朝礼ってなんでやるの? 日本唯一の「朝礼の専門誌」に聞いてみた
『月刊朝礼』は1984年の創刊以来、約40年続いている「朝礼」の専門誌。同誌には1日1つの朝礼で使えるネタが掲載されています。朝礼を通して企業の「人づくり」に貢献することがコンセプトの月刊誌です。
あまりにもニッチすぎる月刊誌がなぜ成立するのでしょうか?『月刊朝礼』の編集長 梶谷友美さんに、朝礼の奥深い世界を案内してもらいました。朝礼を「面倒くさいもの」と思っているあなたのイメージも変わるかもしれません。
38年間365日、欠かすことなく「朝礼に使える話」を紹介する専門誌
一流の心
Aさんには、今年から始めている朝の日課があります。
それは、自宅と職場周辺のごみ拾いです。出勤前に、道に落ちているごみを拾って歩きます。
昨年11月、サッカーのワールドカップで日本代表チームが、試合後にロッカールームをきれいに片づけてから退出したことが話題になりました。
また、応援する日本のサポーターがスタジアムの清掃を行ったことも、国内外のメディアから称賛されました。
Aさんは、「一流の選手は、普段の心掛けも一流なんだな」と感激し、同じ日本人として誇りに思いました。そして、自分も人のために行動したいと思ったのです。
また、試合に勝ったときも負けたときも、同じように片づけるという点にも感動しました。善行は、余裕のあるときにだけするものではないと気づいたのです。そのため、Aさんも、忙しい時期や悩みのあるときも変わらずに続けようと思っています。不思議なことに、ごみを拾うことで、心が晴れていく気がしました。
一流の心を目指しましょう
(2023年2月1日)
『月間朝礼』NO.467
お坊さんの説法のように示唆に富んだこのエピソードは、『月刊朝礼』が毎日紹介している記事の中から抜粋したものです。
日本で唯一の朝礼の専門誌『月刊朝礼』は1984年に創刊された、歴史ある媒体。経営者のインタビューや、マナー講座のページなど、幅広い読者の仕事に役立つ情報を掲載し、毎月刊行しています。
あまりにもニッチなこの本にニーズはあるのか?と思いきや同誌の発行部数は平均15,000部。この特定分野の月刊誌としては決して少なくない数です。どんな方々が読者になっているのでしょうか? 編集長の梶谷さんは次のように話します。
「『月刊朝礼』の読者の多くは定期購読をしている企業さまです。中小企業が中心で、事業の分野は多岐に渡りますね。古くから導入してくださっている企業さまだけでなく、最近ではIT企業さまや美容院さまなど、若い人が多い職場にも導入いただいています」
同誌の中心をなす企画が、冒頭に紹介した毎日の記事ページです。ここでは、歴史上の偉人、スポーツ選手、芸能人のエピソードに加え、編集部が生活の中で得た学びなどさまざまな話題が取り上げられ、朝礼で毎日1つネタを披露できるよう、日付順に紹介されています。
成人の日には新社会人に、敬老の日には年配の方に向けたエピソードなど、時事性のある記事が。「『月刊朝礼』を読んでもらえれば、365日朝礼のネタには困りません。さらに、日々の朝礼を活性化させる話題として使えるんですよ」という梶谷さんの言葉の通り、『月刊朝礼』は「読むもの」ではなく、朝礼に「使う」ためのものとして制作されているのです。
ここで紹介されるエピソードの背景には「自立心」「思いやり」「成長」を育むという一貫したテーマがあります。ただ、同じテーマの話でも、時代によってとらえ方が変わります。普遍的なテーマを扱いながらも、現在の価値観に合わせてアップデートしているのです。
しかし、毎日エピソードを紹介するとなると記事の「ネタ」に困ることはないのでしょうか?
「よくご質問をいただくのですが、実は困ったことはないんです。というのも、こうした教訓は日々の生活の中に見いだすことができますから。仕事をする中でも、読書や映画鑑賞からでも、誰かと会話をする中でも、そこには何かしらの「学び」があります。ネタを考えるというよりも、それを見逃さないようにするという感覚なんです」
『月刊朝礼』の創刊時の編集長は「人間が生きている限り、書くべきことがなくなることはない」と語っていたそうです。日々起こることをどう受け止めるかによって人は成長できるのだということ。その理念が38年間に渡って受け継がれてきたのです。
誌面を制作する上で最も大変なことは、「独りよがりないい話」にならないようにすることだと梶谷さんは話します。
「どんなにすごい成功者のストーリーであっても、その背景には両親や恩師の存在や、支えてくれる環境があったはず。そうしたバックグラウンドに思いを巡らせ、光を当てるように心がけています。私自身まだまだ未熟なのですが、まず自分が周囲への感謝を忘れないようにすることが、良い原稿を書くことにつながると考えています」
朝礼は飲み会にも負けないコミュニケーションの場
近年ではリモートワークを推進している企業も多く、朝礼は「冬の時代」を迎えているかのようにも思えます。また、同じ時間に全員が集まることに、画一的でナンセンスな印象を持っている人もいるかもしれません。しかし、朝礼は「なくてはならないコミュニケーションの場」というのが、梶谷さんの考えです。
社員が同じ方向を向くために、理念を共有する。組織としてのルール・マナーや、道徳観のすり合わせを行う。日々の業務に関する連絡はもちろん、毎日顔を合わせる場を持つこと自体が組織のコミュニケーションを活性化させるのだといいます。
また、社員間のコミュニケーションが希薄化する中で、いかに結びつきを強くするのかというのは多くの企業が抱える悩み。朝礼はその改善の一手になりうるのだと続けます。
「例えば、ちょっとした言葉尻からすれ違いが起きちゃうことってありますよね。でも、もしその人の人柄を知っていれば「本当はこう言いたかったのかな」と想像できるかもしれない。個人的に親しくなることで仕事がうまくいくことって、結構あるんですよ。
以前ならば「飲み会」が親睦を深める場としての役割を担っていたかもしれませんが、朝礼が取って代わるものになったらいいなと思います」
『月刊朝礼』編集部がすすめる「朝礼の流れ」と「朝礼6ケ条」
では、コミュニケーションの活性化に効果のある朝礼とはどのようなものなのでしょうか。朝礼が効果を発揮するために大事なことは「目的を設定し、適切な設計を行う。その上で本気でやること」なのだそう。朝礼の取材を38年間続けてきた『月刊朝礼』編集部が実際にどんな朝礼をしているのか、聞いてみました。
- 『月刊朝礼』編集部がすすめる「朝礼の流れ」
- ・当番決め
- ・今日の記事
- ・今日のニュース
- ・経営理念、社是を唱和
くじ引きによって決められた「当番」が全体の進行を担当となり、その日の記事を読み上げます。それに対し、ランダムに指名されたほかのスタッフが感想を述べます。その時間は1分。ストップウォッチで時間をはかりながらきっちりと進行していくのがポイントです。複数名で意見を降参したのち、当番が総括を述べる。この形式が基本となっているそうです。
「弊社の朝礼は9時半から10時まで、どんなに忙しくても毎日30分かけて行います。比較的長い時間かもしれませんが、心を整え、気持ちの切り替えるためにはある程度時間をかけるべきだと考えています。
現在はこの形式で落ち着いていますが、過去にはラジオ体操を取り入れたり、オススメの本を共有するコーナーを設けたりしたこともありました。今後も思いついたことはどんどん取り入れていきます。親切にしてもらったことやお客さまから褒められたことを仲間同士で共有する『いいね!コーナー』などもやってみたいと思っています」
そして、さまざまな試行錯誤を行うなかで導き出した朝礼のポイントが以下の6つです。
①は、朝礼に対してのモチベーションを上げるために重要です。お互いの考え方や価値観が共有できるよう、意見を言い合えるような形式・題材を取り上げるのがおすすめ。みんなの前で発言することで、スピーチ力も向上します。
②は顔を合わすことで得られる情報もあるということです。「元気なさそうだけどどうしたのかな?」「今日のファッションはいつもと違うな」など、仲間の様子に気づくことからコミュニケーションにつながります。
③の時間は、5分でも構いません。やると決めたら毎日やりましょう。
④については、ルーティンとして、これをしないと始まらないという意識付けをしていくことが大切です。気持ちのオンオフを切り替え、コンディションを整える時間になります。
⑤は、自分の話題を共有することで、関係性を深める効果があります。ニュースの話題を話すときでも、自分なりの視点を踏まえて話しましょう。
⑥は朝礼に限らずですが、人前でネガティブな内容を話すことは避けましょう。どうしても厳しいことを言わなければならない時は別の場で。
これらは一見するとどれも「当たり前のこと」のように思えるかもしれません。しかし、だからこそ、継続して実行することは意外に難しいものです。『月刊朝礼』の取材を長く続けるなかで、そこにこそ変わらない本質があるのだと気付かされたのだと、梶谷さんは話します。
「さまざまな企業を取材して分かったのは「互いに理解を深め、同じ方向を向くこと。そして根気よく継続すること」が朝礼の本質だということです。これだけは、これから時代が変わっても変わらないものだと信じています。
はたらく仲間の心が一つになることで、チームワークが強固になり、互いへの思いやりも生まれます。それは仕事の質の向上につながり、企業の信頼度も高まります。『月刊朝礼』は、そのお手伝いをする月刊誌です。
なので、形式にこだわっているわけではないんです。むしろ、朝礼を行う目的を達成できるならほかの部分はどんどん変えていくべきだと思っています。朝じゃなくても、リアルで集まらなくても構わないです。実際にZoom朝礼やチャット朝礼をうまく運用している企業さまもあるんです。
時代とともに変化していく朝礼の形を、これからも紹介していきたいと思います」
最近ではリモートワークが定着しつつある一方で、はたらいているスタッフが孤独を感じてしまったり、会社の一体感が生まれなかったりという課題を抱えている企業が少なくありません。今の時代だからこそ、改めて朝礼の価値が見直されるべきなのかもしれません。
(文:高橋直貴 写真提供:『月間朝礼』編集部)
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