あのころの「最強コギャル」は、今も超パワフルだった。嫌なこともプラスに変換する元ギャルのはたらき方
ギャルブームの全盛期であった1999年からバラエティ番組「学校へ行こう!」に出演し、同級生のミホさんとともに「最強コギャルコンビ」として人気を博した藍原沙織(サオリ)さん。藍原さんは現在、アパレル企業ではたらき、「元ギャル」に向けたオンラインのヴィンテージショップを運営しています。
藍原さんをはじめとする「あのころ」のギャル。なぜギャルを卒業してもなお、アクティブで、生き生きとしているのでしょうか。藍原さんの「ギャルマインド」に対する価値観、そして現在の仕事に対する価値観を伺うことで、底知れぬギャルパワーの源に迫りました。
思ったことは口にする!ギャルをギャルたらしめるマインド
──藍原さんが「最強コギャル」として「学校へ行こう!」に出演されていたのは10代のときですよね。同級生のミホさんを含め、ギャルのお友達の輪が広がっていったのはいつころからだったんでしょうか。
高校時代ですね。ミホは家が近所なのでもともと仲良しだったんですけど、当時友達になった子たちとは、大体渋谷のセンター街で知り合っています。クラブでしゃべって仲良くなったり、日サロ(日焼けサロン)の待ち時間で仲良くなったり。 まあ、大人しくはないですよね(笑)。
──当時のお友達や、コンビで出演していたミホさんとは、今でも交流はあるんですか?
ミホとは今でもすっごい仲良しですよ!友達には仕事を辞めた人も多いんですけど、ミホと私はバリバリはたらいているので、仕事の話もよくします。ミホは化粧品会社で新商品の開発や、PR関係を担当しているみたいです。
──勝手な感想ですが、テレビで観ていた藍原さんのパワフルさと、今こうしてお話ししている印象がまったく同じで感動しています。
本当ですか?でも、いまだにすごい言われるんです。「やっぱめっちゃギャルだね」って(笑)。喋り方がそうなのかな。「リアクションでかいね」とか「テンション高いね」みたいなこともよく言ってもらえます。
──あと、藍原さんに限らず「ギャル」と呼ばれる人たちは、意見がハッキリしている印象があるんです。それもパワフルなイメージにつながっているのかなと思いました。
たしかに、何か思うことがあったらそれを公言する子が多い印象はありますね。嫌なことがあっても、隠そうとしないですぐ口に出す。振り返ってみると私もそうだったんですけど、ギャルってちゃんと喧嘩するんですよ(笑)。
──友達同士で、ですか?
そうです。女の子同士って、嫌なことがあってもわざわざ言わないで、波風立てないようにする人も多いじゃないですか。でも、ギャルの子たちはわりと口に出して喧嘩をするし、それによって余計仲良くなることも多い気がします。
──それは、もともとはっきり意見を伝えるタイプの人がギャルになるケースが多いからなんでしょうか?それとも、大人しい人であってもギャルの輪に入っていくことで、そういったコミュニケーションのとり方に変わっていくんですか?
ギャルにもいろんな人がいるので、皆が皆そうではないと思うんですけど、相手がそうしてくれるから変わっていった、という人は多いんじゃないですかね。
当時、私にもそういうふうに接してくれる人がたくさんいたから、そうやって喋ってくれる子に対しては、こっちもちゃんと思ったことを言おうと心がけていた気がします。
──藍原さんが考える「ギャル」の定義はファッションだけじゃないのですね。
どちらかと言うと、見た目よりもマインドじゃないかと私は思ってます。「嫌なこともネガティブに捉えないでかわいくできるように考えてみようよ」「言いたいことがあるならはっきりと伝えようよ」「やりたいならやってみようよ」みたいなマインドを持っているのが、ギャルをギャルたらしめるポイントですね。
コンプレックスをポジティブに変換する
──藍原さんがギャルに憧れるようになったのは、いつごろからだったんですか?
私が小学生のときに、ジュリアナ東京(90年代、東京・芝浦に存在したディスコクラブ)ができたんですよ。ジュリアナで踊っている派手なお姉さんたちをテレビで観るようになって「ああいう派手なファッションで踊ってみたい」って思ったんですよね。それで中学くらいから高校にかけて、服装や髪の毛をちょっとずつ派手にしていった気がする。
──ギャルファッションを維持するのって、相当な努力が必要だったのでは?
特に高校でギャルを極めていたときは大変でした!毎日が先生との闘いなんですよ。髪を染めてメッシュを入れたり、肌を焼いたりルーズソックスを履いたりしていると、やっぱり先生たちから目をつけられるので。
大体の子は怒られない範囲でアレンジしていたんです。でも、「ギャル」と誰からも言われるような子たちは、やりたいと思ったら怒られてもやる(笑)。
──ギャルファッションを貫くこと自体に行動力が必要だったんですね。
ルーズソックスを履いたり肌を黒くしたりするのって、足が太いのが嫌だとか、目が小さいのが嫌だっていうことをポジティブに変換するための行動力から生まれたカルチャーだと思うんですよね。
ギャルの子たちって皆それぞれにコンプレックスはあっても、それを「もっと面白く、可愛くしちゃおうよ」っていう発想の転換が上手だと感じます。嫌なことをあえて隠さないんです。
「ブランド化された人間が強い」価値観には嫌気が差した
──藍原さんがギャルだった90年代からゼロ年代、一部の女子中高生の間では、人気のある男子校の鞄を持っていることがステータスだった、と聞いたことがあります。ギャルの間でも「持っているとステータスになるアイテム」はありましたか?
ああ〜!それ、私もやった!鞄を貰いに行ったこと、あります(笑)。
私たちの時代では、ブランド物のアイテムがギャルにとって最大のステータスになっていました。良く見せたいっていうか「箔をつけたい」みたいな。自分も昔はそういうフィルターをつけて生きていたと思います。でも、30歳くらいのときに価値観が変わってきました。
──何があったんですか?
ステータスだけで人間の強さが判断されることに、だんだん嫌気が差してきたんですよね。ハイブランドのバッグを持ってたらオシャレとか、大手企業に勤めているからすごい、みたいなのってつまんないな、クソじゃんと思って。彼氏がいるかどうかで判断したり、されたりするのも嫌になり、一度ガラッと環境を変えようと決意しました。
当時はアパレルショップの店長をしていたのですが、退職し、暮らしていた実家も出て、2012年に韓国へ留学しました。何かターニングポイントを求めていたんだと思うんですけど、あえて言葉が通じないところに身を置いて、不自由になった自分がどうなるかを見てみたかったんですよね。
──すごい。アクティブですね。
そこから韓国ファッションにも興味を持ちました。当時の韓国のスタイルって奇抜でカラフルなものも多かったんですけど、その取り入れ方が個性的な人も韓国にはたくさんいたし、すごく刺激を受けました。「有名ブランドじゃなくても格好いいものっていくらでもあるんだな」って。
それから翌年の2013年に帰国したのですが、やっぱりファッションに関わる仕事を続けていきたい、という思いがあって。現在のアパレル企業へ再就職し、セレクトショップのバイヤーとしてはたらくようになりました。
ファッションに人生を変えてもらった実感があるからこそ
──藍原さんは、昨年2022年に「元ギャルのためのヴィンテージショップ」である「KALE KALE」を立ち上げました。こういったコンセプトに至ったのはどうしてですか?
私の周りには、子どもが生まれてから自分の身だしなみに時間をかけられなくなって、「(今の見た目では)もう外になんか出れないよ」と自虐しはじめる元ギャルの友達がいたりするんです。その友達自身の格好よさは何も変わっていないのに、外見の手入れができなくなった瞬間にそんなことを思わせてしまうのって、悲しいじゃないですか。
だから「これからは、自分のアパレルでの経験を、これまでとは違ったアプローチで活かしていかなきゃ」っていう使命感みたいなものから「KALE KALE」を始めました。
──とても素敵な取り組みですね。では、なぜ新品の洋服ではなく、古着でアプローチしていこうと思ったのでしょうか?
アパレル業界が環境に与える負荷を考えたとき、もっとサステナブルなファッションのあり方に目を向けていくべきだと感じたんです。
さっきお話しした通り、90年代とかゼロ年代にギャルをやっていた人たちって、ネガティブな状況をポジティブに変えていくパワーがあると思っています。誰かが捨てるはずだった洋服をかっこよく着こなし、長く使い続ける楽しさをその人たちに発信すれば、未来の地球環境も変わっていくと思いました。
まずは元ギャルの子たちに向けて「一緒にちょっとずつファッションの世界を新しくしていこうよ」と発信したいな、と。直近では、サイズが合わなくなった子ども服をお店で集めてお母さんの洋服に交換する、という取り組みも始めようとしているんですよ。
──ギャルのパワー、ファッションのパワーを強く信じていらっしゃる藍原さんならではの発想だなと思いました。
「もっと外に出たい、もっと人と喋りたいと背中を押してくれるのが洋服だ」というのは、周りのいろんな人たちから聞く言葉。自分自身も、ギャルファッションにマインドや人生を変えてもらった実感があるんです。
何より、高齢者や身体が不自由な人のための洋服づくりの学校に短期で通ったことがあるんですけど、そこで出会った方が「洋服がいちばん人生を変える」っておっしゃっていたのがすごく印象に残っています。
私は必ずしも「ギャル」とか「古着」にこだわりたいわけでもありません。「KALE KALE」がフォーカスを当てるのは「オトナを楽しみたいオトナ」。もっともっと多くの人に、ファッションの魅力を届けられるはずなんです。ゆくゆくは高齢者や身体障害のある人たちなどが、制約なくファッションを楽しめる活動もしていきたい。
ギャル文化を通してファッションという文化のパワーを知っているからこそ、この仕事は私がやるべきなんだろうなって思っています。
(文:生湯葉シホ 撮影:鈴木渉)
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