アサヒ飲料は、なぜ「白湯」をわざわざ商品にした?超シンプル商品の裏側

2023年1月11日

まさに「ありそうでなかった」を体現する商品。アサヒ飲料が11月1日より期間限定で発売した「アサヒ おいしい水 天然水 白湯」は、その名の通り、白湯(さゆ)のペットボトル飲料です。

SNS上では「ありがたい」「待ってました!」「こういうのがずっと欲しかった」といった喜びの声が相次ぎ、販売開始のニュースの中には7万いいねを超えるものも。とはいえ、言ってしまえばただの“お湯”です。実際、「自分で温めればいいのでは?」と不思議がる声も聞かれます。

このあまりにシンプルな商品は、どのような経緯で発売に至ったのでしょうか?アサヒ飲料のマーケティング部でお茶・水グループに所属する鈴木慈さんに、「アサヒ おいしい水 天然水 白湯」の誕生秘話を聞きました。

2014年の「天然水 ホット」は成功に至らず

──まずは鈴木さんの業務について教えてください。お茶・水グループというのは、お茶と水の商品を取り扱うチームということですか?

はい。私はその中でも水の担当で、基本的に「おいしい水」ブランドを扱っています。お茶・水グループは、商品開発の担当が5名、販売戦略の担当が2名、あとグループリーダーが1名のわりと小規模なチームです。その7名が中心になって、「おいしい水」や「十六茶」など各ブランドのマーケティングを動かしています。

──新卒でアサヒ飲料に入社されたそうですが、ずっとマーケティング職なのでしょうか?

もともとは研究職として採用され、入社当初は商品開発研究所というところで「十六茶」や「和紅茶」などの「味づくり」をしていました。商品開発研究所とマーケティング部の接点は多く、その流れで私も今年9月からマーケティング職の配属になりました。

──では、マーケティング部には配属されたばかりなんですね。

はい。「アサヒ おいしい水 天然水 白湯」がマーケティング職として初めて担当する商品です。

──「おいしい水 天然水 白湯」は、どのように生まれた商品なのでしょうか?

私が入社する前の話になるんですが、実は2014年に一度、ほぼ同じ商品を「アサヒ 富士山のバナジウム天然水 ホット」として発売しているんですよ。

──えっ、そうだったんですか!

ただ、そのときは目標の売り上げをあまり達成できず、終売に至りました……。だから、もう一度チャレンジするのは社内的になかなかハードルの高い状況で、お客さまの声にはずいぶん助けられました。

──お客さまの声というのは?

「白湯が売られていたらいいのに」といったSNSへの投稿に加えて、コンビニエンスストアさんを介して「お湯を置いてほしい」とリクエストしていただくこともありました。そういったご意見に後押しされて、再チャレンジが実現した形です。

再チャレンジはギャンブルだと思った

──白湯をもう一度やるというのは、いつごろ決まったのでしょうか?

私がマーケティング部に配属される前の話になるのですが、今年の始めごろに社内提案をして、承認を得たのが夏ごろだと聞いています。

──マーケティング部に配属されて白湯の企画について初めて聞いたとき、鈴木さんの正直な感想はどのようなものだったのでしょうか?

「白湯、また出すんだ……」ですね(笑)。正直、ギャンブルだと思いました。商品名が「白湯」になると聞いたときも、ずいぶんダイレクトな名前にするんだなと。

──わかりやすい名前ですが、シンプルなぶん、「わざわざ白湯を売るの?」というツッコミも誘いやすい印象を受けます。

何しろ一度失敗している商品なので、「たとえ需要があるにしても、それは商品を広く展開するほどなのか?」といった指摘にもしっかり反論できるよう、白湯の需要を示すデータをいろいろ積み上げ説明するなどして、社内の合意が得られた商品です。

実は最初、商品名は2014年と同じく「ホット」という言葉を使う想定だったんです。ですが、本当にお客さまのことを想ったら、ひと目でわかる「白湯」のほうがいいんじゃないかという考えのもと、現在の商品名にたどり着きました。

──わかりやすい商品名だからこそ、反響も大きかったですね。

あまりの反響の大きさに、私個人としても少しあたふたしています(笑)。ここまでたくさん取材していただく機会もそうそうありませんので、うれしい悲鳴ですね。

発売前から「白湯が出るんだ」と好評で、予定していた出荷量よりも多く発注いただけました。あと、これは本当にたまたまなのですが、発売直前のタイミングでミュージシャンの方が“コンビニで白湯を売って欲しい”という旨をツイートされていて、その返信として、弊社の白湯を紹介してくださる方がいらっしゃいました。このやり取りが商品の認知度アップにつながり、大変ありがたかったです。

──振り返ってみて、ここまで話題になったのは何が理由だとお考えですか?

やはり「流行をしっかりキャッチアップできたこと」だと思います。お客さまのニーズがあってこその商品、ということを自分としても実感しています。

過去に販売したとき、なぜ実績に繋がらなかったのかを分析してみると、パッケージデザインや商品名など、ひと目でお客さまに伝わるものになっていなかったのかもしれません。今回の商品を通して、お客さま目線というものの大切さを改めて痛感しました。

──鈴木さん個人としては現在、「おいしい水 天然水 白湯」にどのような関わり方をしていますか?

今回のような取材対応など、プロモーション関連の活動を諸々担当しています。あとは販売店からのお問い合わせへの対応ですね。「常温で販売しても大丈夫ですか?」とご質問いただいて、「これは白湯なので、ホットで売ってください」とお答えするとか(笑)。私どもであまり大々的にプロモーション活動を行っているわけではないんですが、引き続きSNSで発信したり、店頭に掲出する用のカードを配布するなどして、着実に認知を広げていければと考えています。

「なんでもいい」の奥にある、隠れた理想

──マーケティング職として水を担当しているということは、日々いろいろな水をリサーチしているのでしょうか?

水の担当になってから、いろいろな商品を手に取るようになりました。スーパーによっては世界の硬水が置いてあったりするんですよね。ただでさえ硬水ってクセのある舌触りですが、飲み比べてみると、「これくらいの硬度なら一般的な日本人は許容できるかもしれないけど、ここまで行っちゃうと厳しいかもな」といったことが見えてくるんです。旅先でも「東京では見たことがない商品だけど、この地域限定かな?」と、つい自然と水をチェックしてしまいます。

──水って世界中どこにでもあるから、リサーチ対象が無数にありそうですね。

そうなんです(笑)。

──鈴木さんは入社当初は研究所の配属で、その後マーケティング部に異動したとのことですが、研究所からもマーケティング部からも商品企画が上がってくる社内体制になっているということでしょうか?

はい。研究所とマーケティング部が一緒になって研究を進めていくことも多いです。ただ、いろいろ企画を提案しても、商品化に至るのは本当にごく一部ですね。

──素朴な疑問なんですが、水の企画でバリエーションを出すのって大変じゃないですか……?

その通りです(笑)。「余計なものを何も入れていない天然水」というのが価値としてありつつ、そこを活かした上でどう新しいものを作っていくか。研究所時代から頭の使いどころです。なにしろ使える原料は限られていますからね。

──あまりイジリすぎると、「ここまでやったら、もはや水じゃない」みたいな話になってきちゃいますもんね。

そうです、そうです。原料を加え過ぎると、もうジュースのような違う商品になってしまいますからね。お茶も極力砂糖を使わず、茶葉だけでバリエーションを持たせるのが非常に難しいんですが、水はさらに悩ましいです。

──プロダクトとして突き詰めていったことが、残念ながらお客さんに伝わらない場面もありそうですね……。

水分補給のために飲むという方も多いですからね。でも「なんでもいい」の奥に、誰しも「どうせ飲むなら、こういうのが飲みたい」という想いを持っていらっしゃるのではないでしょうか。私どもはある種、その“隠れた理想”を探す仕事をしているのだと思います。

──「おいしい水 天然水」シリーズとして大切にしているポイントはどこですか?

地球にも人にも優しい設計です。もちろんお客さまのニーズには最大限応えながら、環境への配慮も重視しています。たとえばラベルレス商品ですね。「ペットボトルを捨てるときにラベルを剥がすのが手間だ」という悩みを解消し、なおかつ環境にも配慮した商品として、ラベルレスシリーズを展開しています。そちらはまとめ買い向けのケース販売専用シリーズですが、バラ売りでも「シンプルecoラベル」といってラベルを小面積のシール1枚だけにした商品を販売しました。これならラベルを簡単に剥がせますし、資材も少なくすみます。

──水・お茶グループならではのやりがいはありますか?

ターゲット層を老若男女すべてに設定しているので、たくさんのお客さまに商品を届けるやりがいを感じています。

──最後に「おいしい水 天然水」の展望を教えてください。

ホットの商品は季節限定なので、春先になればウォーマーの棚がなくなってしまいます。「アサヒ おいしい水 天然水 白湯」を通年で販売できるような形態になれば、いつでもお客さまのニーズに応えることができますから、それは今後のチャレンジですね。

(文:原田イチボ 写真:N A ï V E)

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