“日本一ネットで顔が使われている男” 大川竜弥さんのシンプルな企画術
Web広告やニュースサイト、ブログなどで使われる「フリー素材」。自分自身をフリーの写真素材として提供しているのが、「自称・日本一インターネットで顔写真が使われている男」と称する、大川 竜弥さんです。
今年3月でフリー素材モデル10年目に突入する大川さんがこれまで提供してきた写真素材は、なんと2,700枚以上。フリー素材モデルをこなしながらも、俳優やライターとしても活躍しています。(「スタジオパーソル」でもライターとして記事を執筆)
そんな大川さんに、フリー素材モデルの仕事の内容とその企画術、そしてキャリアに至るまで詳しくお聞きしました。
そもそもフリー素材モデルって?
大川さん、フリー素材ってどう作っているのですか?
「こんな素材あると良いかも」というアイデアが思いついたら、すぐにカメラマンに「こういうの撮りましょう」と連絡します。
時事ネタに関連するアイデアは、思いついてからすぐ撮影して、1週間以内にはアップロードまで終えています。ネットの流行りはすぐに廃れますから。
写真の選定も一応してはいるのですが、撮影したデータでNGを出したことは、実は9年間で一度もないんですよ。カメラマンを信頼していますし、スピード感を重視しています。
フリー素材モデルとしての報酬は?
0円です。
どんなにダウンロードされようが、ミリオンヒット作になろうが、0円です(笑)。
ただし、僕が所属しているフリー素材サイト「ぱくたそ」には、企業から依頼をいただきフリー素材の撮影をすることがあります。それは出演料をいただけるのですが、割合としては一部ですね。
露出が多くなればなるほど、儲かりそうなものですが……。
よく言われますが、フリー素材だけでは利益はでません。
なんせ“フリー”ですから。
どうやって収益を得ているかでいうと、素材をご覧になった企業のマーケ担当者の方などから、「うちの広告に出て下さい」といったお仕事をいただくことで、報酬をいただいています。 最近では、動画広告やミュージックビデオの出演依頼なども増えてきました。
もはや俳優ですね。
フリー素材として、印象に残っている使われ方をしたことはありますか?
一番驚いたのは、僕がヘッドホンを付けている写真が、新宿の『ビックロ』の、ヘッドホン売り場のポスターに使われたことです。ネットじゃなくても素材が使われるのだという、新鮮な発見でした。
あとは、ドラマ『カルテット』にも”出演”しました。
レストランの演奏ステージの楽屋に貼ってあるポスターで、ドラマを見ていたらたまたま見つけて。シリアスな展開のときに、後ろにずっと自分が映っているんです。不思議な感覚ですよね。
ペルソナを決めずに、「すぐにやる」
どのようなフリー素材が、ユーザーに多く使われるのですか?
使っていただけるフリー素材には、ある共通点があります。
それは「使い方が何通りも思い浮かぶかどうか」です。
僕の初期のヒット作に、『もしかして、年収低すぎ!?』という素材があります。 もちろんタイトル通り「年収低い男性」にも見えるのですが、落ち込んでいるようにも見えるし、口臭を気にしているようにもみえます。
だからこそ、いろんなシーンで使っていただける素材になりました。
逆に言うと、用途が限られる写真は、使われないということですか?
そうです。
たとえば、僕が農家っぽい服装をしてキャベツを持ってるフリー素材あるんですけど、驚くほど使われませんでした(笑)。
ぱっと見、使うシーンが思い浮かびそうな写真ですけど、実際にはシチュエーションがかなり限定されています。
逆に、想定していなかった使い方をされると、僕もうれしいですね。
でも、シチュエーションを決めないと、考えるのが難しくないですか?
どうやって企画を?
昔は、結構考えていたんですよ。「こういう構図で、ポージングをして、タイトルは……」って。
でも、フリー素材モデルを始めて1年くらいたったあたりから、企画ってそこまでカッチリとしていなくてもいいんじゃないかな?と思うようになりました。
普通は、企画って、ターゲットや、使われるシーンを想像するとことから始めますよね。
その真逆を行っているのが面白いです。
予算をかけてヒットさせなければいけない仕事であれば、それも大事だと思います。
でも、フリー素材モデルは、いくらすべっても許されます。こういう仕事の場合には、とにかくやるということが大事。
「大川さんは、どうして日本一のフリー素材モデルになれたの?」とよく聞かれるんですけど、単純に誰よりも早く始めたというのと、誰よりも数をこなしたから。あとは、毎日どんなふうに世の中のフリー素材が使われているかは、よくチェックするようにしています。
自分が失敗だと思わなければ、失敗ではない
フリー素材モデルになる前は、何をされていたのですか?
まず、19歳のときにユニクロにアルバイトで入って、4年間はたらきました。
でもテナントが閉店しちゃったので辞めざるをえず、「これからはITの時代だ」と思ってweb制作会社に入りましたが、知り合いからライブハウスの店長職に誘われて、1年で転職しました。
その後も、芸能プロダクションでプロレスラーのザ・グレート・サスケさんの付き人をしたり、家電量販店のスタッフをやったり。 転職は、基本受け身でした。その中で、フリー素材モデルだけは、頭を使ってはじめた仕事です。
なぜ、フリー素材モデルを?
交通事故で家電量販店のスタッフができなくなり、どうしようかと考えたのですが、SNSなどが流行り始めた2012年に「これからITの時代だ」という2回目の自己ITブームが来まして。
いろいろ調べていたら、フリー素材というモノがあるのを知りました。でも、名前もプロフィールも出して活動している人はいなかったんです。
いま取り組めば第一人者になれるし、スキルも特技もないけれど、顔を出すだけなら自分にもできると考えました。
「フリー素材モデル」という肩書をつくって、顔だけでも広まれば、その後の仕事のオファーに繋がると思っていましたし、実際にそうなっています。
思ったらすぐ行動するタイプですよね。
いや、頭使うのが苦手なんですよ。
迷うくらいなら、やっちゃおうと。
もっと考えればよかったと、後悔しませんか?
仕事上「こうしておけばよかったな」という反省とかはしますが、後悔はしません。
だって、何かをやりなおせるわけでもないじゃないですか。たとえ周りの人が失敗だと思っても、自分が失敗だと思わなければ失敗じゃないですし。
逆に、成功すれば、それは誰かに支えてもらえている証だと思ってやっています。
フリー素材モデルという仕事も、大川さんご自身にフィットした仕事だと思いますか?
そう思っています。一番の理由は、「物事に興味関心がないから」ということですね。
フリー素材モデルが、たとえば好き嫌いがはっきりしていたり、こだわりが強すぎたりすると、それが素材に現れてしまうと思うんです。 自分を魅力的に思っていれば、「もっと私を見て」という写真になってしまいますし。自分にも興味がないので、フリー素材向けの性格かなと思います。
やってみたい仕事はありますか?
今までにやったことがなくて、驚いてもらえるような仕事をしたいですね。
目標に掲げるには高いですが、あいつ『an・an』の表紙やってるぜ!とか、しれっと映画でジェイソン・ステイサムの後ろに映り込んだりとか(笑)。可能性はゼロではないと思うんです。
昨年はTV-CMに出演したことで、喜んでくださる方が多かったんですよ。自分が「こういう仕事をしたい」というよりは、応援してくださる方が喜んでいるのがうれしい、という感覚です。
徹底した準備が、楽しさにつながる
スタジオパーソルの「はたわら」は、「はたらいて、笑おう。」の略ですが、 大川さんがはたらいて笑うために心がけていることは何ですか?
撮影の現場の雰囲気を良くすること。
そして、そのための準備を徹底的にやることです。
詳しく教えてください。
はたらいて笑うためには、場の空気が良くないと、前向きになれないじゃないですか。撮影の現場も、楽しく仕事をして、予定時間よりも早く終わって帰りましょうとなるのがベストです。
そのためには、撮影の前に「こういう角度で映ろう」というイメージまでしっかり持って当日に臨みます。その場を楽しむためには、相応の準備が必要だと思います。
そう思ったきっかけは?
接客の経験が大きいですね。接客って大変で、毎週入ってくる新商品を暗記して、キャンペーンにも対応しなければいけません。
ユニクロ時代も、新商品の知識は完璧に頭に叩き込んで店頭に立ちました。
お客さんに質問されて「確認するのでお待ちください」と返すのって、ちょっと失礼じゃないですか。事前に調べて対応するというのがサービスだと思っていますし、この経験が、今の仕事の下地になっています。
お金を出してくださる方がいて、満足してくれる人がいる。その人たちを楽しませたいですし、だからこそ準備が大事だと思います。
色々な仕事を経験されてきて、それが今に生きているのですね。
どの仕事も、今の仕事に繋がっていると感じます。
ほかにも、たとえば芸能プロダクションでは現場での立ち振る舞いや謙虚さについて学びました。それも今に生きています。
若くて転職回数が多くて悩んでいる人とかいると思うんですけど、人にできない経験を数多くしてみるのって、全然悪いことじゃないですよ。
勇気になる言葉ですね。
振り返れば大変だったな……っていうことって、誰しもあると思うんです。
でも、それはまだ振り返るだけの余裕があるってことでもあります。
あのときこうだったな」って、今の自分に余裕がないと思えないですからね。余裕があるなら、あまり深く考えなくてもいいと思いますよ。
何をやるにしても、真面目に取り組んでいたら、それでいいんじゃないですかね。
※本取材はclubhouseにて公開で実施しました。大川さん許諾のもと本記事に掲載しています。
(文・インタビュー 石山 貴一)
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