コーンポタージュ味にナポリタン味といったチャレンジングな企画の数々、ガリガリ君を支えたマーケティング部・萩原さんの若手時代

2021年2月19日

長年にわたり多くの人々に愛され続けてきた、赤城乳業の看板商品「ガリガリ君」。そんなガリガリ君のロングセラーを支えているのがマーケティング部部長の萩原 史雄さんです。

1995年に赤城乳業に入社した萩原さんは営業として販売の現場に立ち、その後たった1人でガリガリ君のマーティングを担当。2013年にはマーケティング部を設立し、さまざまな話題の企画を手掛けてきました。

そんな萩原さんのキャリアを振り返りながら、コーンポタージュ味やナポリタン味などの話題の企画の裏側に迫ります。

ガリガリ君コーンポタージュ味は、反対意見がほとんどだった

赤城乳業マーケティング部部長の萩原さん

──ガリガリ君はコーンポタージュ味や卵焼き味、ナポリタン味などユニークな味を発売し、たびたび話題になってきました。これらの商品はどのようなきっかけで生まれたのでしょうか?

ガリガリ君のチャレンジングな味のことを「衝撃シリーズ」というのですが、これは2012年のコーンポタージュ味からはじまったんです。その発端は若手社員のアイデアでした。

それまで売上の予測がつきやすいオーソドックスな味ばかり出していたんですが、コンビニのバイヤーから「最近ガリガリ君って攻めてないですよね」と言われて。それが悔しくて、当時のプロジェクトチームで「何かいいアイディアはないか」と募ったんです。

そうしたら「コーンポタージュ味をやりたい」という若手が出てきたんですよね。

──その若手の提案を受けて萩原さんはどう思われたのですか?

正直、訳がわからないなと思いましたよ。だってコーンポタージュ味ですからね(笑)。でも、その若手はすごい熱量で、提案の段階でサンプルまでつくって来たんです。そこまで言うのだったら、背中を押してあげなきゃいけないなと。経営会議に一回出してみたんです。

埼玉県にある赤城乳業本社

──経営陣の反応はどうだったのでしょうか。

案の定、ほとんどの役員が反対しましたね……。

ただ、赤城乳業には昔から熱意のある人に任せる文化があるんです。赤城乳業が大事にしてきたのは『異端の精神であれ』ということ。

プレゼンする若手の熱量に弊社の社長の心が動き、「そこまで言うんだったらやってみよう」という運びになりました。今思えば、あの提案は赤城乳業の文化と一致していたのだと思います。

──結果的にコーンポタージュ味はネットでも評判になりましたね。

結果的に成功したので良かったです。ただ、コーンポタージュ味が売れてしまったことで、みんなどうやって味を評価すればいいか、わからなくなってしまったんですよね(笑)。それで、シチュー味、最後にはナポリタン味を販売するところまで行き着いてしまいました。ナポリタン味はさすがにやりすぎたかもしれません……。

予算は0円。たった1人のマーケティング部

──萩原さんは、若手時代はどんなふうに過ごされたのですか?

そうですね。チャレンジもしましたし、失敗もしてきましたよ。

新卒で配属された営業の部署では、欠品や契約書のミスで、上司と頭を下げにいったり。その後の量販部時代には満を持してコンビニに提案した『ガツン、とグレープフルーツ』という商品が冷夏でまったく売れなかったり。

さきほどお話した若手社員と同じように、僕も上司から「異端であれ」と言われていたため、変わった売り方を企画したり、好き勝手やらせてもらったなと思います。

──変わった売り方というのは?

ポスター作りから売り場設計まで、購買につながることは幅広くやっていたのですが、僕がよくやっていたのはイベント企画ですね。評判だったのは「ガリガリ君レインボーフェア」です。

──ガリガリ君レインボーフェアですか……?

これは担当していたショッピングセンターと一緒に行ったものなんですが、実はコンビニの在庫管理で失敗してしまい、たくさんの種類のガリガリ君を余らせてしまったんですよね。「うーん、どうすればこれだけのガリガリ君を売れるのかな」と大量の在庫を目の前にして考えたとき、起死回生のアイデアで、「そうだ、異なる味のガリガリ君を7色になるように陳列しよう!」と思いついたんです。

──レインボーはさまざまな種類のガリガリ君のパッケージの色だったのですね(笑)。どのような反響がありましたか?

あれはチェーン本部でも話題になるくらい反響がありましたね。なぜ反響があったのか私なりに考えたのですが、たくさんの種類のガリガリ君が並んでいると売り場で会話が生まれるんでよね。「お母さん、小さいころコーラ味が好きだったな」とか「ガリガリ君にこんなに種類があったんだ」とか。これはすごいなと、改めてガリガリ君のポテンシャルに気付かされた経験でしたね。

──その後、萩原さんはマーケティング部を立ち上げましたよね。何がきっかけだったのでしょうか。

営業時代にガリガリ君が「話題にされやすいアイス」だということが分かったので、どんどん露出をしていくべきだと思っていました。

自分なりのイメージがあって、会社のマーケティングの方針に文句ばかり言っていたんですよね。そうしたら「だったら萩原自身が売り方を考えてみてよ」という話になって。当時マーケティング部はなかったので、実質1人で担当をすることになった、というのが最初の経緯です。

とはいえ予算は出なかったので、0円からスタートしていきましたね。

──0円ですか……どんなことからはじめたのですか。

まずは、ガリガリ君自体の認知度を幅広い層に広めていくことに注力しました。営業のときにとにかく人間関係を大事にしていて、いろいろなメーカーさんと仲良くなったので、その人脈を活かして、さまざまな企業にコラボレーション企画を持ちかけました。

ありがたいことにガリガリ君を評価してくれた企業さんが多く、小学館さんの『コロコロイチバン!』という雑誌でガリガリ君の漫画を連載させてもらったり、コナミさんと一緒にガリガリ君が登場するゲームを作ったり。あとはバンダイさんと一緒にガチャガチャのキーホルダーを作ったり。それが大ヒットして、そこからいろいろな仕事に広がっていったんですよね。

──なるほど。リレーションを築くことは元から得意だったのでしょうか。

いえ、最初は僕もできなかったんですよ。でも、できる範囲で「こういうつながりありませんか?」と一歩踏み出して聞いてみると、案外誰かが手を差し伸べてくれるもので。

地道に積み重ねることで、少しずつ輪が広がっていったんですよね。キャラクターコンテンツの業界って狭いので、そんなことを10年間くらい続けていたら、いろいろな人に会えるようになっていきました。

アートとサイエンスのバランスを意識して仕事をしていくということ 

現在もさまざまな施策を行いチャレンジングな味を開発するガリガリ君

──ガリガリ君はその後も順調に成長していき、今では年間4億本以上を売り上げる大ヒット商品に。一見奇策とも思えるガリガリ君のマーケティングですが、どのようなことを大切にしているのでしょうか。

私はよく「計算できるバカになれ」と若手に言うのですが、アートとサイエンスのバランスをいかに保つかが大事だと思いますね。

──アートとサイエンスというのはどういうことでしょうか。

つまり自らの感覚で突き進む“アート”の領域と、データ的な裏付けをしていく“サイエンス”のバランス、この両方を行き来することが計算できるバカになるということです。

ただ、若手時代はこのアートの方が大切で、だから赤城乳業は自らの想いで突き進む、熱意ある人を重視するのかなと思います。

──アートを重視しろ、そして突き抜けろということなんでしょうか。

やはり会社にいればいるほど立場や常識に囚われて、熱量はどんどん冷めてしまうものなんですよね。だからこそ、熱量のある人を応援したくなるんですよ。僕自身も、若手時代はとにかく熱量だけでいろんな企画をやってきたんですよね。

ただ、熱量だけでは方向性がズレてしまうこともあるから、サイエンスも同じくらい必要。なので、サイエンスの方に注力することも重要で、商品設計やデータ的な裏付け、あとは分かりやすく伝える努力をしています。

もちろん、コーンポタージュ味のような企画は出たとこ勝負ではありますけど、一方で最低限の売上を担保するために「ガリガリ君ショコラショコラプレミアム」という売れ線の商品と同時に発売したりと、ある程度の計算はしているんです。

──なるほど、それがアートとサイエンスのバランスということなんですね。最後に、今のビジネスパーソンに一言ありますか?

そうですね。これを読んでいるビジネスパーソンの方には、まずは熱量を仕事に取り組んでほしいですね。もしそこで失敗しても、そのチャレンジをきちんと振り返ればいいんじゃないかなと。結局失敗は伏線です。どこかで成功することで、その伏線を回収すればいいと思うんですよね。最後までやりきったもん勝ちだと僕は思います。

(インタビュー・文/いちじく舞 編集/高山諒+ヒャクマンボルト)

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フリーライター/編集/企画いちじく舞
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