『オールナイトニッポン』チーフディレクターが語る、放送の裏側。「ラジオにはもっとできることがある」
1967年の放送開始から半世紀以上にわたり多くのリスナーから愛され続けている、深夜ラジオの代表格、ニッポン放送の『オールナイトニッポン』。現在その番組チーフディレクターを務めるのが、金子司ディレクターです。
金子さんは、FM GUNMAでの勤務を経て、ニッポン放送の番組制作を請け負う会社「ミックスゾーン」に転職。現在は『三四郎のオールナイトニッポン』、『ファーストサマーウイカのオールナイトニッポン0』、『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0』など、生放送を5番組抱え、多忙な毎日を送っています。
リスナーにそっと寄り添うラジオ『オールナイトニッポン』を、陰から支えるラジオディレクターはどのような生活を送っているのか、仕事のやりがいや未来の展望などを金子ディレクターに聞いてみました。
連日、深夜の放送でも仕事を楽しめるのは「ラジオが好きだから」
──『オールナイトニッポン』と言えば、やはり生放送のイメージが強いです。具体的に生放送を担当するディレクターのお仕事とは、どういった内容なのでしょうか。
仕事の割合でいうと、生放送前の準備が8割、実際の生放送が2割という感じでしょうか。 番組の準備にあたっては、まず構成をつくることからはじめます。
民放のラジオなら必ずCMが入るので、CMの本数に応じてオープニングトークを入れて、曲をかけたらお知らせしてCM……といった、段取りが必要になってきます。ですので、放送作家さんと打ち合わせをして、台本に落とし込んでもらうという形ですね。
このほかにも、放送前の仕事としては、ゲストブッキングや、企業とのタイアップコーナーをどう組み立てていくかなどを、社内の営業担当者と話し合ったりしています。
また、オールナイトニッポンにはレギュラー番組だけではなく、週替わりパーソナリティが務める土曜日の『オールナイトニッポン0』など、単発のオールナイトニッポンがあります。ですので、そのキャスティングも担当することがありますね。そのほかには生放送の仕事に限らず、録音した番組の編集などもしています。
──そういったお仕事を生放送の時間軸に合わせてやっていくと、やはり昼夜逆転の生活なのでしょうか……?
そうですね。夕方くらいに出社して、生放送の準備をして、ミーティングして、リスナーからのはがきやメールを見る。生放送が深夜にあるので、朝方帰って寝る、の生活です。
でも、生放送の後って家に帰って布団に入っても全然眠れないんです。これは夜の番組を担当しているディレクターみなさんそうだと思うのですが、くたくたなのに頭が冴えてしまって……。帰ってもすぐには眠れないので、昼の仕事をされている方にとっての「夜の晩酌」を朝方にやっているイメージですね。
──そんな生活に対して、つらいとかマイナスな気持ちになることはないのでしょうか?
うーん、「プライベートと両立できない!」とかあまりマイナスのことは考えたことないですね。自分の好きなことをやっているので。ラジオが好きだからこそ、できているんだと思います。
自分色にチームを染めることはしない、パーソナリティの良さを最大限に引き出すために
──ラジオをつくる現場において、放送作家さんや音声さん、パーソナリティなど、チームづくりのために意識しているポイントはありますか?
こういう番組にしたいからこの人にお願いする、というのはもちろんあります。 たとえば、2020年から始まった『ファーストサマーウイカのオールナイトニッポン0』のチームを編成するとき、放送作家は宮森かわらさんという方にお願いしました。
宮森さんは関西出身でお笑いもやっていて、大阪出身のウイカさんと波長が合うかなぁと思ってお声がけしたら、自分で言うのもあれですけどめちゃくちゃいい人選でしたね。
ラジオの現場って人数が少ないし、一回決めるとあまり変わることはありません。固定のチームだからこそ、人の選び方は難しいなと思うんですが、書ける・しゃべれる人の才能を最大限に伸ばしたい。だから、僕は裏方としてなるべくそれを実現できるように、環境を整えるようにしています。
──なるほど。それとは逆に『三四郎のオールナイトニッポン』では、ほかのディレクターがつくった番組を金子ディレクターが引き継ぐということがありましたよね。そのときはどのようにチームに馴染んでいったのでしょうか?
元からあるものに他からきた自分が馴染んでいく、というのはやはり難しいです。前の人が良かったって思われる可能性だってありますし、手は抜けないですよね。
ただ、いろんなタイプのディレクターがいる中で、僕はチームを自分色に変えるというよりも、パーソナリティの作った雰囲気を活かしていくタイプ。なので、プライドも捨てて、背伸びをせず、「いままではどういったことがやりづらかったですか」と素直に聞くことが多かったと思います。
ラジオは自分だけじゃできませんし、自分が先に立ってゴリゴリ進めていくというよりは元からいる人に聞いていくほうが、等身大の自分でいられるんですよね。ディレクターによってタイプはまったく違いますから、正解はないですけどね。
ラジオには何が起こるかわからない楽しさがあふれている
──生放送中は失敗やトラブルなど、想定外のこともあると思うのですが……。
もちろん生放送なので、トラブルはつきものです。パーソナリティの失言や放送事故が起きてしまったこともあります。
毎日、ミスをしたら「次はこう工夫しよう」の連続で、番組とともに自分も少しずつビジネスマンとして成長できているのかなと思います。
というのも、「とてもうまくできた!」 と思った回でも、「あのボケを拾えばもっといい流れを作れたのに」とか、「曲出しのタイミングが遅かった」とか、ミスではないけれど、もっとこうすればよかったという反省点は必ず1つは出てくるんですよね。
逆に言えば、どんなにつまらなかった回でもここはよかったという部分もありますし。そういった良い部分と悪い部分を見つけて、どうすればもっと面白い放送になるのか、というのは毎日振り返るようにしています。
──ミスに対して、誰かに「こうしたほうがいいよ」とアドバイスをもらったり、金子さんが後輩ディレクターに対してアドバイスしたりすることはあるのでしょうか?
うーん、あまりないかもしれないですね。言われたから実行するというよりは、失敗を重ねて自分で気付いた方が、身に付くと思うんですよね。
たとえば、昔の自分はメールをccで誰かと共有する、ということをしていなかったんですね。でも、できるだけ多くの人に情報を共有することが大事だなと、年齢を重ねてわかったんです。
後輩のメールを見て、「この情報、あの上司に伝わってなさそうだな」と思っても、注意したり怒ったりするわけではないです。一応「上司もCCに入れたほうがいいよ」とは伝えますけど、その必要性については実際本人が気付くしかないんだろうなと思うので。「こうしたほうが絶対うまくいくよ」っていう押し付けはしないようにしています。
──ラジオディレクターとして一番うれしい瞬間は?
いろんなトラブルも、ミスもあるけれど、やっぱり生放送が上手くいったときですね。ラジオには何が起こるかわからない楽しさが常にあると思います。
印象に残っているのは、2020年3月まで放送していた関ジャニ∞の大倉 忠義さんと、シンガーソングライターの高橋 優さんの『ANNサタデースペシャル 大倉くんと高橋くん』という番組です。
とある放送のとき、作家さんのアイデアで、大量の弾き語りの楽譜とギターをブースに置いたんです。もちろん歌ってほしくて置いたんですが、番組の進行もあるので、なかなか難しいかもなと思っていました。そしたらパーソナリティの二人がノってくれて、生放送中に歌おうか、となった。
タイムスケジュールとしてはギリギリだったんですが、歌い終わったところで番組がピッタリ終わったんですよ。これにはちょっと手ごたえを感じましたね。
これだけじゃなく、生放送だと大なり小なり予定していないことが起きていますから、それをリスナーに楽しんでほしいですね。
音声コンテンツが流行っているいま、ラジオにできることがもっとあるはず
──ポッドキャストや直近ではclubhouseと、音声コンテンツも増えてきました。
そうですね、僕が思っているより、みんな発信したい側なんだな、と思いました。特に裏方と呼ばれる、フェスをつくっている人とか、MVをつくっている人から「ポッドキャストやりたいんだけどアイデアないかな?」という相談をいただくんですよ。そういった方たちが音声メディアで発信しようと思ったときに、ちょっと偉そうなんですけど、見本になるのがラジオだったらいいなと思っています。
たとえば、30分、40分と長時間雑談をし続けるコンテンツってよくありますが、面白くするのって実はすごく難しいんですよね。そういうときに、事前にトークテーマを設定したり、しっかり曲を入れたり、コーナーをつくったりと、ラジオの進行が役に立てばいいですね。
もちろん、だらだらと雑談する面白さもあるので、自分がやりたいことによってフィットするメディアは異なります。ラジオではなく、ポッドキャストやclubhouseで話したほうが伝わることもきっとあると思います。
『オールナイトニッポン』も毎日違う人が話しているので、一度聴いていただいて、自分にフィットする番組を見つけてほしいなと思います。
──最後に、金子さんが今後やりたいことや、ラジオにかける熱い想いを教えてください。
ラジオをもっと元気にしたいですね。ポッドキャストやclubhouseのように音声コンテンツが流行っている中で、ラジオにはもっとできることがあるなと思っています。
その上で、代表作と呼べる番組ができたらいいですね。僕はまだ32歳で、業界ではギリギリ若手の部類です。若手と呼べるうちに、僕はこれをやりましたと言える番組をたくさんやりたいし、そこにかかわる人やパーソナリティと一緒に成長できたらいいなと思います。
(文:山口真央 インタビュー・編集:高山諒 写真:小池大介)
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