泥固めされたスニーカーがピカピカに!TikTokerのお洗濯ニキが話題
「洗うか」
そう言って、泥でコーティングされたスニーカーをみるみる綺麗にするクリーニング動画がTikTokでバズっています。
@okpon_the_cleaner 泥まみれのスニーカーに挑戦だ!? #sneakercleaning #cleaningasmr #yeezy ♬ オリジナル楽曲 – オカポン??お洗濯ニキ
投稿しているのは“お洗濯ニキ”ことオカポンさん。“クリーニング屋さん”と“洗濯系インフルエンサー”という2つの顔を持ち、クリーニング屋さんではたらきながらスニーカークリーニング動画をTikTokやInstagramで発信しています。
なぜクリーニング屋ではたらきながらSNSでの動画発信を始めたのでしょうか?一風変わったクリーニング動画づくりの裏側や、インフルエンサーとしてのはたらき方を伺いました。
気持ちのいいクリーニング動画を発信
――汚れたスニーカーを洗う動画の企画は、どうやって考えていますか?
スニーカーを洗う動画は汚れたスニーカーありきなので、実際にお客さまからクリーニングに出してもらったスニーカーを綺麗にする企画と、自前のスニーカーを汚してから綺麗にするゼロベースの企画の2種類があります。
スニーカーについている汚れやスニーカーの素材を分析してから「こういう風に洗ったら汚れが落ちるだろう」とイメージして、それを絵コンテに描起こしながら構成を考えます。ショート動画は曲に合わせてカット割りすることが多いので、最初に曲を選んでから絵コンテを考えています。
――動画制作にはどれくらい時間がかかりますか?
曲を聞きながら構成を考えて絵コンテを作るのに約1時間、撮影と編集に約3時間、全部で約4時間かかります。前は6時間くらいかかっていましたが、絵コンテを作るようになってから編集の効率が上がり、2時間ほど短縮されました。最近ではASMR動画にも挑戦しています。
――動画づくりのこだわりは?
一番大事にしているのは、気持ちよく見てもらうことです。汚れが落ちていく描写をなるべく多くしたり、ブラシでシュッシュッと擦ったり、泡がプシューッと吹き出したりする気持ちいい音を入れたり、曲に合わせてテンポよく画面を切り替えたりして工夫しています。
楽しんでもらえるコンテンツにすることも意識していますね。最初はクリーニングの様子だけ発信すればいいと思っていましたが、TikTokが運営するクリエイターアカデミーで「ファンを作るなら自分のキャラクターを出したほうがいい」と学び、顔出しして「お洗濯ニキ」というキャラクターを作ったんです。動画の冒頭で「洗うか」と言ってキャラクター性を出すようになってから、フォロワーが増えました。
コロナ禍で落ち込んだクリーニング業界を盛り上げるために
――動画を発信するようになったきっかけは?
栃木県宇都宮市にある実家のクリーニング店で働いていたのですが、コロナ禍でクリーニング業界が大打撃を受けて「このままじゃマズい、何かしないと」と新事業を模索していました。最初は家の洗濯物を代わりに洗って畳んでおく洗濯代行業を始めたんですが、そこまで大きな反響が得られなくて。その後も手当たり次第に色々チャレンジしていた中で、個人的に始めたスニーカークリーニング動画が伸び始めました。
クリーニング店の利用客は高齢な方が多いです。若い人にももっとニーズがあるはずだし、クリーニング業界の将来を思うなら、若い利用客も増やさないと縮小していくばかりです。SNSで「クリーニング屋さんと言えばオカポン」ってブランディングをして集客力を高めつつ、若い人のニーズを発掘することが当初のモチベーションでした。最初の動画は遊び半分でコンバースをクリーニングしてから染める動画を投稿しました。
――コロナ禍のダメージが大きかったんですね。
みんな外出しなくなってしまったので、売上は最低でした。コロナ前はクリーニングの市場規模が4,000億円くらいあったんですけど、今では2,000億円を切っていて、半分以下になってしまいました。長い自粛生活でクリーニングに出す習慣がなくなってしまったのと、リモートワークが一般化してスーツやワイシャツを着る人が減ったのが主な原因だと言われています。
――今はどんなスタイルではたらいていますか?
2023年2月に実家の会社を離れてから、知り合いのクリーニング屋さんと業務委託契約を結び、今年の6月に上京しました。
平日は自宅兼作業場でスニーカークリーニングをしたり、動画を作ったりしています。スニーカークリーニングは作業机1つ分しかスペースを取らないので、自宅でも問題なく作業ができます。最近は、自分で開発したスニーカー専用洗剤の販売もスタートして、ネット販売も行っています。
土日は店舗に行って、コインランドリーに併設されたセルフクリーニングスペースで接客をしています。そのスペースには業務用のミシンやアイロン、自動畳み機が設置してあり、もちろんスニーカークリーニングも受け付けています。
動画を作ってSNSを更新したり、DMの返信やECサイトの対応をしていたりすると、夜ごはんを食べるのは22時くらい、寝るのは2時くらいですが、独立したばかりのタイミングなので今ががんばり時だと思っています。
――多忙ながらフレキシブルなはたらき方ですね。実家の会社を辞めたのはなぜですか?
SNSでの集客ノウハウを習得したかったからです。人の多い東京で経験を積んで、SNSでの発信力をしっかり伸ばしたいと思いました。
実家は創業100年を超える老舗クリーニング店で、社長を務める父はぼくの意志を尊重してくれていますが、SNS集客にはピンと来ていないと思います。確かにクリーニングは地元密着型のビジネスで、車社会では半径2キロくらいが商圏だと言われています。ネットで集客しても離れていたら配送費がかかり、価格とのバランスを保つのが難しい面もあります。
こうした難しさを解消してクリーニング業界を活性化できるように、SNSで新しい可能性を見いだしたいです。SNSでの集客がしやすい東京でノウハウを早く蓄積して、スキルアップしてからまた実家の会社に戻りたいと思っています。
――最終的には実家のクリーニング屋さんに戻りたいんですね。
12歳から父子家庭で、はたらく父の背中を見て育ちました。父を尊敬しているので、実家の会社を辞めるときはものすごく悩みましたし、今でも正解だったのはか分かりませんが「今のままじゃクリーニング業界はダメだ」という感覚が強くなり、独立して力をつけてから支えようと思いました。これから数年で徹底的にSNSノウハウをつけて、その成果を持ち帰りたいです。
「クリーニングしなくても綺麗」を保てる方法を伝えたい
――クリーニングの仕事で大切にしていることは?
事前にヒアリングして「どんなふうに仕上げてほしいのか」を理解し、認識のすり合わせをしてからオーダーを受けるようにしています。SNSからDMでオーダークリーニングを受ける場合も、スニーカーの写真を送ってもらって、ヒアリングを行います。
たとえば普通のスニーカーは新品同様にピカピカにすることを目指しますが、ビンテージスニーカーだったらビンテージらしい風合いを残すようにクリーニングすることも多いです。こうした細かいニュアンスは打ち合わせしないと分からないので、手間はかかりますが欠かせません。
できないことはできないとお伝えするのもポリシーです。中には落とせない汚れもあり、お客さまの要望に応えられないケースもあります。そうしたリスクもきちんと伝えて、納得していただいた上で依頼してもらいます。こうしたコミュニケーションを行うことで「クリーニングをお願いして良かった」と思ってもらえてはじめてお客様に満足していただけると思っています。
――今後の目標は?
ぼくが作った洗剤でセルフケアしてもらいながら、それでもダメだったときの助け船としてクリーニングサービスを運営していきたいと思っています。特にスニーカーは汚れやすく、綺麗な状態で着用するにはセルフケアが欠かせません。汚れは時間が経つほど落ちにくくなるので、早めのセルフケアが大事なんです。僕がSNSで発信することで信頼を作り「この人が作った洗剤なら大丈夫だろう」と洗剤を使ってもらって、気持ちよくファッションを楽しんでもらえたらうれしいです。
独立してから暗中模索で挑戦しているので、今後は物販が得意な方や、クリーニングに興味がある仲間を探していきたいと思っています。クリーニング業界はお客さまだけじゃなく職人も高齢化が進んでいるので、若い人に入ってきてほしいんですよね。お客さまにもはたらいている人にも「おもしろいクリーニング屋だな」と可能性を感じてもらえる、新しいサービスを作っていきます。
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