成長したければ「メモを取りまくれ」。フォロワー30万人のカリスマ美容師が語る「若手時代にやるべきこと」
渋谷にお店を構える人気美容室「syn」代表の齋藤正太さんは、新世代の美容師として業界内で注目を集めるトップ美容師。美容業界のミシュランと呼ばれる「カミカリスマ」を最年少で受賞、Instagramのフォロワーは30万人超(2023年1月現在)と、人気、実力ともに高い評価を獲得しています。
20代にして多くの実績を残し、経営者として活躍をしている齋藤さんですが、「人よりも成長が遅く」「コンプレックスだらけ」だったそう。そんな彼がなぜ、若くして業界でトップクラスの人気美容師になることができたのでしょうか。若手時代を振り返っていただきながら、その「成長の法則」を伺いました。
データをとり、実行する。鉄板の「成長の法則」
──齋藤さんは美容業界のアワードを若くして受賞されていますが、なぜそんなに早く成果を出すことができたのでしょうか?
ぼくは人よりも物覚えが悪く、技術の習得にも周囲のスタッフより時間がかかるようなタイプだったんです。だからこそ、どうすれば最速で成長できるかということを新人時代から突き詰めて考えていました。
ぼく自身が取り組んできたことはいたってシンプルです。ビジネスマンとしては基本的なことなのですが、まず1つはデータを集めること。もう1つは、データを元に目標を立て、実践し、振り返り、改善すること。つまり「PDCA」を安定的に回す。本当にこれだけなんです。
──具体的には、どんなことを行っていたのでしょうか?
ぼくはメモ魔なんですが、仕事に関する記録をつけることは新人時代から取り組んでいました。今もその日の出来事を記録し、良かったこと、悪かったことを毎晩必ず振り返るようにしています。自身の記録に加え、美容師になったばかりのころは、先輩スタッフの動きも観察し、記録していました。
──どんなことを記録していたのでしょうか?
ほかのスタッフの良いところ、悪いところをなるべく具体的にメモしていました。たとえば、カットの技術ならば手の使い方。接客であれば、あいさつの時の姿勢や声色、どんな話をしているとお客さまが楽しそうにしているか、などですね。
すると、結果を出す人、出せない人、それぞれに共通点が見えてくる。自分が結果を出したいのならば、まずはその差がどこにあるのかを理解しなければいけません。そうやってデータを集め、良いところは取り入れ、悪いところは反面教師にして実行していきました。
──なるほど。
メモの重要性は、そうしたデータを蓄積していくことはもちろん、言語化することによってスキルアップを助けてくれることなんです。
──どういうことでしょう?
美容師には「センス」や「感覚」を重視している人が少なくありません。もちろん、これらが重要なことは間違いありません。しかし、センスや感覚のみに頼りきってしまうと、技術の定着が「なんとなく」になってしまうんです。すると、再現性が低くなってしまい、一定のクオリティを保てなくなる。
お客さまは人によって髪質が異なりますから、「なんとなく」の技術では髪質の違う方に同じスタイルを提供できません。言語化ができていない状態というのは、理解が不十分であるということなんです。
ぼく自身、先輩方の真似をしながら感覚的に技術を身につけてきた部分もあります。ですが、その場合も必ず言語化するようにしています。特に、人を育成する立場を目指す方ならば、やっていて損はない習慣だと思いますね。
周囲に流されず、自分だけの成長曲線を描く
──新人時代は成長に時間がかかったと言っていましたが、その理由は?
先輩に指導をもらっていても「なんで?」と、その理屈をずっと考えてしまっていたんです。手を動かさなきゃいけない場面でも、つい考え込んでしまって。はたらき始めたころは周囲のスタッフよりも出遅れていたと思います。
ただ、そもそも、成長に時間がかかることをネガティブに捉えてはいませんでした。得意不得意はもちろん、成長の速度も人によって異なりますから。一つひとつの動きを論理的に考えることはぼくにとっては必要なプロセスだと思っていたので、それを省いてしまっては元も子もない。
──焦ったりはしませんでしたか?
ぼくは人より時間がかかる分を、練習量でカバーしたんですよ。新人時代はつい周りと比較して焦ってしまいますが、自分なりの成長曲線を描ければいいのではないでしょうか。
自分の目標や長期的なキャリアにとって重要なスキルというものもありますよね。それは必ずしも組織の教育方針と同一ではないですし、組織は自分の成長の仕方までをそこまで考えてくれません。
たとえば、接客が自分の武器になるのだと思ったら、接客を磨く。将来的に独立を考えているならば、経営のノウハウを学ぶ。わがままじゃないですけど、ある程度は自分の価値観を大事にしてもいいとは思いますね。
若手時代にこそ身につけるべきメンタルコントロール
──そのほかに、キャリアの初期から身につけておくべきこと、習慣化すべきことはありますか?
成果を出している人というのは、長期的に安定的なパフォーマンスを出せる人なんです。なので、メンタルを整える方法は早いうちに知っておくことが大事だと思います。
ミスをきっかけに落ち込んだりしてしまうこともありますよね。どんなに仕事ができる人でも基本的に気持ちの波はあるので、それは当然のことです。だけど、悩んでいる時間って成長には何のプラスにもならないんですよ。なので、いいメンタルのサイクルをキープする方法を知り、安定的に仕事ができるようにコントロールすることが大事なんです。
ぼくは美容専門学校に通っているときに心理学を勉強していました。お客さまがどうすれば心地よく過ごせるかを知るために学び始めたのですが、接客にはもちろん、自分のメンタルを一定に保つことにも役立ちました。
──メンタルケアのために、具体的にどんなことをすればいいでしょうか?
先ほどお話しした「メモ」は、メンタルケアにおいても活きてくるんです。仕事をしていく中で、パフォーマンスが良かった日、悪かった日というのがあると思います。その日の記録をしておいて、振り返る時間をつくる。早起きした日は集中力が高かったとか、怒られてしまった日はうまくいかないなとか、自身の傾向を早めにつかんでおく。また、モチベーションを維持できる方法が見つかったら、それをルーティーンとしてスケジュールに取り入れます。これもPDCAですね。
目標は具体化しなければ実現できない
──記録することや言語化することを徹底しているんですね。美容師は感覚的な部分が重要な仕事だという先入観があったのですが、なぜ齋藤さんはこの2つを重視するに至ったのでしょうか?
それは、成長のための確かな指標が欲しかったからですね。記録と言語化のいいところは、抽象的な目標を具体化してくれることなんです。
──どういうことでしょう?
目標というのは抽象的なままでは実現できません。だから、記録や言語化を行なって、なるべく具体的な指標に落とし込むんです。
「成長」ってすごく抽象的なものですよね。数字で測ることはできないし、「これをやれば必ず成長できます」ということもない。
また、若いスタッフから「自信を持つにはどうしたらいいですか?」と聞かれることがあるのですが、これも抽象的なものです。
でも、「成果」ならば数値目標に置き換えることができます。
まずは目に見える「成果」を求める。「成長したい」や「自信を持ちたい」といった抽象的な目標は、成果を積み重ねたのちに、自然と達成できるものだと思っています。
──斎藤さんは、いつごろ成長の実感が得られましたか?
強いてあげるなら、意識が変わった25歳のころでしょうか。美容の業界では、技術を一通り身につける20代中盤が若手と中堅の境目なんです。仕事の成果が現れはじめたタイミングで、徐々に成長したという実感が湧いてきましたね。
そして、ぼくは同時に人を育てたいという気持ちが芽生えたんです。それは、自分1人だけではできないことの大きさがわかったから。少しだけですが、視野が広がりました。日々の仕事の記録をしてきたこと、言語化を続けてきたことは、後進を育成する立場になった現在も、大きな財産になっています。
(写真:玉村敬太 文:高橋直貴)
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