNSで話題になりました。
リファと言えば、美容ローラーやヘアケア商品など「ラグジュアリーブランド」としてイメージを確立していましたが、リファハートブラシは税込2,970円とリーズナブルです。ラグジュアリーブランドとしての知名度と人気を持ちながら、なぜ手に取りやすい価格帯の商品を開発したのでしょうか。
ブランド人気の秘訣やヒットの理由を含めて、株式会社MTG リファハートブラシ開発責任者の伊藤敬さん(写真上列中央)にお話を伺いました。
新しい美容文化をつくるため、手に取りやすい価格帯の製品に挑戦
――リファハートブラシの特徴は?
髪のからまりを梳かしてほぐすヘアブラシで、握りやすいハートの形で力を分散して髪への負担を抑えていること、先端が丸いピンになっていて髪だけでなく頭皮にも優しいことが特徴です。
リファのコンセプトは「ビューティエンターテイメント」で、本来の美しさを引き出すことを目的に商品開発をしています。美容ローラーを起点にスタートしましたが、「肌のみならず髪も正しくケアして、本来の美しさを引き出したい」という思いがあり、近年はドライヤーやシャワーヘッドなどヘアケア製品にも注力しています。
――ラグジュアリーイメージがあるリファが、手を出しやすい価格帯の製品を作った理由は?
さらなるヘアケア文化の浸透を目指す中でコロナ禍になり「コロナ禍で気分が沈みがちな社会を少しでも明るく勇気づけられる商品を届けたい」と考え、温かみのあるハート型のヘアブラシを開発する運びとなりました。
ブラッシングは髪にとって非常にいいケア方法で、リファハートブラシを通してブラッシングの価値を伝えながら、ヘアケア文化につなげていきたいとも考えています。手に取りやすい価格帯にすることで、より多くの人に使っていただき、ヘアケア文化を醸成するアイテムとして適していました。
人間工学に基づいた美しいデザインで、唯一無二の価値を
――開発過程でこだわったポイントはなんですか?
類似製品がたくさんある中で「リファならではの価値」を生み出すために、リファブランドでは「所有する幸福感」を重視し、製品を使っている時間も愛おしく思える製品を開発しています。リファハートブラシも同様で、人間工学に基づいて持ちやすい形・質感を追求しつつ、幸福感も高めるデザインに落とし込みました。
たとえば、持ったときに手に吸い付くようになっていて、ブラシが手に寄り添ってくれるような心地よさが感じられます。さらに見た目はなめらかで光沢感があり、特別な所有感が感じられるように配慮しました。
――そのこだわりを実現するために、どのような開発過程を経ていますか?
一般的なものづくりだとパソコンで3Dデザインを作って設計していきますが、リファブランドでは持ち心地にもこだわっているため、粘土で作られた模型「クレイモック」(以下、モック)を作ります。それを実際に触りながら本体の重さや質感を確認して、メンバーで議論しながら大きさ・厚み・カーブの角度などを0.1ミリ単位で修正にするなどこだわりを重ねました。
モックは1個十万円するものもあり高価ですが、それでもこだわり抜くのがブランドとしてのプライドです。ヒット製品はすぐ海外などでコピー品が出されてしまいますが、これだけ研ぎ澄ましたモノづくりをしているので、製品を手に取ればすぐに本物か偽物か分かります。
――リファハートブラシの開発過程で特に苦労したことは?
一番苦労したポイントは、ピンの開発です。1回のストロークで効率よく髪を梳かすため、頭皮に当たって髪をかき分ける「ほぐしピン」と、頭皮に当たらずキューティクルの表面をなでる「みがきピン」を組み合わせ、3段構造のブラシにしています。
特徴的なのは、ピンの長さを変えず土台を波打たせることで3段構造にしていることです。同じ素材でピンの長さだけを変えると、長いピンは柔らかく、短いピンは硬くなってうまくブラッシングできません。何度も試作を繰り返し、この新しい3段構造に着地しました。
――開発担当者として意識したことは?
リファハートブラシは社長直属プロジェクトだったので、「安定した売り上げと世の中への貢献の両方を実現したい」という社長の想いを叶えるべく、デザイン性とコスト管理の両立を意識しました。製品にした後に加工を施すとコストが上がるので、後加工をしなくてもいいように、製品の金型作りには非常にこだわりました。
お客さまだけでなく、メンバーもパートナーも照らしたい
――伊藤さんは、入社してからどんなキャリアを歩んできましたか。
前職は派遣の技術職で、設計に携わっていました。その職場で任される業務には限界があったことから「若手のうちから思いっきりチャレンジできる環境ではたらきたい」と思い、リファを売り出して急成長中のMTGに興味を持ちました。初代リファローラーを見たときに「なんて美しいデザインなんだ」と製品に惚れこんでいたので、自分もこんな素晴らしい製品を作りたいという思いがありました。
ただ、当時のMTGはベンチャー気質で、即戦力の中途採用がメインでした。まだ24歳でスキル不足の私は一般の採用枠では受からないだろうと考え、会社に直接電話をかけて「興味があるからはたらかせてほしい」と直談判し、面接してポテンシャル採用されました。
入社してから3年間は修理や返品を受け付ける業務を行い、お客さまの声や製品の改善点を学びました。この経験があったからお客さま目線が養われ、製品構造を深く知る経験から積み上げた開発設計ができる人材になれたと自負しています。
――開発担当者になってから、一番やりがいを感じることは?
開発の目的は「世の中の人をいかに幸せにするか」なので、製品を使った方の生活が少しでも豊かになるとうれしくなります。リファハートブラシなら「朝起きたときのテンションが上がる」「手間がかからなくなって時間短縮できる」といった感想がSNSに上がっていて、開発して良かったと実感しました。
いい製品を開発することで、プロジェクトに関わっているメンバーやパートナー企業の方にも光を届けたいと思っていて、それが達成できた時にも喜びを感じます。MTGの企業理念「一人ひかる 皆ひかる 何もかもひかる」で、一人が光り輝くことによって周りのメンバーもパートナー企業もお客さまも全員をひかり輝かせることができる、と考えています。
リファハートブラシは、社内外メンバーから成る「チームハート」のメンバー全員で作り上げた製品です。全員がこうした思いを持っていて、熱量の高いメンバーと一緒に開発できたことはとても楽しかったですし、やりがいを感じましたね。
――ハートブラシの開発を経て、何か成長を感じたことはありますか?
リファハートブラシはスタートアップ事業という、社長直轄のプロジェクトで「経営者を育成する」というプロジェクトでもあり、製品の質だけでなくコストや売り上げについてもシビアに向き合いました。開発担当者は「いい物を作る」ことに注力しがちですが、経営目線だとどれだけ良い物でもタイミングを逃せば売れなくなってしまうので、スピードがより重要になるケースもあります。このプロジェクトで、広い視野を持てるようになりました。
次の目標は、2030年までにリファハートブラシの販売本数を1億本まで伸ばすことです。ヘアブラシを国内外に普及させて、新しいヘアケア文化をつくっていきます。
(文:秋カヲリ 写真提供:株式会社MTG)
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