「“はたらく”の語源って知ってる?」仕事と育児に悩むママを救った園長の言葉

2022年1月26日

スタジオパーソル編集部が、世に発信されているさまざまな個人のはたらき方ストーリーの中から、気になる記事をピックアップ。
今回は、自分にとっての「はたらき方」について語る「#私らしいはたらき方」投稿コンテストで「審査員特別賞」を授賞した記事をご紹介します。

執筆者は、文筆家であり心理カウンセラーでもある一児の母、秋カヲリさん。かつて営業職ではたらき、仕事と育児との両立に悩むアラサー女性の小説をnoteに投稿しました。

一歩踏み出すたびに大事なものがこぼれおちていく

ある日、ぷつんと糸が切れてしまった。

―こんなになってまで、わたし、何ではたらいているんだっけ?

はたらいて、愛したい。より

営業職としてはたらいた主人公は、やっとアポイントが取れた大企業との商談に向かう車内で、一本の電話を受けとりました。

バッグの中でスマホが振動し、娘が通う保育園の番号を見て、心臓が跳ねた。電車を降りてすぐにかけ直す。
「具合が悪そうなので、迎えに来てもらえますか」
と告げられ、ああ、やっぱりと脱力した。

はたらいて、愛したい。より

保育園で急病になった娘を、すぐに迎えにいかなければなりません。アポイント先の担当者に打ち合わせを延期したい旨の電話を入れると、そっけなく切られてしまいました。

痛む胃をおさえつつ、続いて上司に早退の連絡を入れます。

上司は困ったように唸ってから、
「またかあ、最近多いね。でもまあ、しかたのないことだから、うん。ほかの日にがんばって埋め合わせしてくれる?」
と言った。再び、胃が軋む。

はたらいて、愛したい。より

保育園では、熱を出した娘が泣いていました。先生の申し訳なさそうな態度を見て、自分の疲れが伝わっているのだと気づきましたが、もはやどうすることもできませんでした。

あれもこれもちゃんと持ってなきゃいけないのに、速く走らなきゃいけないのに、一歩踏み出すごとにポロポロと落ちていく。(中略)
今日だって、必死でめいっぱいがんばっている。それでも、埋め合わせなければいけない穴が空いてしまった。

はたらいて、愛したい。より

家に帰っても、娘は泣き止みません。抱きあげてあやしつつ、片手でなんとかおかゆを作ります。食べさせようとすると、娘は器を床に叩きつけてしまいました。

その瞬間、ぷつんと糸が切れた。
―ぱちん。
気づいたら、娘の頬を叩いていた。

はたらいて、愛したい。より

大声で泣き出す娘。自分も涙が止まらなくなってしまった主人公は、洗面所に逃げ込みます。鏡に写っていたのは、うつろな目をした自分でした。

そして思い出すのは、出産前のこと。

30歳で営業チームを任され、ますます営業の仕事に打ち込んできました。
子を授かった後は産休と育休で1年半の休暇を取得。のちに職場復帰を果たしましたが、かつてのポジションはすでになく、再び実績を積み重ねることを決意して懸命にはたらく日々でした。

時短勤務の中で、今まで以上の成果を出したいと願ってきました。でも、実際はうまくいかず、前に進む同僚たちと差がひらき、取り残されていくばかり。

―どうして私は、こんなに追い詰められているんだろう。なんで大好きな娘を受け入れる余裕を失ってまで、はたらいているんだろう。なんのために、はたらいているんだろう。

はたらいて、愛したい。より

焦り、いらだち、もどかしさ。娘の泣き声を聞きながら、主人公は思います。

確かに、目の前にある仕事はやりたいことだ。
だけど、今の私は、なりたい私ではない。

はたらいて、愛したい。より

“はたらく”の語源を知る

翌日、元気になった娘を保育園へ送った主人公は、園長先生とともに娘の様子を見る機会に恵まれます。子どもたちは、ゆっくりと溶けていく氷と、その中に入っている花々に夢中でした。

「家じゃなかなかこんなことはしてあげられない」と漏らす主人公。園長先生は、会社ではたらいている人が保育園と同じ育児をするのは「物理的に無理」だと言い切ります。

続けて、口にしたのはこんな言葉でした。

「(中略)“はたらく”の語源、ご存じですか?」
「いえ……」
「傍(はた)を楽にする、という説があります。つまり、他者を楽にする、という意味です。育児ほど“はたらく”に適した言葉はそうありませんよね。とにかく子どものためにがんばるんですから。子どもが生きやすいように、寄り添っていくわけです」

はたらいて、愛したい。より

大切なのは、「会社の仕事」と「育児」を切り分けないこと。

園長先生は言います。

「どちらも自分が全うしている仕事だと思って、まわりと比べず、自分に合った生活を送っていきたいですよね」

はたらいて、愛したい。より

その後、主人公のもとに一本の電話がありました。相手は、娘の急病で訪問できなかったクライアント。商談の新しい日取りを決める連絡でした。

時短勤務でどこまでできるか、商談がうまくいくか、母親らしい育児ができるか、いずれもまだわからない。
でも、はたらくのが好きだから、歩みを止めたくない。
自分ができることをできるぶんだけやって、だれかの力になりたい。

はたらいて、愛したい。より

はたらき盛りのときほど、家事や育児、介護など、すべきことが山積みになりがちな私たち。かつての主人公のように、したいことが思うようにできなかったり、他人と自分を比べて不安になったりすることも多いはず。

でも、主人公は思うようにならない今のはたらき方を見つめ直し、前向きな気持ちを取り戻します。

だれかを楽にするには、自分も楽でなければならない。
等身大の私で、手のひらサイズの仕事をしよう。
背伸びするのはそのあとでいいから、まずはのびやかにはたらいてみよう。

はたらいて、愛したい。より

「どうしてできないんだろう」と自分を責めずに、今を精いっぱい生きている自分を受け入れてあげることが、何よりもの支えになるのかもしれません。
がんばる人ほど、この気持ちを忘れずに。自分にあった歩幅で、前に進んでいきたいですね。

秋カヲリ
文筆家/心理カウンセラー/1児の母。だれしもが自己受容できる文章を届けたい。自著『57人のおひめさま 一問一答カウンセリング 迷えるアナタのお悩み相談室』https://amzn.to/2Yr4PKs HP/MAIL≫https://bit.ly/3dDk9rZ

パーソルグループ×note 「#私らしいはたらき方」投稿コンテスト

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