500万負けると「ガチ凹み」 世界のヨコサワに聞くプロポーカープレイヤーのはたらきかた
ラスベガスやマカオ、モンテカルロなど、世界中のカジノリゾートを飛び回り、ポーカーの試合に勝つことで稼いでいくプロポーカープレイヤー。ゲームに勝てば掛け金を総取りでき、負ければ所持金が消えていくシビアな世界で、プレイヤーはどのように腕を磨き、生活を送っているのでしょうか。
国内最大級のポーカールームの経営や、YouTuber「世界のヨコサワ」の活動を通し、ポーカーの情報を広く発信する、プロポーカープレイヤー・横澤真人さんに取材しました。
1年の半分を海外でポーカーに費やす
――はじめに、横澤さんはプロポーカープレイヤーとして活動されていらっしゃいますが、「プロ」と「アマチュア」の違いをどのように捉えていらっしゃいますか。
実は、ポーカーの「プロ」って非常に曖昧なんですよね。特に選手としての登録が必要なわけでもありませんし、免許や資格が必要なものでもありません。強いて言えば、「ポーカーで生計を立てられる人」はプロ、という感じでしょうか。
ただ、実はそれがめちゃくちゃ難しくて。単純に強いだけでは食っていけないんですよね。
というのもポーカーってたくさん経費がかかるんですよ。ヨーロッパやアメリカに14日間滞在するときは、宿泊代・飛行機代だけでも1人あたり50万円ほどかかります。ただでさえ、それだけの経費がかかっているのだから、その支出以上の売り上げをゲームで見込まないといけません。
経費を差し引いてもプラスであれば、れっきとしたプロポーカープレイヤー。逆に負け越し続けて赤字を連発すれば「プロ」とは呼べないかもしれないです。
――厳しい世界ですね……。横澤さんのようにYouTubeの更新やポーカールームの経営など、他の仕事を行いながらプロポーカープレイヤーとして活動している人は、どれくらいいるのでしょうか。
具体的な比率は分かりませんが、専業の方が多い世界だと思います。というのも、ゲームに向き合うときと仕事に向き合うときで、頭の切り替えが難しいんですよね。
プロポーカープレイヤーを名乗っている人たちは、月に最低でも200時間以上はポーカーに費やしている人が多いです。ポーカー200時間と仕事100時間だと集中力が途中で切れてしまうんですよね。集中力が切れると、ゲームの結果にも当然影響は出ます。
逆に1カ月に300時間、ポーカーだけをやり続けることは、正直辛くないです。一時期、本当に月300時間やっていたこともありましたから。
――300時間というと、毎日10時間近くはポーカーに費やしていたということですよね。そんなに集中力って持つものなのでしょうか。
意外となんとかなります。ポーカーは国際規模の大会が世界各地で開催されているのですが、だいたい昼の12時にスタートし、深夜24時に終わるのがデフォルト。途中休憩を抜いても、10時間はプレイしていることになります。
でも慣れれば慣れるほど、力の抜き方が分かってくるんです。今はずっとONの状態で10時間続けるのではなく、集中しなきゃいけないところだけ集中しています。
実際、ぼくが大会で本当に集中するのは総時間の1割くらい。その代わり、その1割に全力でフォーカスするんです。サッカー選手が90分ずっとは走り続けないところと似ていると思います。
――横澤さんは日本と海外を行き来しながら活動されていますよね。年間で海外にはどれくらい滞在されているのでしょうか。
年間で6〜7カ月は海外にいます。海外では7割をポーカーに時間を費やしていて、2割がポーカールームの運営周りに関する仕事、そして1割がYouTubeの撮影をしていますね。
逆に日本にいるときは、ほとんどポーカーに触れていないかもしれません。家でポーカーの勉強をすることもありますが、基本的には仕事の打ち合わせや事務作業で1日を終えます。ごく一般的な会社員の生活と変わりません。
――先ほどの集中力の話題とも関連しますが、日本と海外を行き来するには、体力も必要だと思います。何かトレーニングをされていたりは?
体力が特別あるわけではないのですが、ぼく自身に耐性があるみたいなんですよね。疲れにくいというか。
先日、数学系YouTuberであるヨビノリたくみ、でんがんをゲストにお招きし、コラボ動画の撮影のためにモンテカルロのカジノへ行ったんです。
普段そもそもあまり海外に行く機会がない2人は、めちゃくちゃ疲れていました。慣れない地で食文化も違うなか、半日以上をゲームに費やすんですから。そりゃあエネルギーも消耗しますよね。
ただ、ぼく自身はもともと日本にいても不規則な生活を送っているし、かなり雑に生きているんで(笑)、3時間睡眠でも15時間睡眠でも、自然と調子をキープできるんです。時差ボケに苦しむこともあまりありません。
とはいえ大きい大会には最善のコンディションで臨みたいので、運動と睡眠、食事を意識します。前日に運動をし、食事も血糖値が上がらないように炭水化物と糖質を控えるようにしていますね。
勉強次第では「勝てる」ようになる?
――世界中で大会が開催されているなか、横澤さんはどのように大会やカジノの情報をリサーチしているのでしょうか。
海外の情報をまとめているサイトをチェックしたり、「こんな大会があるらしい」という口コミをキャッチしたりすることが多いです。開催直前にならないと情報が出ない大会もあるので、月に1回くらいのペースで情報収集をしています。
ただ海外のまとめサイトも、詳細はほとんど書かれていなくて(笑)。経験者じゃなければ、大会名を見てもチンプンカンプンだと思います。日本語のまとめサイトがあれば理想なんですけどね。
――情報収集能力が試されますね。では「このカジノに行こう」と決めたとき、所持金は大体どれくらいを用意するのでしょうか。
たとえばチップを購入して参加する「キャッシュゲーム」なら、ゲーム前に「ブラインド」といって、参加者全員が強制的にチップを支払います。ブラインドの最低額が10ドル(1300〜1400円前後)に設定されている場合、参加者はその2,000倍である260〜280万円を所持するのがベターとされていますね。
仮に200万円しか持ってない場合でも、プレイに参加することができなくはない。ただ、運の要素も強いゲームなので、どれだけ実力があっても、ツイてないと負けが何日間も続いてしまうことはザラにあります。
何より、負けて所持金がゼロになったら、その時点でプレイに参加できなくなってしまうんですよね。滞在期間が残っているのにカジノへ行ける所持金もなく、大赤字で帰国するような事態は避けたいです。
――横澤さんはときどき動画で「百万円負けました!」とおっしゃっているときがありますよね。サラッとすごい額を言っていますが、「負けたら落ち込む金額」のボーダーはいくらくらいなのでしょうか。
うーん、100万円は何とも思わず、200万円はまあ耐えられるかな……300万円から徐々にダメージを受け始めますかね。500万円となると「ガチ凹み」の域です。正直メンタルは強い方だと思うので、飯食って寝れば割と復活するのですが(笑)。
――お話を聞くほど「黒字化」の難しさが伝わってきました。では、プロポーカープレイヤーとして生き残るために、横澤さんはどうやってスキルを磨いていったのでしょうか。
意外に思われるかもしれませんが、実はポーカーってゴリゴリと計算したら答えが出ることがあるんです。相手が持っていそうなハンドを予測し、自分がどうアクションを取れば良いかを判断するために、試合中も計算することは多々あります。
そのためには組み合わせのパターンを覚え、数をこなすことで経験値を高める必要があります。問題を解き続けて勉強し「どう切れば期待値が高まるか」という判断の精度を上げていくことが重要。
ただ、ぼく自身がポーカーを始めた10年前は、今のように有名なプレイヤーの試合動画も少なく、解説書などの類もありませんでした。全員が手探りの状態で、勉強法に悩んでいましたね。だからこそ、最近ではぼく自身が参考書のような道筋をつくるつもりで、ポーカーチャンネルから情報を発信するようにしています。
ぼくのポーカーの強さに気付いてもらいたい
――ポーカーには「結局は運次第」のイメージがありました。日々の鍛錬次第で、プロポーカープレイヤーを目指すこともできるのですね。
意外と地味ですよね(笑)。でも、ぼくが発信したいポーカーの面白さって「勉強すれば勝てる」ところではありません。そもそも「プロポーカープレイヤー」になることを、ぼく自身はまったくおすすめしていないんです。
――なぜおすすめできないのでしょうか。
一番は、プロになってしまうと「お金を稼ぐこと」だけが目的になっちゃうからです。一時期、それでポーカーが嫌いになったこともありました。
ポーカーでお金を稼ぐというのは、自分より下の実力者だけを相手にする、ということ。強い人と戦えば実力はつく一方、お金がマイナスになるリスクもあります。
YouTubeを始める以前はずっとポーカーだけに専念していたのですが、途中から「作業的にただ打つだけ」で何もスキルアップができず、苦しかったです。お金は増えるけど、やりがいはなくなってしまいました。
ジレンマに苛まれて「プロポーカープレイヤー」という生き方を辞めようとしたときに「ポーカーを広める側に回るべきでは」と気付き、まずはYouTubeチャンネルを開設。もっとたくさんの人にポーカーを楽しんでもらうために、自分たちのポーカールームも立ち上げました。
実力が上のプレイヤーともガンガン戦える現在、すごく良い環境を作れているように感じます。
――ポーカーが嫌になった時期を経てもなお、ポーカーに関連する事業を続けているのはなぜだと思いますか?
ぼく自身にポーカーの才能がありすぎたからでしょうかね(笑)。ポーカーだけは飽きずにずっと続けられるんです。
YouTubeやポーカールームの運営を通してポーカーの魅力を発信しているのも、大前提として「ぼくのポーカーの強さ」にもっと気付いてもらいたいから、というエゴがあります(笑)。もちろんポーカーの楽しさを知ってもらいたい、という気持ちもありますけどね。
――横澤さんはいつまでプロポーカープレイヤーとしての活動を続けると思いますか?
正直分かりません。ただ、死ぬまで「ポーカープレイヤー」ではあり続けると思います。
そもそもポーカーは、その人のアイデンティティにもなり得るほどの影響力をもったゲームなんです。ハマる人はすごくハマる。ポーカーをしていないときですら「ポーカープレイヤー」という肩書きがついて回り、その人自身のキャラクターにもなり得ます。
それでいて敷居が低く、体力の衰えや経験年数に左右されないのが良いですよね。上手い・下手関係なく「ポーカープレイヤー」の生き方ができることが、ポーカーの魅力だと感じています。周りでも「もう飽きちゃってやっていない」と言っていた人が、何かのきっかけで数年ぶりに戻ってくることがありますから(笑)。
日本国内においては、ポーカーの歴史は浅いです。最近やっと市民権を得てきたものの、まだまだ多くの人にとって、偏見や先入観がある気がします。これから10年プレイヤー、20年プレイヤーが増えていくことで、カルチャーとして定着していく未来に期待したいです。
(文:高木望 写真:鈴木渉)
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