元自衛官・キャリア15年のGメンが語る「職業・万引きGメン」の魅力とは。
怪しい行動をとる不審者を尾行し、犯行の瞬間をとらえ、店を出たところで声をかける──。テレビの報道番組でも特集されることの多い「万引きGメン」という仕事。その名は周知されていますが「どうすれば万引きGメンになれるのか」はあまり知られていません。
そこで、全国に万引きGメンを派遣する株式会社エスピーユニオン・ジャパンに所属するベテラン万引きGメン・今関智也さんに話を伺いました。果たしてどんな人が万引きGメンに向いているのでしょうか。また現場ではどういったスキルが求められるのでしょうか。
多い日は1日6〜7件検挙する「万引きGメン」の実態
──今関さんが所属するエスピーユニオンジャパンでは、主にどういった企業から万引きGメンとしての依頼を受けることが多いんですか?
身近なところで言えば、スーパーや書店といった量販店などからのご相談が中心です。たまに「イベント会場で商品売買の現場を見張ってほしい」「中古車のオークション会場で部品盗難を防いでほしい」という依頼をいただくこともあります。
監視カメラの性能は進化しているものの、すべての行動を映像で追いきることは難しくて。死角がある以上、我々万引きGメンが店内を巡回し、人の目で見張る必要はまだまだあるんです。
──社内に在籍されている万引きGメンって、どれくらいの人数になるのでしょうか?
名古屋、仙台、郡山、札幌などの支社を含めると、総勢200名ほどが在籍していますね。それで、だいたい一つの現場につき、1〜2人体制で勤務に就くことが多いです。
万引き被害が絶えない現場では長期にわたって常駐することもありますし、数日だけ張り込み、万引き犯を捕まえて完結する場合もあります。基本的には1日8時間拘束の1時間休憩です。
そして店内を観察して万引き犯を特定・確保し、身柄を店舗に引き渡すのが主な役割です。店舗が「警察に被害届を出す」と判断した場合は警察署に同行し、犯行の目撃証言を行うこともあります。
──1日中張り付いて、どれくらいの万引き犯を捕まえるのでしょう。
多いときは1日に同じ店舗で6〜7件ですかね。ただ、警察署まで同行するようなケースに当たると事情聴取に時間を費やしてしまうため、1件だけで1日が終わることもあります。
──思った以上に多い!万引きってそんなに頻発しているんですね。
ぼくも最初のころは「本当に万引きってあるんだ」が正直な感想でした。
ただ、万引きが多発する店舗というのは「万引きしやすい空気」が漂っていたりするものなんですよ。人手不足で店員さんがお客さんのサポートに回りきれていなかったり、『いらっしゃいませ!』というあいさつがない、といったクレームが多発していたりと、傾向ははっきりしています。
だからエスピーユニオンジャパンでは万引きGメンだけではなく、交通誘導やイベント、片付けをはじめとする店舗での軽作業など、店内整備全般もサービスとして提供することがあります。万引きしにくいお店にするためには、店内の見回りを強化するだけが策ではない、と知ってもらいたいです。
悪いことをするときの「仕草」を見極める
──万引きGメンが「一人前」になるための道のりを教えてください。
基本的に弊社では1ヵ月ほどの研修期間を設けています。万引きGメンとしてはたらくために必要な法定研修から技術的な教育、万引き犯の行動パターンまで、座学を交えながらひと通り学ぶんです。そして先輩と一緒に現場を経験する期間を経て、はじめて独り立ちします。
──万引き犯の行動パターンというのは気になりますね。どういったことを学ぶんですか?
目つきや顔つき、カゴの中身など、不審者が万引きを実行しそうかどうかを見極めるための知識が中心です。
一例として、悪いことをする人って、目が泳ぐ傾向にあるんですよ。「誰か見ていないかな」と視線が動く。だから手元が見えていなくても、棚の間から目さえ見えれば「その人が怪しいかどうか」を判断できます。
過去にお客さんではなく、店長が万引きをしていた……、なんてケースがありました。閉店間際に商品をカートに入れ、閉店後の真っ暗な店内の一角に消えていく。その時も、お店には誰もいないはずなのに背後を気にしていたりと、目が泳いでいました。
──そんな、疑う余地もない人が犯人だったなんて……。些細なヒントも見逃せませんね。
実際、万引きGメンとして活躍できる人は観察力に優れています。
普段買い物をしている時、店内にどんな人がいるかなんて気にしませんよね。でも万引きGメンの立場で入店すると、お店にいる全員をマークする気持ちで勤務しなければいけないんです。その中でも不審に思う人を複数ピックアップし、同時並行で観察しながら徐々に絞り込んでいきます。
その「不審」な人を見分ける判断が的確な人ほど、検挙率が高まります。優秀な万引きGメンほど、たとえば「取引先に出すペットボトルのお茶のラベルが正面を向いているか」など、普段から細かいところを気にする力が備わっています。
そして観察力が高い人は、人が次にどういった行動を取るかの先読みができるんです。お店の狭い通路を見た瞬間に「死角はここ」「盗んだ物を隠匿するならここ」なんて判断しますから。
──そういったスキルは、努力して身につくものなのでしょうか。
正直、「センス5割・経験5割」という感じなんですよね。万引きGメンになったばかりなのに、やけに検挙率が高い……、なんていう人も、実際にいるんです。
自分で言うのもおかしいですが、僕も研修を終えて1カ月目からなんとなく捕まえられるようになったタイプの人間でして(笑)。でも、本当に人それぞれだと思います。センスが求められるシーンはありつつ、現場で数をこなさなければ得られない知識もありますから。
たとえば「高価な商品ばかり手に取る」「カゴの中を頻繁に触る」「周囲を常に確認する」などの不審者の行動は、実際に現場で見てインプットしました。そして見て覚えたことを応用することで、万引き犯の発見につなげていきました。
年齢制限がある職業でもありませんし、ある程度は経験でカバーできるところがあると思います。
間違いを正し、お店のファンを増やす
──そういえば、前々から報道番組を見て気になっていたのですが……、逃げた万引き犯を走って追いかける、なんてことも日常茶飯事なのでしょうか。
いえ、実はそこまで多くはありません。万引き犯が取り乱したりすることはありますが、大抵は「未精算の商品がありませんか?」と声をかけると、その場で認めることが大半です。
ただ、万引き犯が自宅のある集合団地まで走っていくのを追いかけたら、団地の住人たちがグルで、取り囲まれて行方を追えなくなってしまった……、といったレアなケースを体験したことはありますね。
あとは「この人、変質者です!」などと言って、周囲にいる人を味方につけ逃走した人もいました。さまざまな確保時のエピソードはあります。
──ほかのお客さんに今関さんの正体が分かってしまうケースもありそうだと感じました。「万引きGメンである」とバレてしまうことは問題ないのでしょうか?
問題ないですよ。業務中、近所の少年たちから「あいつ、万引きGメンだぜ!」と指をさされることもあります(笑)。決して積極的に目立つことはしませんが、ぼくの存在が知られることも抑止力につながれば、とは期待しています。
──最初に万引き犯へ声をかけるとき、意識していることはありますか?
なるべく穏やかな口調で話しかけ、万引き犯を興奮・動揺させないように気をつけています。
その上で、万引きをしてしまった理由や事情を聞く際に「声をかけた時から、あなたが反省しているかどうかを見ていますよ」と伝えることが多いです。
とっさに「盗んでいない」と嘘をつくか、素直にお店の人へ謝るか。商品を盗む瞬間だけじゃなく、犯行が見つかった瞬間の態度はチェックします。というのも、逮捕されたとしても当人が反省していない限り、再犯の可能性は消えませんから。
盗んだ商品の価値が100円であろうが10,000円であろうが、それを売って生活している人がいることの大切さを理解してもらうことが大事。「お金がないのなら、万引きをする前にできることがあるんじゃないの」という話はするようにしています。
否応なく逮捕するのではなく、事情を聞きながらも間違いを正し、次は笑顔で買い物をしてくれるような人に変える。その方が、最終的には店舗にとってもプラスになると思うんです。万引きをしてしまった人もお店のファンに変えよう、という努力はしています。
──万引きGメンという仕事を、今関さんが続けられるモチベーションを教えてください。
捕まえた後、お店だけではなく万引き犯からも感謝されることがあるからです。
その人が次の人生を迎えるために「どうすれば犯罪をしない人生に戻れるか」「万引きせずに生活できるか」といったアドバイスを送り、自分が犯してしまったことの重大さに気付いてもらえたときほど、やりがいを感じます。
時折、現場で捕まえた万引き犯から「あの時に捕まえてくれたおかげで、道を踏み外しかけたところを救われました。ありがとうございました」と店舗へ連絡が来たりもします。
あと、未成年だった万引き犯の親御さんから「うちの子を捕まえてくれてありがとうございました」って感謝をされたこともあって。
仕事をして感謝される喜びを知りましたね。なかなかそういう仕事に出会えることもないと思うんです。
ぼく自身は、もともと陸上自衛隊出身なんです。任期満了で退職後に「普通のオフィスワークではなく、もっと人の役に立つ仕事をしたい」という思いから、15年ほど前に興味本位で万引きGメンの道を選びました。
実際にやってみて「人の人生に関わっている仕事だ」と実感しましたね。だからこそ、今もまだはたらき続けているんだと思います。
(文:高木望 写真:鈴木渉)
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