人気の『PUI PUI モルカー』がガシャポンでも大ヒット!担当者に聞く企画実現までの舞台裏
モルモットと車を融合させたキャラクター、「モルカー」の日常を描いた『PUI PUI モルカー』。今年初頭、ストップモーションアニメ形式のアニメが放映されると、その愛らしさがたちまち大人気となり、今夏には映画も公開されました。
そんなモルカーが、バンダイのカプセルトイ、「PUI PUI モルカー ならぶんです。」としてシリーズ化。早くもファンたちが全5種を並べた画像をSNS上でアップするなど、大きな盛り上がりを見せています。
果たして、世間の人気やトレンドを見逃さず、スピーディーに商品化にこぎつける秘訣は何か?カプセルトイの開発に10年以上携わってきたという、株式会社バンダイ ベンダー事業部の石川 明日香さんに話を聞きました。
フィギュア化のきっかけは、SNSのリアルタイム検索
――今年、急速に人気が高まっている『PUI PUI モルカー』ですが、石川さんがガシャポンの商材として着目したきっかけは何だったのでしょうか。
日ごろからSNSのリアルタイム検索に注目するようにしていて、ちょうどTVアニメがスタートしたころ、Twitterのトレンドに『PUI PUI モルカー』があがっているのを見つけたのが最初の出会いでした。実際にアニメを視聴してかわいさに魅了され、ぜひ商品化したいとその日に企画をまとめたのがきっかけとなります。
――非常に瞬発力のある動きですが、これは普通のことなんですか?
いえ。急激にSNSが盛り上がっているのを見て、早めに動かなければ他の担当者に先を越されてしまうかもしれないと焦っていたんです(笑)。とにかく企画書をまとめなければと考えていました。
――社内でもそんなシビアな競争があったとは、ガシャポンの知られざる舞台裏ですね。
そうですよね。第1話でモルカーたちがずらりと並ぶシーンがあったんです。それを見たときに、ガシャポンとの相性の良さを直感し、企画として成立すると確信しました。
――ここでいうところの“相性”とは何ですか?ガシャポンに向いているモチーフの条件があれば教えてください。
やはり目にした人が集めてみたくなる、コレクション性は大切だと思います。カプセルトイは競合の多いジャンルで、他社様からも膨大な数の商品がリリースされていますから、1個で満足できる物よりも、「全部集めて並べてみたい」と思っていただけるようなラインアップを取りそろえることは重要です。
もちろん、モルカーたちのかわいいフォルムもガシャポンとして魅力的な要素です。アニメを見た際、一つひとつのモルカーが実に表情豊かだったのが印象的で、ちゃんとそれぞれの個性を持っている点もフィギュアに向いていると感じました。
――その後、社内で企画が成立するまではスムーズに運んだのでしょうか?
そうですね。急速に人気が出たキャラクターなので、上司も最初は知らなかったようですが、SNS上で大変盛り上がっていたので、特に反対されることはありませんでした。それに事業部の特性として、なんでもチャレンジさせてくれる土壌があるのも大きかったですね。熱意をちゃんと企画書に落とし込めば、「とりあえずやってみよう」と言ってもらえることが多いです。
――それは素晴らしいですね。では、やりたい企画はほとんど実現できるんですか?
基本的にはそうなのですが、中にはどうしても通らなかった企画もありますし、実現したものの売れなかった企画というのもあります。このあたりは私もまだ勉強中で、お客さまのニーズをしっかり読み解かなければと思っています。とくに既存のキャラクター物ではなく、オリジナル商品の場合は、個人的な感性で判断しなければならないので尚更ですね。
――実際にフィギュア化するにあたり、制作過程で苦労されたのはどのような点でしょうか。
原作と照らし合わせて忠実に形状を再現するのは大前提ですが、特にこだわったのは目でした。ただ大きい黒い丸を配置するのではなく、透明コートをかけてツヤ感をだし、目が輝いて見える工夫をしています。このあたりはこれまでファンシー系のキャラクターを多く担当してきた経験に基づいています。目があったときに「可愛い」と感じてもらえなければ、お客さまの支持は得られないので。
また、こうしたフィギュアは製造の行程上、どうしても分割線(繋ぎ目)が入ってしまいます。モルカーに限らず、これをいかに目立たなくするかというのは、常に頭を悩ませているポイントですね。そのためいつも金型をつくる際に、原型師の方と何度も細かくすり合わせて、最善の方法を模索しています。
――そうした苦労の甲斐あり、SNS上ではたくさんの写真が投稿されるほど人気を呼んでいます。
おかげさまでご好評をいただいております。何よりうれしかったのは、さまざまなミニチュアと組み合わせてモルカーを並べた写真がSNSにあがっていたことです。こちらの思いも寄らない遊び方をしてお楽しみいただけているのは、担当者冥利に尽きます。
インバウンド需要減で様変わりするガシャポン市場
――現在のガシャポン市場において、メインターゲットはどのような層ですか。
商品によってばらつきはありますが、今回のようにSNS上で話題になっているシリーズは、比較的大人の方が中心と考えられます。モルカーの場合はさらに、キャラクター特性から考えて、女性のファンも多くいることを当初から想定していました。
ただし、アニメが朝7:30から放映されていたことからもわかるように、モルカーは子ども層をターゲットにしたキャラクターです。そこで商品化の際には対象年齢を「6歳以上」と設定し、小さなお子さまが飲み込んでしまうリスクのない大きさで設計するなど、安全面に配慮しました。
――石川さんがこのジャンルに関わるようになってこの10年、業界内のトレンドはどのように変化していますか。
当初はアニメキャラの商品が大人気で、ガシャポンを含めさまざまなグッズが店頭に並びました。人気キャラのコアなファンによって支えられていた市場だったと感じますが、そこからミニチュア系のグッズなどに人気が飛び火したことで、幅広い女性層までニーズが広がっていったのではないでしょうか。
――コロナ禍以前は、海外からの観光客にも大人気でした。
そうですね。海外の方にとってはこうした玩具の売り方自体が珍しく、空港に設置したガシャポンは、お土産需要でよく利用されていました。その意味では昨今のインバウンド需要の冷え込みは、私たちにとって厳しい要素ですが、一方で、国内では今回のようなキャラクター物やミニチュアシリーズに人気が集まっており、ガシャポンは身近なエンターテイメントの一つとなっております。
また、ガシャポンを多数集めた「ガシャポンのデパート」が各地に増えていて、お客さまとのタッチポイントはむしろ以前よりも拡大しています。
――そうした中で、石川さんが新たな企画をたてる上で大切にしていることはなんでしょうか。
ガシャポンはトレンドをいち早く掴まなければいけないジャンルです。そのため、SNSのリアルタイム検索は毎日欠かさずチェックするようにしていますし、街の雑貨屋などでも日ごろから、それとなく流行りの商品に目を配るよう心掛けています。純粋に、いち消費者として「これ、かわいい!」と感じたなら、必ず何か理由があるはずなので。
また、魅力あるキャラクターをそのままフィギュア化するのではなく、市場のニーズと掛け合わせる工夫も必要だと思います。他社さまの商品も含め、その時期によく売れている商品、話題になっている商品の傾向を掴み、キャラクターと掛け合わせてより話題性の高い商品に仕上げていく、ということですね。キャラクターの世界観を上手くガシャポンに落とし込んで、お客さまに喜んでいただける商品を提供することを心がけています。
――最近、SNS上で大いに話題になった「影絵の手」も、石川さんが手掛けた商品なのだそうですね。
これは2人の息子と寝る前に影絵で遊んでいたときに思いついた企画でした。ちょうど最近はアニマル系のガシャポンが好調だったので、それなら影絵と組み合わせればいいのではないかと考えたんです。こういう、ちょっと突拍子もないオリジナルの商品が実現するのも、チャレンジさせてくれる土壌があればこそで、結果的にご好評いただけてほっとしています。
同じく10月には「アニマル球儀」という、動物と地球儀を組み合わせたオリジナルのガシャポンが発売される予定です。こういうアイデアは、プレゼンしてもすぐには理解してもらえないことが多いのですが、なぜ自分はこれが売れると思うのか、どこが魅力的なのかを、丁寧に説明して実現にこぎつけています。結局、やりたい企画を通す際、最後に物を言うのは熱意かもしれませんね。
――まだまだ、やりたいことは尽きない様子ですね。最後に今後の目標を教えてください。
いつも悩みに悩んでどうにかアイデアを絞り出している状態なので、具体的に温めている企画というのは正直ありません。最近はキャンプにハマっているので、キャンプグッズなどで何か面白いことをやれれば……と漠然と考えています。まだチャレンジしていないことがたくさんあるはずなので、今後も楽しみながら、少しずつ新たな領域を探していければと思っています。
©見里朝希JGH・シンエイ動画/モルカーズ
(文・友清 哲 画像提供・バンダイ)
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