元警察官のセクシー女優が筋トレに出会い、プロレスラーに転身した話。

2024年11月13日

元警察官、プロレスラー、セクシー女優、筋トレYouTuber。これらは、ちゃんよたさんという一人の女性が持つ肩書きです。

「私にとっての幸せは、やりたいことを生活の主軸にすること」

22歳から4つ以上の仕事に挑戦し、そう気付いたという現在29歳のちゃんよたさん。どの仕事にも誠実に打ち込む彼女のSNS総フォロワーは50万人を超えます。

なぜ、ちゃんよたさんは、警察官を辞め上記の道を歩むようになったのでしょうか?キャリアの分岐点で生じた心の葛藤や、挑戦の末に見つけた彼女にとっての「主軸」を深掘りします。

※取材は2024年9月に実施

「死」は意外と身近。やりたいことをやろうと思った

——現在はプロレスラーとセクシー女優、筋トレYouTuberとしての活動を、どのような割合でなさっているのでしょうか。

最近は、プロレスラーとYouTuberとしての活動が中心です。

月に1〜2度、私の所属するプロレス団体「P.P.P. TOKYO」の試合があるのでそれに出場したり、ほかの団体からもオファーがあれば出場したりします。練習と試合の予定が決まったら、空き時間で、YouTubeの撮影や編集作業をすることが多いですね。

筋トレは私のアイデンティティでもあるので、週6でジムに通っています。

——プロレスのトレーニングやYouTubeの動画撮影とは別に、筋トレをされているということですか?

そうですね。私は筋トレをしていないと気分が落ち込みがちになるんです。やると「自分、頑張ったな」と自己肯定感が上がるので、トレーニングとしてだけじゃなく、メンタルの安定のためにずっと続けています。

セクシー女優は、実は2024年9月末で引退することが決まっています(2024年9月の取材時点)。

2023年度にある動画サイトの人気女優ランキングで上位に入ることができ「もうやり切った」と思えたのと、「筋トレに充てる時間を増やしたい」と思ったのが大きな理由です。

セクシー女優でも「筋肉」をチャームポイントにして人気を博してきた 撮影:村下真一

——筋トレは、いつごろから始めたのですか?

7年前の警察学校時代です。

警察学校内にあるジムで、筋トレをするたびにポイントが溜まり、1位になった人が表彰されるシステムがあったんです。私は負けず嫌いなので、「警察学校で絶対に何か成果を残したい」と思い、ひたすらジムで筋トレをしていました。

——なぜ7年前、警察官になろうと思われたんですか。

私は理系の高等専門学校(以下、高専)出身で、もともと化学メーカーに就職しようと思っていました。

でも高専7年目のころ、週2〜3回アルバイトをしていたコンビニで、お客さんの60代男性からストーカー被害に遭って。警察に相談したところ、すぐに対応してくれて収まったんです。

それまで「警察官」という進路は考えたこともなかったですが、その男性への怒りが収まらなくて、「警察官になって、こういう犯罪者を捕まえてやりたい」と思ったんですよね。

——警察官として22歳から24歳まではたらかれたそうですが、なぜ転職しようと?

現場に出る前に半年間通った警察学校では、スマートフォンは没収されるし、最初の1カ月は外出も許されず「大変なところに来てしまったな」と思いましたが、意外と順応できたし、自分で言うのもなんですが優等生でした。

現場に出てからは交番勤務だった

でも現場では全然仕事ができなくて。上司からバーッと指示をもらうと理解ができないし、警察の世界には暗黙の了解が多いのですが、私は「なぜそうしなきゃならないのか?」という明確な理由が分からないと、なかなか行動に移せなかったんです。

市民の方に感謝されていないように感じることも多くて、交通違反切符を切ると「ほかに切るべき奴がいるだろ!」と怒鳴られたり、「免許証を見せてください」と言うと「自分で取ってこいよ」と免許証を投げ捨てられたりして、「仕事でやっているのに」と毎回落ち込んでいました。

心療内科で睡眠導入剤をもらいながらなんとか出勤していたころ、夜勤中に、同期が自殺したと連絡を受けたんです。警察学校で半年間一緒に頑張った仲間だったので、結構しんどくて。仮眠の時間にも寝られず、午前4時ごろ、母に「もう無理かもしれない」と電話しました。

母に「もう仕事には行かなくていいから(上司に伝えなさい)」と言われ、1カ月間休職。それでも復帰できる心の状態にはならなかったので、退職しました。

——お辛い経験でしたね……。その後は?

私は筋トレがやりたかったので、2020年の夏ごろ、パーソナルトレーナーの養成スクールに通いながらジムでアルバイトを始め、筋トレYouTuberとしても配信をし始めました。

警察官時代、事件が起きた時に最初に現場へ行くのは交番職員なので、ご遺体をよく目にしていました。その時、人にとって死は意外と身近なんだと痛感したので、「辞めるのはいつでもできる。やりたいと思ったらまずはやってみよう!」と思ったんです。

セクシー女優は「怖いけど、やらなきゃ」と挑んだ

——2020年12月、セクシー女優デビューもされています。

セクシー女優の紗倉まなさんをご存知ですか?

私が高専在学中、当時別の高専に通っていた彼女が在学中にデビューされたと知って、「こんなに可愛い女の子が高専にいるんだ!」と驚いたんですよね。高専って国内に数十校しかない上に、女子生徒の割合が少ないんですよ。それだけで親近感が湧いたし、紗倉さんは可愛いだけじゃなく頭脳明晰で、小説家としても活躍されていて……ずっと憧れていました。

撮影:村下真一

紗倉さんと同じ舞台に立ってみたいな、自分がセクシー女優になるのも面白そうだな、とふと思い、翌日、現在私が所属するAV事務所に電話したんです。

——どうして、ためらいなく行動に移せたのですか?

最近、心療内科でADHDとASDという発達障害だと診断されたんです。思い立ったらすぐ行動できたのは、今思うとADHD特有の衝動性によるものかもしれません。

ジムの仕事は、副業禁止ではなかったのですが、セクシー女優デビューした途端、突然クビになってしまいました。

——セクシー女優として撮影に挑むのは、怖くありませんでしたか。

怖いか、怖くないかで言うと怖かったです。でも、「新たな一歩を踏み出すためには、覚悟を決めなきゃ」という気持ちがあったし、撮影が始まったらやるしかない。私が「無理です」と言えば撮影はもう終わりで、「じゃあ帰ってください」と言われてしまいます。

セクシー女優を始める時、「紗倉さんのようにマルチに活躍できる女優さんになりたい」と思いました。だから「怖いけど、やらなきゃ」という想いで挑みました。

——撮影にはだんだん慣れましたか。

最初は毎回怖かったですね。私は約1年半、あるAVメーカー専属の女優として活動しており、撮影ペースは月1本と少なめでした。次の撮影まで期間が空くので、「慣れた」と思ったら気持ちがリセットされてしまうんです。

2022年から複数のAVメーカーの作品に出演するようになり、月の撮影数が増えたころ、ようやく慣れたと思います。

表舞台に立つ仕事が自分に合っているのか、悩むこともある

——なぜ、セクシー女優と並行してプロレスラーの仕事をしようと思われたのでしょう?

筋トレのために通っていたジムでP.P.P. TOKYOの代表の三富.兜翔さんと出会い、「せっかく筋トレしているんだから、この成果を仕事に活かしなよ」とすすめられたんです。プロレスの知識は一切なく、観戦経験もありませんでしたが、「やったことのないことに挑戦してみたい」と思ったんです。

2021年1月から約8カ月間、P.P.P. TOKYOで練習生としてプロになるためのトレーニングをして、2021年9月にプロレスラーデビューしました。

——トレーニングは順調に進みましたか?

いえ、本当に大変でした。特に「受け身(地面に投げられた際の防御体制)」の練習が辛かったです。

私は警察学校時代、柔道で黒帯を取りましたが、柔道と違って、プロレスは技によっては1m以上の高さから投げられたりもします。受け身でミスをして、頭からリングに落ちて脳震盪を起こしたことも。

痛くて辛くて、三富さんに何回も、「私もうプロレスできないです、無理です」と泣きながら電話しました。

——そこまで辛い中、なぜ続けられたのでしょうか。

痛みや恐怖は、実はトレーニング中の方が強くて。試合中は、アドレナリンが出ているせいか痛みを認識しにくく、どんどん次の技へ進むので、気付いたら試合が終了しています。

あとは「誰かにやらされている訳ではなく、自分の意志でやり始めたのだから頑張ろう」という気持ちでしたね。愚痴愚痴言っていても仕方ない。体を動かして練習しよう!と思いました。

——ちゃんよたさんにとって、プロレスの魅力はどんな点ですか。

普通の人じゃできない、超人的な技を出したり受けたりするところですね。「場外乱闘」といって、相手にリングの外に投げられたらそのまま観客席のすぐそばで戦うこともあるんです。

「表舞台に立つ」という意味では、セクシー女優やYouTuberと通じる部分があると思います。

——表舞台に立つお仕事が好き、ということですか。

もともと「筋トレ」や「YouTubeの編集作業」のように一人で黙々と進めるものが好きなので、悩むことはあります。表舞台に立つ仕事が本当に自分に合っているのかな?って。悩みながらも頑張って続けている、というのが正直なところです。

撮影:村下真一

ただ、たとえばセクシー女優に挑戦していなかったら今の私はありません。セクシー女優の私がプロレスをすることには賛否両論がありましたが、セクシー女優だったからこそ、プロレス界で名前を知っていただけました。あの時、自分の興味の赴くままに一歩踏み出してみて良かったです。

——警察官時代と現在では、どんな心境の変化がありますか。

警察官時代までは、いい会社に就職して結婚するのが幸せな人生だと思っていました。幼いころから母にそう言われてきたんです。

でも今は、幸せってそれだけじゃないなと気付きました。私にとっての幸せは多分、「その時、その時のやりたいこと」を生活の主軸にすること。私が一番やりたいことは筋トレで、それを主軸にプロレスラーやYouTuberの仕事ができている今はすごく幸せです。

筋トレって、やるたびに“自分に勝った体験”が積み重なるんですよ。私は自己肯定感が低かったのに、筋トレのおかげで自分に自信がついたんです。人生は有限。セクシー女優引退後は、プロレスとトレーニングを本業にしつつ、空いた時間を筋トレに充てていきたいです。

(文:原由希奈 写真提供:ちゃんよたさん)

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ライター原 由希奈
1986年生まれ、札幌市在住の取材ライター。
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はたらき方や教育、テクノロジー、絵本など、興味のあることは幅広い。2児の母。
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