1日に1億円分以上の貨幣を製造できる、造幣局の「お金の工場」に潜入!
誰しもに必要な存在であるお金。なかでも最も身近な貨幣、つまり硬貨を作っている独立行政法人造幣局を訪問しました。
お金の歴史や製造工程、実際にはたらいている方々にお話を伺い、意外と知らないお金づくりについて聞いてきました。
今回、造幣局を案内してくれたのは広報担当の福井正広さんです。
貨幣を製造する造幣局ってどんな場所?
──今日はよろしくおねがいします。造幣局は、貨幣を作っている場所ですが、具体的にどのような作業をされているのでしょうか?
造幣局は、大阪市、広島市、さいたま市と全国に3箇所ありまして、この大阪が本局で、造幣における溶解・圧延を除く工程があります。主に、ここでは1円から500円までの貨幣の製造を行っています。500円貨幣については、今年の11月に発行される新しい500円貨幣を製造しています。
──こうして「お金を作っている」と、聞くとお金も人の手で作っているんだなと実感がわきますね。ちなみに、造幣局の歴史もお聞きできますか?
近代国家の建設のため、明治新政府が先進諸国に劣らない貨幣を製造する目的で作られたのが造幣局でした。当時としては、画期的な西洋式設備で、明治初期には、近代工業の象徴とも言える場所だったんです。明治4年4月に創業式を挙行しており、今年創業150周年を迎えるんです。
大阪の造幣局では、日常に使う硬貨のほか、国家的な事業で作られる記念貨幣や文化勲章などの勲章、紫綬褒章などの褒章、競技のメダルなども作っています。それに加えて、造幣博物館も併設していますので、貨幣の歴史を知ることもできます。
──ちなみに、貨幣の製造工程も見学できたりするのでしょうか?
はい。現在は、新型コロナウイルス感染拡大防止のために工場見学は休止していますが、日にちや時間によって製造される貨幣は違うのですが、訪れていただいたタイミングで作られている貨幣の製造工程を見学できます。
貨幣を製造するには、大きく分けて6つの工程があるのですが、銅やニッケルなどを電気炉で溶かし鋳塊を作る溶解。その塊を加熱した状態で延ばす熱間圧延と常温で延ばす冷間圧延。これらの工程は広島支局で行われています。なので、その後の4つの工程はご覧いただけます。ご紹介しましょう!
貨幣の製造工程を見るべく、工場へ潜入!
──こちらでは、どのような作業が行われているのでしょうか?
貨幣の厚みに仕上がった圧延板を貨幣の形に打ち抜いていく、圧穿(あっせん)作業を行っています。圧穿後のものを「円形」と書いて、造幣局ではこれを「えんぎょう」と呼んでいます。更に貨幣の模様を出しやすくするために、円形に縁をつける圧縁(あつえん)という作業を行っています。
写真の右側が圧穿後の円形で、左側が縁をつけたものです。縁がつくと、貨幣っぽくなりますよね。
圧穿と圧縁を終えたものは、加熱して軟らかくしたあと表面の酸化膜や油を取り除くために洗浄し、乾燥、計数するまでがこのフロアで行われている工程です。
その先の圧印の工程でさらにグッとお金っぽさが出るので、楽しみにしていてください!
──ちなみに、ここでどのくらい勤めていらっしゃるんですか?
高校を卒業してからなので、15年になりますね。学校に求人が来るので、私の通っていた工業高校の先輩もたくさん造幣局ではたらいているんです。お金を作れるって、なんだかおもしろそうだなと思って。
実際、自分が作ったお金がいろんな場所で役立ってるって思うと、うれしいんですよね。
──次の工程で「一気にお金っぽくなる」と、聞いてワクワクしています。こちらではどのような作業を行われているのでしょうか?
貨幣には、表と裏に模様が、そして500円、100円、50円の側面にはギザが入っていますよね。ここではそれを同時につける圧印という作業を行っています。
──貨幣に模様をつける圧印スピードはどれぐらいでしょうか?
500円の場合ですと、1分間で750枚のスピードで作っています。
──そんなに速いのですね。偽造防止技術についても教えてください
現行の500円貨幣は2000年から作り始めているんですが、500円貨幣というのは世界的にみてもかなり高額な硬貨なんですよ。
そのため、微細点と呼ばれる細かい点や、微細線という髪の毛よりも細い線、ギザも100円や50円と違い斜めに入っていて、数字の部分には見る角度によって文字が見え隠れする潜像加工も施しています。
──なるほど。貨幣もお札と同様に複雑化していってるんですね。
新しい500円貨幣には、貨幣表面の縁の上下2か所には「JAPAN」、左右2か所には「500YEN」の微細文字を加工し、貨幣の側面には、上下左右4か所に斜めギザの一部を他のギザと異なる形状にした異形斜めギザと言うもっと高度な偽造防止技術が施されています。通常貨幣(大量生産型貨幣)への導入は世界初なんです。
──中條さんは、どうして造幣局に入社されたんですか?
実家が大工をしていたので、大工になろうと思っていたんですけど、親にすごく反対されたんです。
ものづくりが好きだけど、どうしようか悩んでいたときに、ずっとギザ10を集めていたことを思い出して。お金を作るのって面白いかも?と、造幣局を選びました。
──いよいよ最終工程です。圧印と検査を終えた貨幣がいよいよ出荷されるわけですね。
ここでは、検査を終えて貨幣ごとに、1円は5千円分、5円は2万円分、10円は4万円分、50円は20万円分、100円は40万円分、500円は100万円分……と、それぞれを貨幣大袋という専用の袋に詰めて、専用のタグで止め、パレットに積み込みます。その後、発注元である財務省に引渡す担当部署へ送ります。
──500円を100万円分と聞くとすごい大金ですね。
金額の大小で、ドキドキ感が変わるの?と、聞かれることもあるのですが、それは意外とないんですよね。ただ、扱っているものが貨幣なのでとにかく間違いがないように、そして慎重にすすめなければいけません。なにより、いろんな職員ががんばって製造した貨幣をみなさんに届ける最後の砦でもあるので作業中はずっと集中していますね。
──今日は、貴重なお時間をいただきありがとうございました!
身近であり、特別でもある。それが造幣局の仕事。
──貨幣の製造工程、すごかったです!
喜んでもらえてよかったです。僕たちにとっては、当たり前の仕事なのですが、こうして見ていただくと皆さん面白かったと反応していただけるんですよね。
こういう取材は改めて大切な仕事をしているんだと、実感できるいい機会になるんですよ。
──ちなみに、先ほどお話を伺った三人の作業を一人前にこなせるようになるまで、どのくらい時間がかかるのでしょうか?
作業工程によって、年数にばらつきはありますが、少なくとも10年くらいは必要ですかね。
職員は日々精進を続けています。
──なるほど。それだけ一人前になるまで時間がかかる仕事って今ではかなり珍しいですよね。
たしかにそうですね。でも、やっぱりとてもやりがいがある仕事なんですよ。貨幣は国民全員が使いますし、勲章やメダルなんかは、特別な人の手に渡るものです。それを作れる仕事は、造幣局しかありません。
普段、小銭を使うときには「あ、これ僕が圧印したものだ」となるし、メダルを見ても、「これ、自分が作ったんだ!」と、家族にも話せます。
なんというか、自慢できる仕事だなって僕は思いますね。
造幣局は博物館を併設しているので、どなたでも来館できて、大判・小判をはじめ、創業当時から現代までの様々な史料のほか、貨幣の製造工程も紹介しています。こういった時勢で外出がしづらい世の中ですが、状況が落ち着いたらぜひ遊びにきて欲しいです。
(取材・文:納谷ロマン 写真:山元裕人)
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