対面授業を強みにしていた学習塾の苦境。オンライン授業開始に込めた想い

2021年2月1日

新型コロナウイルスの感染が急拡大しつつあった2020年2月27日、全国の小中学校、高校、特別支援学校を対象に、政府が休校要請を発表。3月2日からは子どもたちも大人同様の自粛生活を強いられるようになりました。

そのような状況下で、3月1日からいち早くオンライン授業に取り組んだのが、学習塾「RAKUTO」を運営する福島 大樹さん。対面によるアクティブラーニングがカリキュラムの中心だった「RAKUTO」は、コロナ禍でどのようにオンラインへ移行したのか。

福島さんの奮闘を紹介します。

「これから」、「繁忙期」のタイミングで起こったコロナ禍

それまでの福島さんは、外資の銀行業務などに携わっていました。業務に必要な情報を得るために大量の読書をするなかで速読と出会います。多くの本を読む中で「志」の重要性に気づき、未来に対してより貢献できることを考えた結果、自分の生きる道は「教育」だと決意。

小学校以降の一方通行の教育方法に疑問を感じ、強制的に勉強を「させられる」のではなく、自主的に学べるようにしたい。そうして行き着いたのが「アクティブラーニング型学習塾RAKUTO」でした。

「アクティブラーニングとは、『能動的な学び』。グループディスカッションをすることをアクティブラーニングと呼ぶ方もいますが、私たちはもう少し広く捉えています。

子どもたちが能動的に授業を聞き、自身で考え、ディスカッションを行い、まとめる。これが私たちの考えるアクティブラーニングです」

「アクティブラーニングの授業の一例がマインドマップの作成です。特定のテーマに関して、先生と子どもたち、または子どもたち同士でディスカッションしながら、疑問に感じた点やそこから派生する情報をまとめあげていきます。

一緒に考え、まとめていく授業のスタイルだったからこそ、対面で先生と子どもたちが相互にコミュニケーションをとることがすごく重要だったんです」

学校教育においても「子どもたちの自ら学びに向かう力」「人間性」「思考力」などを重視する「新学習指導要領」が2020年から小学校に導入。十数年にわたりアクティブラーニングに取り組んできた「RAKUTO」にとって、2020年は飛躍の年となるはずでした。

しかし、その矢先に起こったのが新型コロナウイルスの感染拡大でした。

「2020年は教育のあり方がいろいろと変わっていく、いわば『教育改革元年』。これからと気合が入っていたのですが、完全に出鼻をくじかれましたね。

学習塾の2月から4月は、1年間の売上を決める大事な期間、新年度の新規入塾者のほとんどがこの時期に集中します。例年であればRAKUTOにも、100名以上の入塾体験希望者が訪れます。しかし、今年のその期間の体験希望者は10名未満。さすがに肝が冷えました」

「学びを止めない」ために始めた「オンライン授業」

新型コロナウイルスの感染が拡大していくと対面で授業ができなくなるかも知れない。新規の体験希望者もほとんどいない。福島さんが厳しい状況に直面し、取り組んだのが「オンライン授業」の開始でした。

「ここ数年、未来の教育について考えており、オンライン授業はいずれ必ず必要とされるだろうと授業内容など中身の準備は始めていました。

しかし、想定していた開始時期は2021年ごろ。コロナの影響で大幅に前倒しで提供することにしました」

コロナのニュースが日本を駆け巡っていた3月1日、福島さんは「オンライン授業」を開始。実質の準備は数週間というスピードで行ったそうです。厳しい現状の打開策でもありましたが、突然の学校休校でやることのない子どもたちの、学びの習慣と生活リズムを整えてあげたいという想いもあったといいます。

「コロナ禍による経営や自分たちの生活の不安は当然ありましたし、協力してくれているスタッフたちへの責任もあります。また、収益のための『オンライン授業』という側面ももちろんありました。

ただ、コロナ禍で一番考えていたのは子どもたちの未来のこと。学校にも行けず、塾にも行けなければ『学びの習慣』が途絶えてしまうだろう、と。

スポーツをイメージするとわかりやすいですが、3日練習しないと取り戻すのに1週間掛かったりしますよね。それと同じで、子どもの『学びの習慣』は一度途絶えると取り戻すのが大変なんです。

実際、夏休みなどでこれが途切れて、学力が低下する子どもたちを大勢見てきました。

もし、数カ月も勉強をしない状態が続くと子どもたちの学力は大きく低下し、未来十数年にわたって苦労することになるかも知れません。

少なくともRAKUTOに通っていた子どもたちの、学びの習慣を継続させることが私の使命だと思いました」

オンライン授業に向けて、ツールなどを開発したわけではなかったため、タブレットのカメラとオンライン会議ツールを駆使して、突貫でオンライン授業を実施。

しかし、保護者からの最初の反応は厳しいものでした。

「こちらの準備がなんとかできても、保護者側のオンライン環境はまだまだ整っていません。オンライン授業の提供を開始しても、『うちには授業を受けられるもの(デバイス)がない』『Wi-Fiが遅くて授業が受けられない』と授業にたどり着くまでが大変でした。

また、オンラインではどうしても対面授業のようなきめ細やかなケアができません。通信環境の影響などで、子どもたちの声を拾いきれないのです。

さらには、隣で授業の様子を見ている親からは、『うちの子は途中で集中が切れてしまって、オンライン授業は向いていないと思うんです』という声も聞かれました。

オンライン授業開始当初は、対面授業との違いで双方向性を重視した授業を行う点に苦労しましたが、今では保護者側の満足度も上がってきています」

最初はオンラインツールに先生にも戸惑いがあったものの、徐々に操作に慣れていき、授業の構成や話し方など、細かく改善を重ねていきました。

その結果、当初の厳しい声は、徐々に「早めにオンライン授業を提供してもらえたおかげで、子どもがいち早くオンラインに慣れることができた」「子どもが家でも勉強するようになった」とポジティブなものに変化していきます。

コロナ禍の中、突貫ではじまったオンライン授業。RAKUTOは2020年12月に正式に新「オンライン校」を開校するに至りました。

「はたらくとは?」に返された3つの答え

コロナ禍でも、子どもたちの未来を案じて試行錯誤を繰り返してきた福島さんにとって、「はたらく」とはいったいなんなのでしょうか。

「はたらいてお金を稼ぐことで、衣食住を満たし、家族を養うことができます。また、はたらくことによってさまざまなコミュニティに属し、さまざまな人と関われば社会とのつながりも生まれます。

そして、『はたらく』にはもう1つ大事なことがあります。それは『自己実現』。多くの偉人が『夢、志、信念を持ちなさい』と言っています。心の底から達成したいことがあれば、本気で仕事に取りかかれますし、達成した時の気持ちは代えがたいものです。

コロナ禍でもRAKUTOに通う子どもたちの、学びの習慣を継続させること。そして、子どもたちが自主的に学んでいける新しい教育の形を広げていくこと。それが私の使命だと思っています」

ニューノーマルのはたらき方のヒント

●準備期間が少なくてもとにかくスピード重視で、後から改善していく

●困難なときでも、最初の志を忘れない

(文/鈴木光平 インタビュー・編集/BrightLogg,inc. 撮影/河合信幸 )

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ライター鈴木光平
フリーのビジネスライター。経営者や事業責任者を中心に取材・執筆を行う。

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