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コロナ禍の大学生活でうつになった私を救ったのは「巫女バイト」だった
スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、はたらくことの喜びやおもしろさを感じたエピソードを語った記事をご紹介します。
コロナ禍で大学に入学したすずさんは、不安な気持ちを人に打ち明けられず、うつになってしまいます。もともと同世代とのコミュニケーションが苦手だったすずさんが、友達と愚痴を言い合えるようになったきっかけは、巫女のアルバイト。そこで起きたうれしい出来事を、noteに投稿しました。
※本記事の引用部分は、ご本人承諾のもと、投稿記事「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」から抜粋したものです。
「全部ダメな自分が悪い」と思っていたら、コロナうつになってしまった
自責の念が強いすずさんは、愚痴を言えないタイプでした。
私は何か起きると、
「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」より
「全部自分が悪い」
「こんな失敗をするのは自分だけだ。ダメな人間だ。」
と思ってしまう。
そんな思考のまま、コロナ禍に大学へ入学。
オンライン授業での大学生活がスタートします。
新しい環境で先行き不透明な状況に置かれ、自分の目の前にあるのは課題ばかりで
「課題に追われているのは自分だけだ」
と感じ、誰にも会えないまま孤独を募らせていきます。
やがて負の感情を抱え込んで倒れてしまい、うつ病の引き金を引いてしまいました。
もしあの時、友達に何か愚痴を言っていたら…
「いつ授始まるのか分からなくて不安だね~」
「オンライン授業って課題めちゃくちゃ多いね…」その一言を話して共有しあえていたら…
「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」より
今振り返るとそう反省するものの、すずさんは愚痴を共有しやすい同世代とのコミュニケーションが苦手でした。
それでも、今は友達と「嫌だな」と思った出来事を共有できるようになったそうです。
友達と話すことで「自分はダメな人間だ」と自分を責めずに
「そういうことが起きたら嫌だと思うよね~」
「失敗してるのは自分だけじゃないんだ」
と思えるようになりました。
そんな変化をもたらすきっかけになったのが、巫女のアルバイトでした。
神社の巫女アルバイトで出会った、耳が聞こえない男性
すずさんは、お正月の期間だけ神社で巫女の短期アルバイトをしました。
巫女さんの場合、正確には「アルバイト」ではなく「臨時奉仕者」と呼ぶそうです。
メンタル不調になったすずさんは、はたらくことへの不安も感じていましたが、一度も休まず仕事をやり切りました。
その理由について「仕事の内容が自分の特性に合っていたから」だと語ります。
短期間なので、最低限のマナーさえできていれば厳しく指導されないこと。
巫女同士で楽しく雑談はするものの、短期間の関わりなのでお互いに踏み込みすぎず、適度な距離感があること。
神社という神聖な場所だからか、参拝者が穏やかであること。
特に、ゆっくりと仕事ができる環境だったことだったことには助けられたそうです。そこでは、スピードよりも、正確さが求められました。
「絶対に焦らなくていいです。間違いのないように、とにかくゆっくりとやってください。挨拶はしっかりと行ってください。急いでやらないといけないようなことではありません。」
事前に何回もそう念押しされていたので、笑顔でゆっくりと慌てることなくできるのが嬉しかった。
「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」より
そして、すずさんが一番うれしく感じる出来事が起こります。
他の巫女さんが対応している年配の男性を見て、気づいたことがありました。
他の巫女さん「お札ですか?お札でしたら、こちらが〇〇神社で、こちらが〇〇神社で
「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」より
男性(困惑した表情)
巫女さん「お札ですよね?どちらにされ…」
男性(耳が聞こえない…と手話)
巫女さん「…?えぇっと…お札は…」
知り合いが難聴で簡単な手話を覚えていたすずさんは、その男性が「耳が聞こえない」と伝えていることがわかりました。
どうしよう…どうしよう…。
「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」より
筆談すれば…でも紙がない…。
手話…は簡単なのしかできないから、巫女さんと代わったところで私に対応できるかな。
どうしよう…自信がない。
それでも、その場で手話を読み取れるのはすずさんしかいません。
思い切って「代わります」と声を出し、前に踏み出しました。
「あなたとコミュニケーションできてうれしい」と言われ、心が開けた
すずさんは、男性に向かって指文字(50音に対応した手話表現)を始めました。
私『これが、伊勢神宮。これが、〇〇神社』
「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」より
男性は驚きの表情を浮かべてから、『もう1回やって』と手話で伝えます。
私『これ、伊勢神宮。これ、〇〇神社』
「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」より
男性『これが、伊勢神宮。これが、〇〇神社ね』
私『そうです』
男性『一つずつ』
私『わかりました』
ようやく男性とコミュニケーションでき、無事にお守りとお札を渡せました。
お会計を済ませると、男性に手話でこう言われます。
男性『あなたと手話でコミュニケーションがとれてすごく嬉しい。本当にありがとう』
「初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】」より
私『私もです。ありがとうございます』
男性『ここは何時までやっているの?』
私『7時までです』
男性『去年は8時までやっていたから。今年は早く来てよかった』
私『なるほど!そうだったんですね…!』
男性『本当にありがとう!』
私『良い年をお過ごしください!』
すずさんは『あなたと手話でコミュニケーションがとれてすごく嬉しい』という一言を聞いて
こんな私でも誰かに「ありがとう」と言ってもらえた。
と、涙が出るほどうれしく感じました。
50音で表現する指文字は、使う機会はなかったものの、純粋な興味で学んでいたこと。
わかりやすい手話ではありませんが、男性はそれを読み取り、すずさんにも伝わるようにゆっくりと簡単な手話をしてくれました。
指文字ができたから、男性はふだん聞けなかった営業時間を気軽に聞くことができ、情報を得ることができたのです。
すずさんは
「意味の無いように思えることも役立つときは必ず来る」
と感じ、これからも興味を持ったことや好きなことはとことんやっていこう、と心に決めました。
そして、友達に愚痴を言えるようになったのも、この巫女のアルバイトがきっかけです。
アルバイトに誘ってくれた友達と勤務日が被れば、帰りにカフェでお互いの失敗や愚痴を言い合いました。
話して共有するだけで、心が軽くなったそうです。
今の自分に合った仕事で、背伸びせずにはたらいてみる。
できることが目の前にあったら、拙くてもやってみる。
すずさんのように等身大の自分で素直にはたらけたら、少しずつ自信がついていくかもしれません。
【ご紹介した記事】 初めてバイトをやり遂げた話。【すずの日記】 【プロフィール】 すず 20歳。日々の記録。メンタルよわよわ。紡いだ言葉、伝えたい想いがあなたに届きますように。 |
(文:秋カヲリ)
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