偏差値28から慶應大のビリギャル、34歳で米コロンビア大学院をオールA卒業できたワケ。小林さやかに訊いた。

2024年11月27日

累計120万部のベストセラー『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』の主人公、“ビリギャル”のモデルとなった小林さやかさん。ビリギャル本人として、学生や親に向けた教育にまつわる講演をする中で、さまざまな人から「さやかちゃんは、もともと頭が良かったんだよ」「うちの子にはできない」と何度も言われたそうです。

そんな世間の声から、「子どもの可能性に蓋をする社会を変えたい」と一念発起し、34歳で米コロンビア大学院への留学を決意。新著『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)の中でも、正しい努力の方法と応援者のいる環境の必要性を訴えています。

2年間の留学を終えて日本に帰国したさやかさんに、留学を通して学んだことを聞いてみると、そこには「幸せ」になるためのヒントが隠されていました。

ビリギャル、なぜ留学に行こうと思ったのか

──コロンビア大学院をご卒業されたさやかさん。改めて、留学理由を教えてください。

「新しいことを学ぶって楽しいんだ!何でも挑戦することができるんだ!」と実感できる教育を子どもたちが受けられるようにするためには、日本の学習観を変えないといけない。そう思ったのがきっかけです。

7年間で500回以上の講演を重ねる中で、「さやかちゃんは、もともと頭が良かったんだよ」とたくさん言われました。でも、私が受験に成功したのは、自分の可能性を信じてくれて「自分にもできるかもしれない」と思わせてくれた母親や、塾で出会った坪田信貴先生のような大人に出会えたからだと思っているんです。

人はいかに学び、賢くなるのかを科学的に捉える文化が根付いたら、教育は正しい方向に変わっていくはず。そう信じて、教育心理学・認知科学の分野を学ぶために留学を決めました。

──34歳で留学を決意するのは、きっと勇気のいることだったかと思います。

そうですね。でも、受験の時のような大きな挑戦をもう一度したかったという気持ちもありました。たかが受験ですが、1日15時間勉強をし続けて努力をした身としては、結構大きな山を登ったと思っているんですよ。一方で、講演をしながら「私、偉そうに喋っているけれど、あれ以来大きな挑戦ができていないんだよな」という想いがずっとありました。留学が決まったときは安心しましたね。「また挑戦できるんだ!」と思ったら、ぽっかり空いていた心の穴が埋まったような気がしたんです。

幸せには2種類あると言われています。一つは“ヘドニックウェルビーイング”と呼ばれる、ポジティブな感情で満たされた心地よい幸せのことです。まさに、ビリギャルとして講演をしていた当時の私は、どこに行っても温かく迎えられて、話を聞いてもらえて、さらにお金ももらえるという状態。まさに、ヘドニック・ウェルビーイングは満たされていたんです。

でも、どこかでモヤモヤしていたのは、もう一つの“ユーダイモニックウェルビーイング”が足りなかったからだと思います。これは、何かを成し遂げたり、頑張ったりしたあとに得られる自己実現が満たされた、達成感のような幸せです。この2つが揃わないと人は幸福を実感しないと言われています。端的に言えば、私は挑戦に飢えている状態だったんです。

──幸せなはずなのに満たされない。その想いは少し分かるような気がします。

友人や家族にも恵まれて、あたたかいお家もあって、食べるのに苦労もしてないのに、この気持ちはなんだろう……と思う人は少なくないと思います。そんな人は、新しいことに挑戦してみたり、自分の能力を発揮できたりする機会を貪欲に求めてもいいんじゃないかと思いますね。

「いい勘違い」をしたからビリギャルは生まれた

──実際に2年間留学をしてみて、どんな発見がありましたか?

毎日がチャレンジの連続でした。言語も文化も分からない中で、「全然喋れなかったな」「こんなこともできないなんて恥ずかしい」と傷つくこともいっぱいあるけど、そのぶんちょっとした成長が本当にうれしいんです。赤ちゃんに戻ったような気持ち(笑)。

もう、私は何も怖くないなと思いましたね。どんどん強くなって、それが自信になっていくのを実感しました。「今の私、めっちゃ好きだな」と思えるようになった2年間でしたね。

──大学院では認知科学を勉強されていましたね。学ばれたこともぜひ教えてください。

認知科学を通じて、「私は“いい勘違い”をしたから、慶応に入れたんだ」という確信を得ました。

もちろん、遺伝は大きな要因です。当たり前じゃないですか、うちらはDNAでできているんだから!(笑)でも、それが100%ではなくて、持って生まれた遺伝子が環境一つひとつにどう反応して何を生み出すかが大事なのだと学びました。その中で、キーワードとなってくるのがマインドセット。自分が「できない」と思ったら、本当に能力が伸びづらくなる。自分がどう捉えるかによって行動が変わり、結果が変わってくるんです。

さやかさんの新著『私はこうして勉強にハマった』(サンクチュアリ出版)

たとえば、「努力したって無駄なんだ」とネガティブな思い込みをすれば、エンジンはかからない。でも、その中でも親や学校、社会からの重圧はあるから、無理矢理グイグイ押されて仕方なく動いているイメージです。一方で、「自分はできる!」と信じれば、エンジンがかかって、自発的に速く走れるようになります。それでいくと、私は受験期、すごくいい勘違いができていたんだなぁ、と。

──いい勘違い?

この前、イベントでモチベーションの正体について私が語っていたら、後日坪田先生がニヤニヤしながら、「君ね、最近留学してコメントが賢くなってきたけど、君が慶応に入れたのはただアホだっただけだからな」って言われたの(笑)。アホすぎて、慶応がどれだけ難しいかもよくわかってなくて、「私なら行ける気がする!」とポジティブな勘違いが出来た。勉強はさっぱりだけど、自己効力感だけは高かったんですよね。


──マインドセットが大きな勝因だったんですね。その中で、大多数の人が“いい勘違い”ができていないのはなぜなんでしょうか?

世間的に言う「頑張る」は、“耐え忍ぶ“みたいなニュアンスがあると思っています。やりたくもないことを無理矢理やらされているような。でも、「みんながやってるから」「有利だから」と何かに「なんとなく」取り組むのは、モチベーションが欠けている状態です。

モチベーション理論では、本人が「やりたい」という想いが強い状態で、かつ自分の能力に合ったことをやるのが、1番モチベーションが上がると言われています。

でも、現状はやりたくもない難しいことをずっとやらされて、結果的に「なんでそんなこともできないんだ」と言われ、それでも頑張れる人が賞賛される世の中です。自分が「やりたい」とも「やれる」とも思えていないんだから、できなくて当たり前なのに、それで自信を失くしている人たちがたくさんいるんですよ。

学歴も資格も大企業の肩書きも、幸せになるための切符ではない。それはもう、みんな分かっているはずなのにね。

挑戦するのが怖い」大人たちへ

──では、さやかさんのように、“いい勘違い”をするにはどうすればいいんですか?

やっぱり、小さくてもいいから成功体験を積むことだと思います。挑戦することに対しての恐怖がなくなるから。それこそ、34歳で留学するのだって、これまでの成功体験があったから「いけるっしょ」と思えました。中学受験の成功体験が大学受験を、大学受験が今回の大学院受験を後押ししてくれたと感じています。

でも、社会人は学生に比べると成功体験が積み上げづらい。仕事もあるし、扶養家族もいるし、お金もある。人間って、持っているものを手放すのってとても勇気がいるんですよね。学生のときよりも持っているものが多いから、その分挑戦のハードルが高くなるのは無理もないです。

でも、自己実現や自己成長を通して“ユーダイモニックウェルビーイング”を満たすためには、やはり小さくてもいいのでコンフォートゾーンをちょっとだけ抜け出て、挑戦することが不可欠です。住むところや毎日のルーティーン、一緒にいる人など、普段長い時間触れているものを変える。持っているものでワクワクしていないものを思い切って手放してみる。

ほんの小さな変化でいいと思います。1日の自分の時間の使い方を可視化してみて、楽しくもないのにダラダラとSNSを見ていたり、なんとなく人と会っていたりと、ワクワクしないことに時間を使っているのであれば、少し変化を加えるタイミングだと思いますよ。自分がどう時間を過ごしたいのかを見直して、いらないものを手放せば、絶対に新しいものが入ってくるので、自分が本当にありたい姿に近づいていくと思います。

──自分に向き合って、ワクワクすることを見つめ直すんですね。

結局、「こうしたほうがいいんじゃないか」と流されるままに生きるから、成功体験も積めないし、「自分がやりたいことってなんだっけ?」と疑問を抱いてしまうんです。

自分の人生を自分で舵を取るには、「気付く」のがまず必要。私はこんなこともできるし、こんな可能性もあるんだ!って。そのために必要なのが、世間の「こうあるべき」から少し距離を置いて、自分の心と対話することだと思います。

──自分と対話するために、必要なことはありますか?

「あの人いいな」と思うことってあるじゃないですか。そのときに感情に蓋をしないこと。それは虚しさのような、嫉妬のような、あまり見たくない感情かもしれないけど、自分にないものをそこに見ているので、欲望や願いが隠されていることが多いんです。

だから、「いいな」と思ったら、なぜそう思ったのかを考えてみる。自分が抱いた感情を単なる嫉妬ではなく、何かの欲求だと再定義してみると、自分が手放したいものや、手に入れたいものが見えてくると思います。

──ありがとうございます。最後に、挑戦するのが怖い人たちに向けて、メッセージをお願いします。

率直に、怖いですよね。日本の文化で残念だなと思うのは、成果主義であることだと思います。これをプロセス主義に変えたらいいと思う。たとえば、受験では不合格だと失敗って捉えるでしょ。実際に、私みたいに偏差値28で慶応に行きたい人のことを、多くの人が止めたんだよね。失敗するぐらいならやらないほうがいい、って。

でも、これって間違っていると思うんです。たしかに、どれだけ頑張っても報われないことはあります。私も本命である文学部の受験日にお腹が痛くなってしまい、何度もトイレに駆け込んでパニックに陥って不合格になったし、人事を尽くしたって、天命は希望にそぐわないこともある。

だけど、自分がやりたいことに対して真剣に取り組んだことによって、何かの能力は絶対に伸びている。これは絶対に変えられない事実です。「できなかったものができるようになる」ことで、その先にある選択肢は確実に広がっていくんです。だから、長期的に見ると挑戦しないことのほうがリスクだったりするんですね。

もっと自分の心と向き合って、やりたいことは気楽にチャレンジしてほしい。小さくてもいいので、自分の負担にならない範囲から始めていくと、挑戦に対する免疫がついていきます。それを繰り返していけば、あなたの世界はどんどん広がっていくはずです。

(文・写真:いしかわゆき)

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作家 / ライターいしかわゆき
取材やコラムを中心に執筆・編集を担当。ADHDとHSPを抱えながら、生きづらい世界をいい感じに泳ぐために発信する。『書く習慣~自分と人生が変わるいちばん大切な文章力~』は3万部超でベストセラーに。その他著書に『ポンコツなわたしで、生きていく。』『聞く習慣』など。

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