化粧品パッケージってどうデザインするの?SNSで「分かりやすい」と絶賛されたソフィーナの奮闘記
発想力が問われるデザインは、商品の魅力を最大化する力を秘めています。特に商品パッケージは顧客との接点になり、第一印象を決める重要な存在。多種多様なデザインがありますが、類似商品に埋もれず訴求力を高めるためにはデザインの「分かりやすさ」が欠かせません。
花王の化粧品ブランド・ソフィーナの『乾燥肌のための美容液洗顔料』は、商品の裏面に使用量の目安が原寸大の図で表記されていて「説明が分かりやすい」とTwitterで話題になりました。デザインの原案を担当した開発マネージャーの実川紀子さんに、限られたスペースのパッケージに原寸大の図を入れた理由や工夫について伺いながら、分かりやすいデザインとは何かを語っていただきました。
商品パッケージは「一人完結型の営業パーソン」であるべき
――実川さんは商品開発部で開発マネージャーをなさっていますが、どんな仕事をしているのか教えてください。
ざっくり言えば「どんな商品をどんなお客さまに届けるか」を0から考えて形にする仕事です。まず商品となる化粧品の企画を考え、研究所に研究開発を、包装容器研究所などに箱や容器の設計開発を、デザイナーにデザインを依頼し、それぞれ同時に進めていきます。
私が担当しているブランド『ソフィーナ』は、1年に10~20の新商品を出すこともあり、商品の開発期間はだいたい1年ほど。長いものだと3年かかるものあります。だから複数の新商品開発が同時並行で進んでいますね。
――デザインはどのように決められていくのでしょうか?
商品開発が考え、それに沿ってデザイナーにデザイン案を作ってもらっています。最初にデザインの原型となる設計図を作り、パッケージに入れる文言からイラストまでレイアウトしていきます。
そこからデザイナーがデザインラフを綺麗にレイアウトし直して、写真やイラストなどを実際に入れながら完成形にしていきます。その後もデザイナーとのやり取りを重ね、何度も案をだしてもらっては修正してもらうを繰り返して最終デザインに至ります。
――デザイナーと意見がぶつかることは?
あります(笑)。でも、デザイナーさん含めメンバー全員が「いいものを作りたい」と思っているので、目指しているゴールは同じです。だから衝突を恐れずに、本音を伝え合うようにしていますね。
修正を依頼する時は、できるだけメールの文面で終わらせずにオンライン通話や電話などで「どうして変えたいか」といった意図をしっかり伝えます。「こういう誤解が生まれてしまうから、こういう風に変えたい」というように、要望を具体的に伝えて納得してもらうようにしています。
――デザインにおいて重視していることは何ですか?
ソフィーナの商品は主にドラッグストアに置かれるので、百貨店のように販売員が説明してくれるわけではありません。だから外箱のデザインはカラーなどでブランドの世界観を表現しつつ、お客さまが棚に並んだ商品を初めて見た時に「誰のためのどんな商品で、使うとどんなメリットがあるか」が一目で分かることが重要です。いわば営業の役割でしょうか。
『乾燥肌のための美容液洗顔料』の外箱も、それだけ見れば商品説明が完結するようにデザインしています。肌へのやさしさを表現するためにピンク色を基調とし、表は中に入っている商品の全体図と、洗顔ネットを使って出来上がったクッション泡のイメージ写真などを入れ、裏側には使い方や成分などを細かく書きました。
反対に、商品の容器は洗面台などに置いてあっても気持ちよく使えるよう、できるだけ文字量を減らしてすっきりとしたデザインにしています。裏面には使用量の目安となる原寸大の図と、具体的な使い方、法律上入れなければいけない要素だけを入れました。
――使用量が分かる原寸大の図が「分かりやすい」とTwitterで話題になりました。原寸大の図を取り入れた理由は?
化粧品は正しく使っていただかないと本来の使用感が得られないばかりか、パフォーマンスが発揮できないので、もともと分かりやすい説明を意識していました。原寸大の図は1990年代の半ばから説明書には入れていたのですが、説明書って買ったらすぐに捨てちゃうじゃないですか。だから最後まで残る容器にも入れようという話になり、2000年代になってから容器にも図を入れるようになったんです。そうすれば久しぶりに使う時も、裏面を見れば正しい量と使い方が分かるので。
『乾燥肌のための美容液洗顔料』の原寸大の図は、どんな形にすれば分かりやすいか考えるのに苦労しました。はじめはまん丸の正円で表記していたんですが、実際にチューブから洗顔料を出した時はそんな形で出てこないですよね。なのに正円の図を描いても分かりにくいだろうということで、写真のような横長の円になったんです。
ただ、実際は平面じゃなく立体で出てくるので、うまく図にするのも難しくて(笑)。「この図の量を出せば期待通りのパフォーマンスか得られるか」の確認のために研究メンバーに連絡を取り、検証してもらうなどもしています。
――ほか、商品の容器のデザインにおいて工夫された点を教えてください。
使用量の目安を実寸大の図で入れると、それ以外の要素を入れるスペースが少なくなってしまいます。でも、いれなければいけない文言もあります。文字はただ書いてあればいいわけではなく、ちゃんと読んでもらうのが大事ですから、文字量を変えたり文章の順番を組み替えて改行の位置を分かりやすくしたり……。読みにくくならないよう、試行錯誤しながら工夫してデザインしました。
デザインの美しさだけを追求しても、商品の魅力は伝わらない
――特にデザインで苦戦した商品はありますか?
毛穴用の集中ケア洗顔料『ポア クリアリング ジェル ウォッシュ』です。商品容器のサイズが小さいので、使用料の目安の図で3分の1くらいのスペースを占めてしまい、当初入れたかった文章が入りませんでした。デザイナーさんにも「こんなに小さなスペースにどうやって文字を入れるのか」と言われてしまって。
そこでデザインに入れる要素の優先順位を決めて「これは目立たせたい」「これは小さくてもいい」などと伝えながらデザインを作ってもらったのですが、なかなかうまくいかず……。いろいろ要素を減らしながら何度も作り直してもらいました。社内メンバーに数パターンのデザインを見てもらい「どのデザインが一番伝えたいことが伝わるか」を聞き、ようやく決まったのがこのデザインです。
外箱のデザインは、毛穴用の洗顔料であることが伝わるように意識したのですが、デザイン性と分かりやすさを両立するのに苦労しました。毛穴の写真を入れたほうが分かりやすいけど、デザインの美しさは削がれてしまう。この小鼻の写真を入れるかどうかは社内でも意見が分かれて、かなり話し合いました。
でも、やっぱり写真を入れたほうが分かりやすいし「毛穴が気になる場所に直接塗る」という使い方も伝わります。商品の黒色も「毛穴汚れが落ちそう」というイメージを与えられるので、総合的に考えてパッケージに入れることにしました。部分用であることや正しい使い方は、文章で説明するより絵で伝えたほうが分かりやすいですから。何よりも直感的な分かりやすさを優先した商品です。
その代わり、中身のパッケージはすっきりとしたおしゃれなデザインなので、それが分かるように外箱に商品写真の全体図を入れています。
――サイズが小さい商品は、図を入れるハードルが高いですね。
そうですね。特にサンプルは小さくて図は入れられないサイズなのですが、サンプルこそ正しく使っていただいて商品のパフォーマンスを感じてほしいアイテムなので、どうしても使用量の目安の図を入れたくて。
美容液『ソフィーナ iP ベースケア セラム』のサンプルは6.5㎝ほどの高さしかないのですが、使用量の目安である丸い図を白くして、その上に文字を重ねました。3㎝の正円がほぼ裏面を占めています(笑)。
デザインの工夫次第で、限られたスペースでも伝えたいことを伝えることはできるんですよね。「こんなの無理だよ」と投げ出さず、最後まで妥協しないのが大事です。
これからはお客さまにも地球にもやさしいデザインが求められる時代
――お客さまの声はどうやってヒアリングしていますか?
商品を使ってくださっているお客さまに直接インタビューして「どんな商品があったらうれしいか」「既存の商品は正しく使えているか」を聞いたり、調査会社に依頼して特定の年代の方に肌の悩みを聞いたりしています。こうして集まった意見をもとに、毎月の定例会議で戦略や計画を立てていますね。
商品開発としても、お客さまに「パッケージに使用イメージとなる写真が掲載されていて、説明が分かりやすかった」「正しい量が使えて変化を実感できた」といった声をいただけるのが一番うれしくて、やりがいになっています。
デザインに苦労した毛穴用の集中ケア洗顔料『ポア クリアリング ジェル ウォッシュ』も「使うようになってから、ざらついていた毛穴が、びっくりするほどつるつるになった!」といった声をいただき、売れ行きも上々ですごくうれしくて。私自身も常に2~3本ストックしているお気に入りの商品になりました。
――今後「こういうデザインを考案していきたい」といった展望はありますか?
基本的にはこれまで通り、お客さまが意識せずとも正しく使える分かりやすいデザインを考案していきたいです。あと、環境にも配慮したパッケージを作っていきたいという思いがあり、そんな地球にやさしい素材の使用と、使いやすさを両立していくのが課題ですね。
『乾燥肌のための美容液洗顔料』の外箱はもともとプラスチックだったのですが、環境に配慮して紙箱に切り替えました。プラスチックの箱だと透明なので中身の商品を見せられたのですが、紙箱だと中身が分からないのがネックで。外箱の表面に原寸大の商品の写真を透かしで入れつつ、全体図も小さく入れて、プラスチックの箱でなくても中身が伝わるように工夫しました。
これからはより環境にやさしい素材にこだわり、こうしたデザインの工夫でお客さまにも地球にもやさしい化粧品を届けていきたいです。
(文:秋カヲリ 写真:倉持涼)
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