パチンコ漬け借金600万から、浅草の「人力車」社長に。年商4億円/口コミ7,500件の理由。

2025年9月19日

スタジオパーソルでは「はたらくを、もっと自分らしく。」をモットーに、さまざまなコンテンツをお届けしています。

今回取材したのは、大学時代からギャンブルにのめり込み、借金600万円を抱えた過去を持つ西尾竜太さんです。そんな彼は今、東京・浅草で観光人力車を展開する「東京力車」の代表取締役を務めています。

東京力車は、浅草を拠点に年商4億円、俥夫の最高月収は130万円超をたたき出し、Googleマップでは星5・口コミ7500件超という高評価を獲得。西尾さんは、多くの人に“必要とされる仕事”に取り組んでいます。

「はたらくのは、お金のため」——そう信じて疑わなかった西尾さんが、なぜ“人のためにはたらく”ことの意味に気付けたのか。人生どん底から立ち上がった彼のリアルな体験から、「はたらく」の本質が見えてきます。

ギャンブルに溺れ、職も家も失ったぼくが気付いた“はたらく本質”

──かつてはギャンブルやお酒に溺れていた時期もあったとお聞きしました。

気付いたら、欲にまみれたバカになっていた。それが、正直な表現かもしれません。

自分が大きく落ちぶれてしまったのは、大学に入ってからです。それまでの学生生活は、すべて「やらされるもの」だったんですよ。部活も授業も、先生や先輩の言うとおりに動いていれば良かった。でも大学では、誰も指示してくれません。部活の練習メニューも自分で組まなきゃいけないし、授業だって出るか出ないかは自由。何もレールがなくなった場所に立った時、「じゃあ何もやらなくていいじゃん」と、自由の意味を履き違えてしまったんです。

そんな時期に友達に誘われて初めて行ったパチンコで、たった2,000円の元手が7万円になって。こんな簡単にお金が増えるなら、大学に行くことやはたらくことなんてバカらしいなと思ってしまったんですね。そこから、ギャンブルとお酒に溺れた生活が始まりました。

朝から晩までトイレにも行かずに13時間もパチンコ台に張り付いて、お金を注ぎ込んでは利益が出ずにイライラして。帰って寝るか、飲み会に行く。今となっては「何やっていたんだろう」と思いますが、当時は目の前しか見えておらず、パチンコに行く衝動を止められなかったんです。気付けば借金は600万円までに膨れ上がっていました。

水泳が得意なのでスポーツクラブではたらいた時期もあったのですが、借金取りが職場にまで来てしまうので、どのスポーツクラブに行っても長くは続かなくて。最終的には近くのスポーツクラブすべてに勤務しました。

当時付き合っていた女性にも見限られ、実家に戻ったら、両親もぼくにひどく呆れていて。借金の督促状や「お金を返して」と書かれた手紙が実家に山ほど届いてしまっていたんですね。自分との縁を切りたかったのか、家の鍵は変えられ、しばらくは家に入れてもらえませんでした。

ようやく家に入れてもらえたとき、父親がダンボールに溜まった督促状と手紙を見せながら「お前、これどうすんだ」と。そこでさすがに行動を改めなければならないと感じ、「全部返すから、半年だけここに住まわせてくれ」と頭を下げました。

──ご両親に借金返済の宣言をしたあと、すぐにはたらき始めたのでしょうか?

最初のうちは我慢できず、またパチンコ屋に行ってしまったんです。でも「このままだと親にも見放されて、本当に住む場所もなくなる」と思い、数日後には覚悟を決めて日雇いの仕事を始めました。

そこで出会った先輩が、ぼくと似たような過去を持っていて。「お前のことを放っておけない」「まだお前の年ならやり直せる」と気にかけて何度も話をしてくれたんです。そこから少しずつ、はたらくことへの意識が変わっていきました。

その人が繰り返し伝えてくれたのは、「人に必要とされることこそが、ぼくたちが次のステージへ進むためには不可欠なんだ」ということ。「俺たちは学歴があるわけでも、立派な経歴があるわけでもない。だからこそ、誰よりも人のためにはたらけ。誰よりも早く来て、誰よりも遅くまではたらいて、誰もやりたがらないことを率先してやれ。そうすれば自然と信頼されて必要とされる人間になっていく」と教えてくれたんです。

最初はもちろん、「はたらく理由なんて金のために決まっている」と思っていました。でも、あまりにも熱心に語られるので一度だけやってみようかなと。それからは、寒い冬でも誰よりも早く現場に行って誰よりも遅くまではたらき、人が嫌がることも率先してやってみました。先輩に言われたことを徹底的にやり続けてみたんです。

最初は周りから、何か裏があるんじゃないかと疑われましたが、3カ月も経つと「君がいないと困る」と言われるように。人生で初めて“人に求められる”という感覚を知った瞬間でした。

そうなると不思議なもので「店長はこれをやったら喜ぶかな」とか、「あの後輩には、これが必要かな」と人のために自然と動けるようになりました。人のために行動しているだけなのに、周りからの評価が上がって、勝手に昇給もして、お金までもらえるようになっていく。お金のためだけにはたらいていたときには、決して得られなかった感覚でしたね。

人力車に貼られた“差し押さえ”の札。東京力車の始まり

──借金を返済するまでの当時の状況を教えてください。

自分の行動を改め始めた26歳から、倉庫作業、宅配業、飲食業など、とにかくあらゆる仕事を掛け持ちして、死に物狂いではたらきました。借金を返すために最長68時間気絶するまではたらいて、自分の限界に挑んだこともあります。はたらき詰めの生活を続けた2年後、28歳ごろにようやく借金を完済。最後の返済をATMで済ませたときには、自然と涙が出てきました。口座の残高がゼロになっていたら、普通は「貯金がゼロに……」と泣く場面だと思うんですよ。でもぼくにとっては、「ようやく人に戻れた」という開放感と、努力が報われたうれしさがぶわっと込み上げてきました。

──借金を返すためにはたらいていた西尾さんが、東京力車を立ち上げたきっかけはなんだったのでしょうか?

借金を返済する1年前、27歳の時にフリーペーパーでたまたま人力車の求人を見つけて。「面白そうだな」と、軽い気持ちでアルバイトを始めてみたんです。ここでも毎日誰よりも早く現場に出て、誰よりも遅くまではたらき続けた結果、半年ほどが経ったころ社長から「社員になってくれ」と声をかけらたんです。何度も話してくれる社長の姿と言葉から、人生で最も“必要とされている”実感を得ました。そこで、当時何個も掛け持ちをしていたほかのバイトを全部辞めて、ここで社員としてはたらこうと腹を決めました。

社員になってからも「人のために」という想いではたらき続け、30歳からはリーダーとして人材育成にも携わるようになりました。自分が教えた研修生たちがどんどん育っていき、一つのチームになっていくのは本当にうれしかったですね。社員になってから6年が経った33歳のころには、結婚という大きな節目も迎えました。

ただ、当時の会社は赤字が続き、給料の未払いが常態化していて……。自分たちが育ててきた仲間が離れてしまうのが嫌で、ぼくは社長に「ほかのスタッフにだけはちゃんと給料を払ってほしい」とお願いし、なんとか支払いを続けてもらっているような状況で。でも当時の社長は、社員やアルバイトの生活よりも自分の利益を優先していたんです。

「みんなを自分が守らなければ」という強い責任感にかられたぼくは、最終的に自分の妻や親に頭を下げてお金を借り、社員の給料を立て替え、会社の家賃まで支払っていました。以前ギャンブルに依存していたころのように、追い詰められても限界に気付けず、冷静に考えられなくなっていたんです。

もちろん、そんな綱渡りのような日々は長くは続きませんでした。当時の社長は税金も滞納していたため、ある日突然、会社に国税局の査察が入ったんです。スーツ姿の職員たちがずらりと現れ、「動かないでください。今から差し押さえです」とまるでドラマのワンシーンのように、人力車すべてに差し押さえの札を貼っていたのを鮮明に覚えています。

どうしてもあきらめきれなかったぼくは、今日中にお金を払えば1カ月だけ差し押さえを延長できると聞き、あらゆる手段でお金をかき集めてなんとか時間を稼ぎました。そこから会社の立ち上げ方を一から調べて、当時一緒にはたらいていた仲間もはたらける場所をつくろうと設立したのが、今の「東京力車」です。

星5・口コミ7,500件超。人のために動けば結果はついてくる

──東京力車のGoogle口コミは、2025年7月現在で7,560件・星5と非常に高評価です。これだけ多くの人に支持される理由はなんだと考えていますか?

やっぱり“人”ですね。うちの価値は「人間」であって、人力車はあくまでツールだと考えています。たとえば今日が、お客さまにとって“人生最後の浅草”になるかもしれない。そんな貴重な一日を、流れ作業で終わらせていいはずがありません。人力車という手段を使って、「楽しかった」とお客さまに特別な体験を提供することこそがぼくたちの仕事。全身全霊でその人のために何ができるかを考え、笑顔で、爽やかに、ていねいに、日々全力でお客さまと向き合っています。

だから、東京力車では人材育成に本気で取り組んでいて、新人研修の厳しさはテレビでも紹介されたほどなんです。一般的に人力車業界の研修期間は長くても1カ月程度ですが、うちの場合は早い人で1カ月程度、長い人で2年かかります。卒業検定は突破率10%と難関なので、何十回ものチャレンジを経て、ようやく合格する人もいます。

いいサービスに正解はありません。お客さまごとにニーズは違うので、そこに応じられる「振れ幅を持った対応」ができないといけない。研修テストでは実際にぼくが全員の人力車に乗り、“嫌なお客さま役”を演じて、社員が本当に目の前の人のためを思った対応ができているかを見ています。

人こそが価値だと考えているため、採用の段階でも「お金のために来ないでください」とはっきり伝えていますね。世の中には稼げる仕事がたくさんあるし、お金を稼ぐことが目的なら、ほかにも選択肢はある。東京力車には「人のためにはたらきたい」という人だけに集まってほしいんです。

──「人のために尽くすはたらき方」が印象的ですが、それだけで本当に結果はついてくるのでしょうか。人のためだけに頑張っていても、お金にはならないと感じている人もいそうです。

ぼくは、「お金は副産物」だと思っています。お金が先ではなく、人のために一生懸命動けば、自然と人が集まってくる。結果的に、それが仕事や収入につながっていくものなんだと、過去の経験から身をもって学びました。

実際、稼いでいる人を見ると、みんな「世のため、人のため」に本気で向き合っている。逆に、ただルーティンをこなしているだけの人が、大きく評価されることは少ないと思います。

今の時代、「いい会社に入れば収入は安定する」という考え方はもう通用しません。どんなに立派な企業でも、環境が変わればどうなるか分からない。私益やお金のためだけを考えて動いていては、状況が一変した時に残るものは何もありません。でも、自分から人のために動ける人、周囲から頼られる人なら、どこに行っても生きていける。時間をかけて築いた信頼や関係性は、より豊かな自分をつくってくれます。これが本当の“安定”じゃないでしょうか。

まずは「今いる場所で必要とされる人」になる。目の前の誰かのために全力を尽くす。それだけで、人生は大きく動き出します。

──最後に、スタジオパーソルの読者である「はたらく」モヤモヤを抱える若者へ、「はたらく」をもっと自分らしく、楽しくするために、何かアドバイスをいただけますか?

「人のために」を軸に挑戦することでお金も経験もゼロになるのではないかと、不安を感じる人がいるかもしれません。でも、ゼロになったらまたつくればいいだけなんです。何を足して、どう彩っていくかを考えればいい。

ぼくも、もともとは何も持っていなかったし、むしろマイナスの状態でした。ですが目の前の人のために動き続けたことで、会社を立ち上げ、多くの方から応援していただけるようになりました。

ぼくにもできたのだから、あなたならきっと大丈夫。「自分には何もない」と思うなら、まずは人のためになることをやってみてください。そこから、すべてが始まっていきます。

「スタジオパーソル」編集部/文:朝川真帆 編集:いしかわゆき、おのまり 写真:朝川真帆

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ライター朝川真帆
フリーランス取材ライター。住宅系コミュニティマネージャーとしても活動中。2021年、新卒でコンビニの会社に入社し、数年後結婚を機に上京・退職。2023年に取材ライターとして独立した。現在はキャリアや事例導入、グルメなどのジャンルをメインに執筆中。フジロックのファンサイト、フジロッカーズオルグでもライターとして活動中。管理栄養士資格を持っている。関西出身。

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