好評の本共有アプリ「taknal」に“あの機能”がない理由 担当者に聞く開発秘話
2月9日、突如AppStoreのブックカテゴリランキング1位、無料Appの全体ランキングでも6位に「taknal(タクナル)」というサービスがランクインし、注目を集めています。
「“人とのすれ違い”を“本との出会い”に変える」ことを謳ったこのアプリは、昨年12月24日に公開したばかり。アプリユーザー同士がすれ違うと、それぞれのユーザーが登録したオススメの本の情報(要約とユーザーの感想)が交換されます。また、ユーザーは気になった本を「読みたい本」としてブックマークし、後から振り返ることができます。
また、taknalのもう一つの特徴は、余計な機能が一切そぎ落としているということ。ユーザー同士の繋がりは本のみに限定され、フォロー機能などもありません。また、すれ違った最新の本を表示するタイムラインは最大10件、自身が入力できる本の感想も最大100字まで。
自分のお気に入りの本を検索できるわけでもなく、機能は最小限――。
taknalの事業責任者である大阪ガスの富田 翔さんに、アプリ開発の裏側と、現在の仕様になった意図について伺いました。
――運営元は、大阪ガスさんだったのですね。ちょっと意外です。
よく言われます(笑)。大阪ガスには「TORCH(トーチ)」という新規事業創造プログラムがありまして、既存事業にとらわれず、社員が自由に事業を起案できます。
taknalは、大阪ガスの5人のエンジニアの社員が集まって「こんなサービスがあったらいいな」という視点から発案され、事業化に至ったサービスです。
――エンジニアの方々が発案されたのですね!どんな視点からアイデアを練っていったのですか?
「新しい世界に、気軽に出会いたいな」というのが、最初の着想ポイントでした。
何か新しいことをしたり、学びたいと思っても、社外の勉強会に参加したりするのって大変ですし、モチベーションを維持するのも難しいじゃないですか。
だから、継続して楽しめるような、新しい世界との接点が生まれれば、それは素敵なことだと思ったんです。
――新しい世界と出会えるコンテンツの中で、「本」を選んだのはなぜでしょう。
「どうせ出会うなら、自分のためになるものがいい」という想いと、「本に触れると楽しいよね」というメンバーの共通認識から、本を選びました。
メンバーはものすごい読書家という訳ではありませんでしたが、みんな月に1~2冊くらいは本を読む習慣がありました。楽しく継続できるものをつくりたいというポイントにおいて、自分たちが本に親しみを持っていたというのが大きかったと思います。
――本との出会い方もいろいろな方法があるかと思いますが、人のすれ違いを接点にした理由は?
自分にぴったりな本を選んでくれるサービスは、たくさんありますよね。でも、私たちはその便利さよりも「楽しく」を大事にしたいと考えていたので、“偶然の出会い”という領域にチャレンジしました。
街を歩くだけで自然と新しい本に出会えるワクワク感を、ユーザーに楽しんでほしいと考えたのです。
実は、当初は“機能モリモリ”だった
――taknalって、すごくシンプルなつくりですよね。機能も、タイムラインと、ブックマーク機能、あとはマイページがあるだけです。
実は、最初のころは、もっといろいろな機能を実装する予定だったんですよ。
でも、いざテストでモニターに使ってもらうと、全然ウケなくて(笑)。
――たとえば?
本の感想の入力画面でも、いまは感想を100字で入力する欄しかありませんが、最初のころは「一言でいうと、どんな本ですか?」「どんな人におすすめしますか?」「どんなシーンで読みますか?」「どんな感情になりましたか?」というような入力項目を、20個くらい設けていました。
ほかにも、すれ違った本を、後からジャンル分けできる機能などもありましたね。
――20項目…… モリモリですね(笑)。 でも、あると便利そうな機能にも感じます。
モニターテストで、ユーザーから「結局は本の表紙くらいしか見ません」という声が多かったんですよ。そんなに詳しくレビューされても、読まないですよと。
なので、足りない機能を補っていくのではなく、結果的に、どんどん機能を削っていくことになりました。
――サービスの作り手からすると、たくさん機能を盛り込みたくなりませんか?
モニターテストでの声を受けて、「ほんまかなあ?」「意外とウケへんなあ……」という想いがなかったわけではありません。ただ、ユーザーが使ってそう思うということは事実なので、どの意見を反映するかは見極めながらですが、可能な限り、取り入れました。
作り手がやりたいことと、ユーザーが求めていることをすり合わせていく過程は、大変でしたけど、取り組む中で、実現したい世界観が明確になってきましたね。
なぜ「あの機能」がないのか?
――Twitterなどでユーザーから挙がっている驚きの声や感想、疑問をもとに、機能についていくつかお伺いします。まず「感想の文字数は100文字以内」に抑えた意図は。
感想を書くのが苦痛にならないようにしたかったんです。
文字数を長くすると、「書かなきゃいけない」というような義務感が生まれてきます。そうするとレビューするのが楽しくなくなってしまいますよね。
ユーザーの声も反映しながら、最終的には100字という文字数に落ち着きました。
――なるほど。「タイムラインには10冊までしか表示されない」のも、そういった部分に関係が?
はい、これも負担感をなくすということに繋がっていきます。情報が多いと、負荷になりますから。
感想を書く人は「さくっと書けて」、見る人は「さくっと読める」ということを大事にしました。
――徹底的に、継続して楽しんでもらうことをポイントに置いたのですね。
この“さくっと感”は、エンターテイメントとして重要な要素だと思っています。
ただ、これから先ユーザーの皆さんの声を聴きながら、今後変えていく可能性はありますよ。
――もう一点お聞かせください。taknalには、ユーザー同士でコミュニケーションを取ったり、フォローしあう機能がないですよね。ユーザー同士の双方向性については、どう考えますか?
ユーザーのフォロー機能がないのは、taknalの世界観として大事にしているポイントです。
SNSのように「いかに人としっかり繋がるか」という世界観ではなく、taknalは「さりげなさ」によるコミュニケーションを大事にしています。
現在の仕様でも、すれ違ったユーザーが登録した本の一覧は、本棚のように見られるようになっています。その人のことを、うっすらと「どんな人なのかな?」と想像しながら、すれ違ったことによる親近感を感じてもらう。それくらいの世界観がいいんじゃないかと思っています。
“便利=幸せ”ではない
――ダウンロード数も順調のように見えます。
もともとは、1年間で1万ダウンロードという目標でした。それが、現在すでに7万ダウンロードをしていただいているので、私たちの想像よりも大きな反響をいただいています。
有料広告は一切出稿しておらず、ありがたいことに口コミだけで広げていただいています。
――ユーザーの声としては、どんな声が多いですか?
「ワクワクする」という声が多く、うれしいですね。また、「すれちがった本を、買って読んでみたら、涙が止まらなくなった」など、ユーザーの新たな行動に繋がっているというケースも見受けられます。
――何か想定外だったことはありますか?
私たちの想定では、「読書家はこのサービスを使わない」と思っていたんです。自分で本を探せる人たちですから。でも、実際にはそのような方にも多くご利用いただいています。潜在的に「偶然性」を求めている人が多いのかもしれません。
――本を探すという行動において、taknalは「便利さ」からは距離を置いているようにも見えます。でも、taknalはヒットしている。なぜだと思いますか?
インターネットの普及などもあり、すごく便利な世の中になりましたが、それによって幸せな人が増えているかというと、そうではないような気がしています。「便利になることと、幸せになることは違う」ということを感じている人が、だんだん多くなってきているのではないでしょうか。
いまも、テレワークが普及して便利な一方、逆にリアルの価値が際立っています。人の存在や温もりの価値が見直されていて、サービスの利用においても、そういったことへの意義を感じる方が増えてきているのかなと思います。
――そんな時代の中で、taknalでどんな世界観を実現したいですか?
まずは継続してご利用いただけるサービスに進化させること。そして、すれ違った本を実際に読んでみるというような次の行動を支援することを目指していきたいと思います。
その積み重ねの先に、本によって生まれる価値が蓄積し、社会で循環していくような世界観を実現できると良いですね。ユーザーの皆さんと一緒に、共創していきたいです。
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